!捏造注意。幸村の手術が失敗して、亡くなった設定です。
昨日ふった雪が既に溶け始めていて、歩く度にしゃりしゃりと音をならす。けれども今日もまた寒くて、私はマフラーに顔を埋めた。
「幸村、」
お墓の前で手を合わせるのは何度目になるだろうか。最初は現実を受け止めたくなかったからかここには来れなくて、そのうち何度も何度も通ってはその度に涙を流した。
「幸村、あのね」
あの後、やっぱり幸村の死という壁は大きくて、全国3連覇はできなかった。ごめんね。
「赤也がね、幸村の後を継いでくれたんだよ」
あのアホで子供っぽくて生意気な赤也が、今じゃ部長として立海をひっぱっていってる。来年こそは優勝するんだ、幸村部長に優勝旗を見せるんだって。毎日がんばってるよ。
「私たち三年生も、いよいよ受験かぁ」
クラスもいよいよ受験モードに入ってきて、学年集会も配られるプリントも、ほとんどが進路のこと。
そのせいか、最近はめっきり元テニス部のみんなに会うことはなくなって。みんな忙しいんだよね。
「私も勉強がんばるよ。高校行ったら、テニス始めようかなって思ってる」
柳生と蓮二は頭がいいから、きっとレベルの高い高校を受験するんだと思う。真田も推薦がきてるって言ってたし、ブン太もジャッカルも仁王もそれなりに頑張ってるみたい。
「みんな、頑張ってるよ」
みんな、頑張ってる。前に進もうとしてるのは良いことなのに。
どうして涙がでるんだろう。
私は歪んだ視界をふいた。涙は止まることを知らない。
「…みんな、離ればなれになっちゃう」
毎日日が暮れるまで練習して、バカみたいに騒ぎながら帰って、教科書と格闘しながらテスト期間をのりきって。そんな日々がひどく懐かしく感じた。
戻りたいと言えば、それは嘘ではない。仕方ないというのも分かる。
ただ、私が寂しいだけなんだ。みんながいる生活が当たり前だったから。
「幸村も、そうだった?」
ただ前だけ見て走っていかないと、置いていかれそうで。みんながギリギリで生きてる気がする。
だからこそ、幸村のいるこの空間が好きだった。時間が止まっているようで、すごく落ち着く。
顔を上げると、ふりはじめた雪が視界に映った。辺りを白く包む。
ふわり
確かに感じた、雪の中のぬくもり。一瞬でわからなかったけど、あれはきっと幸村だ。微笑む幸村を、ふわりと舞う雪の中に見た気がしたんだ。
「そうだよね、幸村」
無理をしてでも、幸村もみんなも前に進んでるんだ。私も強くならなくちゃいけない。
ぐっと歯を食いしばって、コートの袖で涙を拭った。何度も、何度も。
「次来るのは、“合格”を持ってくるときかな」
「もう少し、走ってみるよ」
気づけば雪はやんでいた。雲の合間からは、きらきらと太陽の光がのぞいていた。