世界を救う気はないかい?
最近、空に一際明るい星が目立つようになった。
ニュース番組ではその星を観測した映像が流れている。
その星はとても赤くて、まるで太陽のように燃えていた。
天体に特別興味を持っていたわけではない私には、本当に「最近の出来事」の1つに過ぎなかった。
「お前さん、世界を救う気はないかい?」
仕事から帰宅すると、自分の住むマンションの前に知らない女性が立っている。少しドレス感のある清楚なワンピースに、さらさらと艶のある髪が風に靡く美しい女性。
バチッと目が合うと、突然私にそう問いかけた。
ああ、詐欺か宗教の勧誘か………と気付いて軽く受け流す。
「いえ、興味ありません」
たったそれだけ答えてエントランスに入り、エレベーターのボタンを押す。
乗り込む時にチラリと目線をずらすと、そこにはもう先程の女性はいなかった。
次の日も彼女は昨日と同じようにマンションの前にいた。
そして私を見付けるなり、知り合いかのように話し掛けてくる。
「あの星の名前を知っているか?」
「え?………さあ、まだニュースでは名前が付いてなかったはずですけど」
「そうか………あれはな、“勇者の星”と呼ばれるものだ」
「え、は?勇者って………そんなドラクエみたいな―――」
ゲームでしか存在しない勇者を出してくるこの人は、もしかしたら相当痛い人なのかもしれない。
昨日のように話を切り上げて帰ろうとすると、彼女は話を続けた。
「この世界が滅びるぞ」
「滅びるって言われても………私には何も出来ないので、国がどうにかするしかないじゃないですか。何でそんなこと―――」
振り返ると先程の女性は姿を消し、目の前には見たことがある女性がいた。ああ、私はこの人を知っている。
「!!」
「なるほど、この姿なら見覚えがあるのだな。
ツカサ、今一度問おう。“世界を救う気はないかい?”」
「何で私の名前………!
ふざけないでください、そんな預言者みたいな格好をして」
「みたいな、ではなく預言者だからな」
「………………」
「まあ、とりあえず好きなように世界を渡り歩くといい」
「………は?」
言っている意味がわからなくて聞き返すと預言者は笑顔でこちらに手を振り、あとでまた会おうとだけ言って消えた。
「あとで、って何よ………?」
ポツンと残されたのは私は、疑問には思うもののマンションのエレベーターに乗り込んだ。
部屋に帰り、まずテレビを点けた。それはもう癖みたいなもの。
相変わらずニュース番組では“勇者の星”を報道していたが、この時でも報道ではまだ星に名前は付いていなかった。
(似ているけども………いや、ただ似ているだけじゃない)
馬鹿馬鹿しい、と最後まで報道を見ることなく夕食とシャワーを済ませた。
再びテレビを見るけれど頭に入ってこない。
先程の預言者という女性がどうしても頭から離れなかったからだと思う。
(預言者なんてまるでドラクエみたいなことあるわけない。もちろん好きな作品だった………でもだからといって、あの人の言葉を鵜呑みにするべきじゃない。
そういえばドラクエ11って………そうだ、あんなに好きだと思ったのにクリアしたらゲームのことなんて忘れていた)
あんなにも好きだと思った作品だったのに、今まで忘れていた自分に少し寂しさも感じる。
1つ1つ内容を思い出すと、自分が思ってた以上にストーリーを記憶していた。とても素敵な作品だったなと改めて感じる。
キャラクターやイベントも全て一通り思い出してから布団に入ると、疲れもあってかすぐに瞼が重くなった。
何となく今日はとてもよく眠れそうな気がする。
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