私は今、究極の状況にいる。選ばなければ私に明日はない。もう、時間もないのだ。片方は常に私を支えてくれて、気づけばいつも側にいてくれた。その当たり前が幸せだった。もう片方は、ずっと昔から片思いしてた人。爽やかで、それでいてどこか甘みをもつ微笑み。そのすべてが私を引き寄せた。


「私に…。私にどうしろっていうのよ!!」


 ガクッと、自動販売機の前で膝をつく。いつも飲んでるストレートティーか、新発売のピンクグレープフルーツジュースか。究極の二択を迫られていた。この蒸し暑い状況で一刻も早く水分を摂取しなければ、私の明日はない。


「そんなんどっちでもええやろが。迷ったらコーヒーや」
「あっついのしかないじゃん!」
「コーヒーはホットって相場が決まってんねん」
「今一番飲みたくないよ、ホットコーヒー。白石が買えばいいじゃん」
「俺はお茶しか買わへんもん」
「健康バカめ」


 今こいつに関わってはだめだ。一刻も早く、選ばなければいけないのだ。
 私は、このクソ暑い中に飲むストレートティーの美味さを知ってる。しかし、このピンクグレープフルーツジュースのパッケージが、いかにも“暑い夏にピッタリ!心も身体もリフレッシュ”な感じに果汁を飛ばしている。おっとよだれが。しかも、新発売!この言葉に女の子は弱い。そして、ただのグレープフルーツじゃない、ピンクグレープフルーツなのだ。


「どうしよう〜…!」
「もう両方買えばええやんか」
「それは何か負けた気がする」


 隣で白石が美味そうにお茶を飲んでいる。その余裕な笑みごとぶっ飛ばしてやりたい。
 暑い、だめだ判断力も鈍ってくる。もう、ピンクグレープフルーツジュースでいいじゃないか。たまには挑戦してみよう、新しい一歩を踏み出すんだ水瀬柚!
 ……待てよ。もし、もしもヤツが美味しくなかったらどうすればいい?何か負けた気がする。暑いし早く喉を潤したいし、無難にストレートティーにしとくべきではないのか。


「あー!白石と柚やん。何しとるん?」
「柚は自販と格闘中やで、金ちゃん」
「…よし、決め」
「ワイこれがいいー!」


 ポチッ、金ちゃんがスポドリのボタンを押す。

「あ、」
「柚ー!ありがとうなー!」
「……ああああああっ!!!」


 こんなことになるなら、お金を入れとかなければよかった。せめてきっちり120円にしとけばよかった。
 金ちゃんの無邪気な笑顔とさんさんと照りつける太陽に、怒る気さえなくした中3の夏。


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