魔の森


目が覚めると辺りは暗く、うっそうと茂った森だった。
来てしまった。魔の森に。

爆風に巻き込まれて体を打った感覚はあるものの、怪我らしい怪我がないことに気付く。
ふっと、自分の下に感じる柔らかい感触に恐る恐る下を確認した。


「(そうだ、ジタン!!)あ、あの!生きてますか?」

「うっ………ん………」


小さく呻き声が聞こえるとゆっくり目が開いた。
あの高さから落ちて無事だったのだから不幸中の幸いである。


「いてて………あの高さから落ちてよく生きてられたぜ。君は大丈夫かい?」

「はい、お陰様で。助けていただきありがとうございます」

「ま、この森じゃ助かったとは言えないかもな〜。えっと、ボスたちは………あそこか」


そう言って煙が上がってる方向を確認し、こちらを振り返ったジタンは私の顔をまじまじと見た。


「なあ、俺たちどこかで会ったことないか?」

「(え、ガーネットの時と同じ?)いえ、初対面だと思います」

「気のせいか………こんなに可愛い子を忘れるわけないんだけどなあ。
まあ、いいか。俺はジタン!君は?」

「ツカサです」

「よし、ツカサ!ここから下りてみんなの所へ行くぞ」


ジタンが指を指した先を見れば劇場艇がかなり下に見え、自分たちが思った以上に高い崖の上にいることがわかる。
こんなの一般人にはなかなか下りられない。


「ごめんなさい………下りるのに時間がかかりそうなのでお先にどうぞ」

「そうか。この高さ、女の子にはキツいよな」


そのままジタンは私の方に背中を向けてしゃがむ。


「乗って」


断ってもこの崖を1人で下りられる自信がなかったので、小さく「失礼します………」と呟いておぶってもらった。


「一気に飛び降りるから手は絶対離すなよ!」


助走をつけて大きくジャンプしたと同時に、ギュッとジタンにしがみついた。
暗がりの中感じる浮遊感がこんなにも怖いとは思わなくて、


「いやぁぁぁぁぁああああ!!!!!!」


私の悲鳴が魔の森に木霊した。











「ここここ怖かった………」


まるで生まれたての小鹿のような私の立ち姿にジタンは大笑いする。


「みんなが無事か確認してくるよ」


走っていった後ろ姿を見ながら、燃える船の外で待つことしかできなかった。
わかっている。燃える中一緒に行っても邪魔になるだけなんて。

しかし、中から助け出されたケガ人がどんどん増えていく。ジタンが助けてくれなければ私だってあの中の1人………いや、死んでいたかもしれない。

学校で習った程度の応急処置じゃ何の意味もないかもしれないがせめて止血くらいはしないといけないと思い、木の棒で固定したり止血するための布を探したり………出来る限りのことをした。
しばらくするとジタンが戻ってきた。


「これは………!みんなの傷の手当てをしてくれて助かるよ。
とりあえず俺はガーネット姫を探してくる。ツカサはここで待っていてくれ」

「1人で行くんですか?危ないと………」

「いや、今はみんな積み荷を運び出したりケガ人を助けるので人手が足りないからな」

「そう、ですよね………じゃあ気を付けてくださいね」


森の中に消えていったジタン。
戻ってくることがわかっていてもやっぱり心配だし怖かった。
でも私はついて行くことすら出来ない。


(物語なんか知ってても実際何の役にも立たないじゃない………)


溜め息は出たが、気合いを入れ直そうと自分の頬を強めに叩く。


(でも私は応急処置の続きをしないと!)














「なあ、ところであんた誰だ?」


もうそろそろ応急処置も終わりそうな頃、その声にチラッと目を向ければ視界の端に赤色とトンカチ?が見えた。


「(ブランクとシナ………かな)ちょっと待ってくださいね。この方の処置で最後ですから」

「確かアレクサンドリアでトンガリ帽子と一緒に舞台に上がってきたよな?
俺はブランク。こっちはシナ。タンタラスの一員さ」

「私ツカサっていいます。
ごめんなさい。あの時私もビビも追われていたから………」

「みんな追われて魔の森に落ちて。本当に悪運が強い連中ばっかりずら!」

「ケガ人の手当てしてもらって悪いな。とりあえずボスに会ってもらった方がいいか………」


そう言われ、バクーのところに連れてこられた私は何だか緊張していた。
想像以上の被害だったからかもしれない。
瓦礫の奥に大きな人影が見えた。


「よう、タンタラスのボスのバクーだ。
話は聞いた。荷物の整理とかケガ人の世話とか助かったぜ」

「いえ、そんなことしかできなくて申し訳ないです。
私はツカサと申します。アレクサンドリアでは追われていたとはいえ、勝手に舞台に乱入してしまってスミマセンでした」

「それはいーってことよ!
船が直り次第どこかに送ってやりてぇんだが………ツカサ、おめぇもしかしてアレクサンドリアの人間か?」

「(そっか、アレクサンドリアには戻れないもんね)いいえ、一応旅の者です。アレクサンドリアの次はリンドブルムを目指そうかと思っていました」


咄嗟にそう答えるとバクーは目を細めてふ〜ん………と上から下まで私を見てきた。


「そらぁ嘘だな。あのトンガリ帽子は魔法に使う杖を持っていたが、てめぇは軽装で丸腰じゃねぇか。そんなんじゃ旅なんかできねぇ。

………おめぇ、何者だ?」


心底失敗したなと思った。
武器はさっきの衝撃で無くしたとか言えるが、服に関してはコンビニに行けるレベルの部屋着のままで言い逃れできないほど軽装だった。


「さすがボスですね。
………嘘をついて申し訳ないです。確かに私は旅の者ではありません。でもリンドブルムには向かおうと思っています」

「なるほど。訳ありってとこだぁな。
………ブランク!」

「はいはいっと。あとは任せた、だろ?」

「ガハハハッ!よくわかってんじゃねぇか!
わかんねぇことはブランクに聞いてくれ。船が直るまでどうにもならねぇしな!」

「あ、あの!いいんですか?私みたいな素性の知れないような奴追い出さなくて………」


そう訊けば、人手が足りないのにこんなとこで追い出してどうするよ!と言われた。


「困ったことがあれば呼んでくれ。あとは何をしてても構わない」

「ありがとうございます。ブランクさん」

「さん付けなんてやめてくれ。もっとラフに話してくれないか」

「ありがとう、ブランク」


ラフな言い方に直せば、その方がいいと頭をポンポンとされた。









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