俺には好きな子がいる。1組の水瀬柚さん。入学式の日、全校の前で新入生代表のあいさつをしていた子で、入学したてで心がうきうきしていたせいか、彼女に一目惚れした。それから月日は流れ、今はお互い3年生。クラス替えの度に同じクラスになれるよう祈りに祈ったし(神社にお参りにも行ったんやで!)張り出されたクラス表も自分よりも友達よりも先に彼女の名前を探したのに、結局毎年違うクラスになってしまった。神はいないのだと悟った。

 って、そうじゃなくて。そんな感じでただ見ているだけで幸せだった俺に愛想を尽かしたのか、白石と財前が言った。

「告白してこい」

 告白…、告白。告白ぅ!?んなもん無理に決まってるやん!あいつの名前を見るだけで恥ずかしくて嬉しくてうあああってなるのに。告白なんか、できるはずないやんか…。


「ぶっちゃけ謙也さんウザいねん。“今日目ぇ合った!”とか“あいつの好きな食べ物モンブランやて!”とか、いちいち聞かされる身になれっちゅう話や」
「コラ財前、そないなこと思ってても口にしたらアカン!」
「思ってたんかい…」
「…まぁ、言ってみるのも悪ないと思うで?もう2年以上好きなんやろ?」


 そう、片想い歴は2年を越えた。確かに最初は一目惚れやったけど、その思いは毎日毎日大きくなっていって。まじで好きやねん。


「って、なんで俺ら2組におんねん!」
「俺と財前はこの柱の影から見てるから、行ってきぃ。彼女、放課後は本読んでるんやろ?」
「…っ、いやいや!心の準備っちゅうもんが」
「ええからはよ行ってきて下さい」


 バンっと財前に背中を押され、1組の教室の前に来た。「あ、水瀬柚さんおる?」と聞いたら、「ちょお待っててな」と言われ、後ろのドアで待機している手汗が尋常じゃない。あああめっちゃ緊張する!今すぐ部室帰りたい!
 後ろを振り向くと、白石と財前がニヤニヤしてこっちを見ていた。くそ、あいつら面白がりよって…!


「えと、」
「あ、」
「お、忍足くん?」


 不思議そうに彼女は言う。あああかわええ!めっちゃかわええ!どないしよ!ってそうじゃなくて、今まで一度も話したことないのだ。いきなりの呼び出しに疑問をもたないわけがない。
 俺は首を縦にふった。


「あんな……、」
「?」
「も、もももし暇やったら、……イヤやなかったら、なんやけ、ど」

 カミカミやんけ!しっかりせぇ、俺!


「今度の、今週の……日曜、」
「うん?」
「お、俺、用事なんもないねん!」
「…そう、なんだ?」


 あああ何やねん俺!なんで暇アピールしてんねん!今さらやけどめっちゃヘタレやな。こんなん言われたら普通に反応に困るやろ。


「で、良ければ……」
「うん、」
「え、ええっと」
「?」
「え、」
「え?」
「……え」
「え?」

「枝豆やるわ!」




 結局、ポケットから出した枝豆を水瀬さんに渡し、逃げるように2組の教室に戻ってきた。案の定、二人は爆笑している。


「やってもうた…何やねん枝豆やるわって、水瀬さんめっちゃ困ってたやん……」
「け、謙也さん。結構かっこよかったっすよブハッ!」
「ていうかなんでポケットに枝豆入ってんねん!ブハッ」
「二人とも笑うなや…」
「せやけど、なぁ財前」
「謙也さんのヘタレっぷりが爆笑ものやったんで。今日のブログのネタっすわ」


 白石と財前は一通り笑った後(失礼な奴らや!)、次の作戦を考え出した。アカンわ、ダメージでかいねん。だって俺の第一印象“枝豆の変なヤツ”に決まりやん。もう今日は帰りたい…。


「もうまどろっこしいことなしで、今告ったらええやん」
「せやけど部長、あの映画にも誘えなかったヘタレに告白は無理っすわ」
「んーっ、エクスタシー!」
「なんで今のタイミングでエクスタシーやねん!」


 その後も、二人が悪漢になりすまして彼女に絡みそこを俺が助けるとか(アホやん、めっちゃアホやん)、ラブレターを渡すとか(女々しい!)色々案は出たんやけど、結局「「もういいわ!告れ!」」と言われ、再び1組の教室に来てしまった。2回も呼び出すなんてめっちゃ変なやつやん。あああスマン!なんか分からんけどとりあえずスマン!


「何回もスマンな…」
「ううん、…ふふっ」
「ど、どないしたん?」
「…忍足くんって面白いんだね。ちょっと怖いかなって思ってたんだけど」


 笑った!!ふふって笑っためっちゃかわええ!しかも面白いって!これプラスの評価やんな!?しっかりせぇ俺!


「今日、さ…」
「うん、ふふっ」
「ちょ、いつまで笑ってんねん!」
「ごめんごめん、…今日?」
「おん。よ、よかったら」
「?」
「一緒に、か、帰らへん?」




 言った!頑張った俺!彼女は一瞬びっくりしたみたいだったけど、すぐにOKしてくれて。白石と財前は相変わらず爆笑してて、俺の心臓は今までにないくらいバクバクドキドキしていた。

(あぁもう、幸せすぎる!)



「忍足くんって家こっちの方なんだ」
「お、おん。郵便局の、裏の」
「へぇ。じゃあ結構遠いんだね」
「そ、そやな」


――――
ヘタレな謙也も好きです。

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