朝、部室にて。

「おはよー、赤也が勉強とか珍しいね。今日生魚でも降ってくるんかな」
「気持ち悪!想像しただけで吐き気が…っ」
「うるさいジャッカル」
「今日小テストがあるんだと」
「へぇ、いつもなら勘と六角鉛筆に頼る赤也が勉強?」
「……ここのxが、…」


 ジャッカルとブン太の話によると、昨日の部活が終わった後みんなで着替えをしていたときに事件は起こったらしい。

「今日どっきりのテレビやるらしいよ」
「へぇ、今度紳士に仕掛けてみようぜ」
「アデュー」
「いだだだだ、なんで俺なんすか!」


 いつものように談笑しながら、赤也はついかばんをひっくりかえしてしまった。数枚のぐしゃっとなった紙がばらまかれる。それが真田の足元に着くのと、トップ3以外の顔が「やっちまったな赤也」と歪むのはほぼ同時だった。


「なんだこの点数はぁああ!!王者立海の誇りはどうした切原赤也!」
「……返す言葉もございません」
「まったくもってたるんどる!」
「……おっしゃる通りでございます」


 先日の中間テストの回答用紙だった。しかもよりによって赤也の苦手な英語を含み、落書きまでしてあるとくれば皇帝真田弦一郎は黙っちゃいない。赤也は仁王立ちする真田の前でコンクリートに額をけずられるまで土下座をし、爽やかな汗を流した部活のあとの和やかな雰囲気は一変、恐怖の説教地獄になった。


「ジャッカルと丸井と仁王もそこに直らんか!」
「え、なんで」
「その髪色は風紀委員として黙ってられん!今すぐ黒に直せ!」
「ジャッカルはハゲぜよ」
「校則違反だ!」
「坊主が!?理不尽だ!」


 そんな経緯があって、今日の小テストで満点をとらなければ赤也はレギュラーから外されるらしい。ドンマイ赤也、英語じゃなくて数学でよかったね。


「先輩、反比例ってなんですか…」
「……」
「ダメだこいつぅぅ」
「え、今更それ!?今日グラフのテストじゃないの!?」
「もうダメだ俺…、皆さん俺がいなくなっても全国3連覇成し遂げてくださ、い…」
「赤也ぁぁぁあっ」


 しかもよりによって部室にいるのはブン太とジャッカルと仁王と私。だめだ、せめてジェントルマンや参謀がいれば希望はもてたが、このメンバーじゃ希望もクソもない。ブン太のロッカーの中に赤点の数学のテストがぐしゃっと丸められて入っているのを、私は知っている。



「赤也ぁっ、君のいなくなった穴は私が埋めるからぁっ」
「お前はテニスからっきしだろぃ」
「線香持って必ずお参りに行くからぁっ」
「おいぃぃ、勝手に殺すな!」
「早う参謀かヒロシが来ればええのぅ」


 「わかんねぇよ何だよxってもう数学なんて滅べばいいよ」と死んだ目をした半死状態の赤也の横で、私は目薬で涙を演出させたり、ブン太はお菓子を頬張ってたり。おいおい、誰か助けてやれよ。そんな状況である。

 私は自分のロッカーに入ってる板チョコに手をのばした。…え、ない?板チョコはなかった。昨日あんなに買いだめしといたのに。


「おいコラブン太…」
「な、何だよ」
「てめぇか私の板チョコ盗んだのはぁぁ!!」
「な、違ぇよ!なんで俺なんだよ!」
「お菓子関係の犯人はお前以外に誰がいる!このガム野郎!」
「だから違ぇって!そんくらい自分で買うし」


 ブン太の必死な顔を見ると、どうやら違うらしい。
ボキボキボキ。
さぁて血祭りにあげられるのはどいつかなぁ…!!


「てめぇか仁王」
「違う」
「じゃあハゲか」
「違う」


 ギギギギ、私の首は音をたててある人物の方へ向く。奴は先ほどとは違う汗をダックダク流しながら、震える手でシャーペンを握っていた。


「てめぇか赤也ぁぁぁあっ」
「いだだだ、違うんです!話を聞いてくだせぇ」
「じゃかあしい!板チョコの仇を打たせてもらおうかぁ!」
「だだだだって机の上に置いてあったんすよ!誰のか分かんないし食べてもいいって思うじゃないっすか!」
「は!?私はロッカーに…」


 昨日、たしかロッカーに……入れてなかった。そうだ、部活を抜け出してコンビニに行って、帰ってきたら幸村に呼ばれたから板チョコを机に放置して出てったんだった。……でも今更、ねぇ?


「そ、そんなの知らんわこのワカメ野郎!あんた、潰すよ…!
「ぎゃぁあああっ」
「あ、真田たちおはよー」
「…なんだこの状況は」
「板チョコ事件」
「赤也、真面目に勉強せんか!!」


 翌日、奇跡的に満点をとった赤也はニヘニヘしながら部室に来た。「板チョコはどうしたコルァ!!」身体中には湿布がはられていたらしい。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -