今日の5、6時間目は大好きな家庭科だった。なぜなら美味しい食べ物を得られるから。味見係とはまったく楽しい係である。
しかし今日は違った。「マフィンを作りましょう」どうもあのパサパサとももちゃもちゃとも言えない食感が苦手である私は、仕方なく作ったものの食べれないから楽しくない。友達たちは跡部様にプレゼントしたいとか、忍足くんの口にあうかなとか頬を染めながら談笑している。後で跡部の靴箱でも覗いてみよう。きっと大変なことになってるぞウヒヒ。
さて。
今、私の目の前には友達がラッピングしてくれたマフィンが2つある。1つはその友達にラッピングの見返りと称して強奪された。「もちゃもちゃ、うんまぁ普通に美味い」…どうやら普通に美味しいらしい。
いつもなら「ひゃっほーい!」とか言ってもさもさ食すのだが、如何せん、マフィンなのだ。私が苦手とするマフィンなのだ。食べたいけど食べられない。お腹はぐぅと鳴いて早くマフィンでも何でも寄越せと言っている。しかしマフィンなのだ、無理なお願いだ。
どうしよう。テニス部の連中にあげる…べきなのかな。いや、アレだからね、別に普段キツくあたりすぎてちょっと申し訳ないからとかいう理由じゃないからね。ただ私がマフィンを食べると100%リバースするからだからね。
まず頭をよぎったのは、部長の跡部だった。しかしよく考えてみれば、あんなボンボンは普段から最高級のものばかり食べているんだ。口にあうはずもないし、他の女子が跡部にあげるので間に合っているだろう。
「あーん?マフィン?フランス王室御用達のなら家にあるぜ」
じゃあ、忍足?…あの変態はだめだ。何かをあげれば、勝手に脳内変換されて告白と勘違いされること間違いない。
「それくれるん?こんな人前で…っ、水瀬も意外と大胆なんやなぁ。せや、俺子供は3人欲しいねんけど…」
むかつく。
「納豆味じゃない?じゃあいいや」とか「味はまぁまぁですが、形が悪いですね。途中で空気ぬきましたか?これしないと熱で中の空気が膨れるんですよ。そもそも…」とか、色々と考えた結果、1番もらわなさそうで1番喜んでくれそうな樺地とサラッと受け流してくれそうな宍戸に渡すことにした。
そうと決まれば行動に移そう。私は今、2年B組の前にいる。「樺地くんいますか?」と聞けばすごくびっくりされた。
「先輩…何ですか…?」
「あ、これ家庭科で作ったんだけど…。よかったらもらって」
「……僕に?」
「うん。味はたぶん大丈夫だと思うよ」
「本当に…?」
「どういう意味だコラ。私だってマフィンくらい美味しく作れるから!」
「……ありがとう…ございます」
か、かわいっ!!
え、ちょ、可愛いよ樺地!なんでそんなに顔赤くなってんの!?身長190センチの人間がちっこいマフィンを大事そうに抱えてるとか、激しく萌えるんですけど!
私はホクホクした気分で3年C組に向かう。可愛い樺地も見れたし、何より喜んでくれたみたいでよかった。
「宍戸よ、これをお主に与えよう」
「なんだこれ?菓子か?」
「小麦粉に色々入れてカップ型に焼いたケーキ風のものだよ」
「マフィンな。くれんのか?」
「うん」
「えーなになに!宍戸ばっかりズルいCー!」
元気な慈郎ちゃんが現れた。ごめん、君は寝てると思ったからあげなくていいかなと思ったんだ。その笑顔が苦しいぜ。本当ごめん…!
「ごめん慈郎ちゃん。一個しかないんだ」
「だったらこれ分けて食おうぜ。はい、半分」
「マジマジありがとー!!うん、美味しいー!」
「宍戸…!」
お前はなんていい奴なんだ…!!
私は色々と誤解していたようだ。宍戸はこんなにもいい人だったんだね…!テニスバックにボールつめこんだり帽子の裏側に落書きしてごめんよ。慈郎ちゃんも相変わらず可愛いし。この幸せな気持ちだったら、マフィンくらい、マフィンくらい食べられそうな気がするんだ。
「ウボェエエエエ」
「ちょ、大丈夫かお前!」
やっぱりマフィンとは仲良くなれないらしい。帰りにポッキーを買って慈郎ちゃんと帰ろうと思います。