■ツカサside
私はセフィロスに言われた通り、洋菓子の綺麗なお店に来ていた。
路地裏………とまで隠れてはいないが、大通りから1本横に入ったところにその店はあった。
ガラス張りになっていて外からでも可愛いお菓子がたくさん見える。
(こんなお店があったとは………
ああ、どれも美味しそうで目移りするなー………)
しばらく外からお菓子を眺める。
中に入らないのは店員さんにオススメされたら全部買ってしまいそうだから。
「うーん………王道のショートケーキもいいし、チョコレート系もいいよなぁ。いやいや、モンブランっていうのもありかも!見た目もキラキラしてるフルーツタルトか………」
「おい」
「あ、それとも焼菓子とか?そっちの方が好き嫌いないかな………」
「おい、そこのねーちゃん」
「………はい?」
突然声を掛けてきた人物をガラスの越しに見ると、まだ出会うことは無いだろうと思っていた人だった。
黒のスーツに赤い髪。
(いや、そんなまさかこのタイミングで………)
「お前、アンジールのとこのツカサだろ?」
「は、はい。………あなたはタークス、ですよね?」
元の世界なら知らない人に声を掛けられたら無視をするところだけれど、この人のことはよく知っている。
神羅電気動力株式会社総務部調査課
通称タークス。そして赤い髪が特徴のレノ。
「おお、よく知ってんな。感心したぞ、と。
噂通り、隠密行動をしている現場での情報収集は常日頃から行ってんだな」
「いやですね、私なんかが噂になるなんて。
それに、知られているなら隠密じゃないですよ。私はただ戦場での相手の動向を探っているだけです」
「よく言うぜ。あんたが訓練を始めた頃から社の噂の中心だ」
そんなこと知らなかった。
周りと仲のいいザックスは何も言わないし、セフィロスはそんなこと知りもしないだろう。
(じゃあアンジールは本気で肩書きを与えてくれようとしてるほどに私を気にしてくれたのかな………)
胸が熱くなる。
誰かに大切に思われるのって当たり前のようでそうではない。本来なら捨て置いてもよかった私をアンジールは部下として大切にしてくれているのだ。
素直に嬉しい。
「それで、そのタークスの方が私に何のご用ですか?」
ここでの長居はできるだけしたくない。
私は早く帰ってアンジールと話したくて、つい素っ気ない質問をしてしまった。
「用っつーほどの用なんかねーよ。たまたま任務の帰りにあんたが見えたから声を掛けた。
どこからともなく現れて過去のデータも一切出てこない、噂になるほどの女ソルジャー………一度話してみたかっただけだぞ、と」
「(調べられた後か………)何者かという質問なら受け付けませんよ。
今忙しいんでお話なら今度にしてください」
また視線をケーキに向けるとレノは隣に立って目線の高さを私と同じにする。
そして指でトントンとガラスを軽く叩いた。
「ここの菓子はチョコ系が人気だ。家で食うんだろ?フォンダンショコラなんか美味いぞ。
あとはプリンだな。なめらかさが売りだ」
「へえ………よくご存知ですね」
「俺はよくモテるからな」
まあ、そうだろうな!と思っていたので大して驚かない。すると面白くなさそうな顔でこちらを見ている。気まずい。
「じゃあオススメ通り、その2つにします」
「素直な女は好きだぞ、と」
フォンダンショコラとプリンを2つずつ買って小さな箱を持って店を出ると、まだレノが入り口に立っていた。
「わざわざご親切にありがとうございました。
今店員さんに新作のクッキーがあると教えてもらったんです。ご迷惑でなければもらってください」
「いや、そっちこそ気使わせて悪いな。
そういうつもりで声掛けたんじゃねえんだけど………まあ、いい。ありがとよ」
ニッと笑ってわしゃわしゃと乱暴に頭を撫でてきた。背の高いイケメンに撫でられるなんて………何だかデジャヴ。
「なあ、あんたの携帯の番号教えてくれよ」
「何故ですか?」
「何故って何だよ」
「何故って何だよって何ですか?」
「何故って何だよって何ですかって何だよ」
「………………」
「………………」
なにこの言い争い………小学生みたいだ。
「あなたに教える理由がありませんし、私は多分連絡しないので要りません。
仕事の用ならば上司であるアンジールを通してください」
レノは嫌いじゃない。寧ろ大好きだ。
でも残念なことに私は今やファン目線ではいられない。
それに、早くアンジールに会わなければ。
「でもまた会った時は仲良くしてください。
色々教えてくれてありがとうございました。それじゃ」
一度お辞儀をして足早にその場を去った。
「ハッ………
俺が連絡先を聞いて教えなかった女なんて初めてだぞ。悪くねえな………と」
手の中のクッキーを1つポンッと口に投げ入れた。
←