抗える者 




「………それを訊いてどうする」


どうする?
私はどうしたかったのだろう。
何でそんなこと訊いたのか自分でもわからない。しかし、思わず出た言葉はきっと私の本当の迷いなのかもしれない。


「抗えない運命を持つ者と抗える運命を持つ者がいる」

「?」

「力が強い方に運命が動くだろう」

「それってどういう………」

「お前は、どっちだ?」


彼は私に何を伝えようとしてくれているのだろうか。それともただ慰めるためにそんなことを言っているのだろうか。
でもその話が本当だとしたらどんなに素敵なのだろう。
力があれば運命は動く、か。


「そういう発想って素敵ですね。まさかあなたからそんな言葉が出るとは思いませんでした。
………強いて言うなら、抗える者でありたいです。セフィロスはどっちですか?」

「………どうだろうな」


本当は運命を変えるほどの力がきっと彼にもあるのだと思う。
しかしそれ以上彼が何かを言うことはなかった。


「もういい時間ですし、そろそろ戻りますね。
生意気な態度取ったままなので早くアンジールに謝らないと」

「それならこの近くに売っているケーキでも買ってくるといいだろう。確かアンジールは好んであれを食べていたからな」

「え!?そうなんですか。知らなかった………!!
ありがとうございます!お店閉まる前に買ってきます」


そんな話聞いたことないけれど、親友だから知っている裏話なのかもしれない。少しだけ知ることができて嬉しい。
軽くお辞儀をしてくるりと振り返り、私は非常口に向かった。
扉を閉める前にもう一度セフィロスにお辞儀をすると、また少し微笑んでくれたような気がした。












■アンジールside



「心配性も大変だな。すぐ子猫が帰ってくるぞ。こんなところにいていいのか?」

「セフィロス………嘘を教えるな。俺はあの店のケーキを食べたことはない」

「勝手に立ち聞きしていた奴への仕返しだ。
それで………立ち聞きしただけのことはあったか?」

「………ああ、そうだな。
毎日ツカサが必死で訓練しているのは知っている。最初は新手のテロで、そのためにこちらの様子を伺っているのかと思っていたが………どうやら違うようだ。
運命と言っていたが、あんなに必死にならなければいけないほど一体あいつは何に抗いたいんだろうな………」


あんな話をしなければよかったかと思ったが、ツカサのことを少しでも知ることができた。
あいつは必要なことを何も話さない。だからこんな喧嘩じみたことをしてしまったんだ。

そう思うと自分が小さく感じた。

俺たちが考えている以上に大きなモノを背負っているのかもしれない。
あんな細い腕をした女性が、戦い方も知らない一般人が………弱音を吐くことなく訓練に勤しんでいる。
一般兵や3rdなんかよりセンスもある。


(だからこそ心配なんだ………)


「俺の部下が世話になった。感謝する」

「ああ、部屋で待っていてやるんだな」


部屋に戻ろうと歩き出すと、ふとツカサの言葉を思い出す。


「………そういえばツカサはさっき、俺とザックスを裏切らないと言っていた。

なあ、セフィロス………“裏切る”って何だろうな?ジェネシスは本当に俺たちを“裏切った”のか?」

「………さあな」


立ち止まった俺に早く行けとセフィロスが促す。
再びカツン、カツン………と音を立てて、今度は立ち止まることなく非常口を出た。


(今はツカサと話す方が先か………)










部屋に戻ってしばらくすると、ツカサが帰ってきた。

手には小さな箱。
嬉しそうな顔のツカサ。

最後まで疑っていろと言っていたが、俺には難しいかもしれない。
そんな素直な表情をする奴を疑うことなんてどうしてできるだろう。
今まではザックスを気にかけるだけだったが、ツカサは無意識に気にしてしまう。



ほっとけない。

そう、何故かほっとけない。


ザックスとは違うツカサへの意識に、俺はまだ気付いていない。









   
(3:4:12)
bkm