子犬と子猫 




「ありがとうございました!すごく助かりました」

すぐに買い物を終わらせてアンジールの部屋に戻ってきた。
私物ついでに夕飯の材料も買った。私なりのお礼をするつもり。


「料理は得意な方だから任せて!」

「へえ〜。何か彼女出来たみたいだな、アンジール!」

「………………」


いくつか料理を作ってみんなに食べてもらうと、ザックスは喜んで食べてくれたしアンジールはほぼ無言で全部食べてくれた。







「今日はありがとう!また明日ね!」

「ちゃんと布団かけて寝ろよ、ツカサ!またな!」


大分遅い時間になってしまったが、それでも最後まで手伝ってくれていたザックス。
先にシャワーを浴びていたアンジールはザックスが帰る頃にバスルームから出てきた。
きっとこれも私を1人にさせないという監視の内だと思う。


「じゃあ私もお風呂いただきますね」

「待て」

「?」

「お前はまだ何一つ話していない。どこから来て、何が目的でここに侵入したのか。ハッキリしてもらおう」

「………………」


どうしよう、と考える。そもそもこの世界に来た理由は自分でもわからない。


「えっと………自分でも何で居たのかわからないんです。信じてもらえないのもわかっています。
でも敵ではありません。それは本当です」

「その言葉だけで納得するのは無理だな」

「敵ではないと提示できる証拠がありません」

「………どこから来た?」

「言えません」

「何故だ」

「これが1番信じてもらえないからです」

「ウータイのスパイだったら上に引き渡さねばいけない」


静かに、低い声でアンジールは私に言った。
つまり私には拒否権がないということ。
言わないということはスパイと変わらないのだろう。言うべきか言わないべきか迷っている暇は無さそうだった。


「誰にも言わないと………ザックスにも言わないと約束してくれるなら」

「いいだろう」

「別の世界から来ました」

「………………」

「文化としてはウータイに似ている所です。
でも私の住む世界にはマテリアなんて物は無いし、魔法も存在しません。
モンスターがいないから必要ないんです」


どこまで暴露していいかわからない。
とりあえず敵ではないことを今は信じてもらえればそれでいい。


「………わかった。
お前には敵意、殺気………そういったものがまるでない。そういうスパイもいなくはない。だが、そんな目をする者が敵だとも思えない。
………少しでも変だと思ったら、斬るからな」

「はい、今はそれでいいです。
明日からの訓練も頑張って、任務に参加できるくらいにはなるように頑張ります」


斬ると言った時のアンジールの殺気は半端じゃなかった。崩れそうになる足を奮い立たせて笑顔をつくる。


話が落ち着いたところで、私が寝ないとアンジールも眠れないことに気付き急いで準備をした。








■アンジールside


突然訓練の最中に現れた女。ツカサというらしい。
スパイか何かだろうどラザード統括に報告すればあっさり大丈夫、と神羅で働かないかと話を持ち掛けた。

敵かもしれない得体の知れないヤツに何を言っているんだと頭が痛くなる。

しかもその女を俺に丸投げ。生かすも殺すも好きにしろと言われた。


(なぜその場で斬らずに俺は部屋に入れているんだ………)


丸腰の女子供を斬る趣味はない。しかしそうではなく、何となくこいつは“斬ってはいけない”
そんな気がした。


「これだけベッドが大きいんですから、半分どうぞ」


思わずため息が出る。
嫁入り前の娘(多分)が男と1つ屋根の下に居ることもどうかと思うのに、ベッドも一緒だなんてバカとしか言いようがない。

俺に何かされないと思っている顔だが、その自信はどこからくるのだろう。


「じゃあ私が床で大丈夫です。突然お邪魔になってるのは私の方ですから」


床に座り込もうとしたツカサを驚いて止める。
こんな固いフローリングに寝るつもりなのか………仕方なくヒョイッと担いでベッドの上に放り投げた。


「わわわっ!!!!ちょ、いきなり………」

「人の好意には甘えておくもんだ」

「寝てる間に気が変わって殺されたりしません?」


殺される警戒心はまだあるらしい。
危険人物ならとっくに斬っている。


「仮にもソルジャー登録されたんだ。寝るにはまだ早いかもしれないが、明日から訓練だぞ」


その時部屋のチャイムが鳴った。俺の部屋を訪ねてくるのは子犬くらいだ。
買い物に行くというから監視も兼ねてついていく。

ザックスと楽しそうにしている姿を見ると、先程から何度か一瞬だけ垣間見る真剣な表情がまるで嘘のよう。

楽しそうに話して。
笑いあって。
派手な物に興味があって。
同時にこちらを振り向いて俺を急かす。

2人を見ていると子犬と子猫がじゃれているようだった。





「手のかかる猫、か………」





無意識に笑みが溢れる。
空の見えないミッドガルが明るく見えたような気がした。












   
(2:4:12)
bkm