アレクサンドリア


劇は丁度始まるところだった。

盛大に花火が上がり、楽器隊の生の演奏によるオープニングはとても華やかで素晴らしい。
会場では期待の籠った大きな拍手が起こる。
やがてタンタラスのボスであるバクーがステージに現れ、あらすじを語ると共に挨拶をした。


(すごいすごい!リアル過ぎるせいで夢じゃないみたい!
あ、ジタン出てきた。マーカスもシナもブランクもいる!!)


これが本当に盗賊のクオリティなの?というくらい劇に惹き込まれた。隣を見れば、ビビもパックも目が輝いている。
見せ場であるチャンバラもミスなく、とても格好いいものだった。


(お客さんも盛り上がってる。私はチャンバラ苦労したのになー………
そういえば、ジタンたちはそろそろおいかけっこ始まるのかしら)


この後の騒ぎを考えるとあまり気乗りしない。
しかし夢から覚めない以上独りでアレクサンドリアに取り残されても困るため、私は勢いよく顔を叩いて気合いを入れ直した。











「ただ見は許さんぞー!」


席に着いていないのがバレた私たち3人も追われることになってしまった。


(こっちもこっちでおいかけっこだった………)


ジタンの方ばかり気にしていて、すっかりビビsideを忘れていた。
逃げている間に舞台はガーネット扮するコーネリアを、マーカスが刺してしまうシーンまできている。
ガーネットもスタイナーもタンタラスも、全員がステージに上がってしまっていて訳がわからないのはきっとスタイナーだけであろう。

そんな余所見をする余裕もなくなるほど、私たちも逃げ場が限られてきた。
パックはいち早くどこかへ逃げてしまって、ビビと私までステージに上がってしまう。
追われる怖さにビビが放ったファイアはガーネットのフードに燃え移り、観客に顔を見せる形になってしまった。


「撤収だ!」


バクーの一言でタンタラスが全員散る。
しかしジタンたちは引き留めに来たスタイナーとの戦闘が始まってしまった。


(まずいまずい!早く船出して!!)


ようやく船が動き出したと思ったら、お城からの攻撃。モンスターのボムまで飛んできた。
スタイナーはまだボムに気付かない。


「ボムが爆発しそうっスよ」

「お願い、スタイナー!うしろを向いて!」

「お兄さん!うしろ!本当にまずいですから!!」


みんなで叫んでもスタイナーは信じなかった。
そうしてみるみるうちに船は城からの攻撃とボムによって爆発し、街にぶつかり、墜落していった。


(おっ、落ちるーーーーー)


体験したことない揺れと衝撃に身を投げ出されそうになる。


(何これ………夢なのに振動もリアルで、なにより炎で顔がすごく熱い!燃える臭いまで………
どうしよう!
どうしよう!!
夢で死んでもちゃんと目覚めるよ………ね………?)



「つかまれ!!」



その時声がして振り返れば、爆発の光に照らされた金色が目に飛び込んだ。



まるでよく見ていたあの夢のようで………気付いたらその手を掴んでいた。

そのまま肩を抱かれ墜落の衝撃に堪えられるよう、しっかりと抱き締められる。


(キレイな金色………)







そこからどうなったのか覚えていない。


でも彼の温かさだけは最後まで覚えていた、気がした。







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