オトモダチ





コンデヤ・パタ山道


山道を少し進んだところで、2つの影が見えた。
太い枝に引っ掛かって宙ぶらりんのエーコと、心配そうな顔をしたモグが飛んでいる。


「クポポ〜〜〜」

「モグ、早く早く!急がないとつかまっちゃうよぉ」

「クポッ!!」

「ん?どうしたの、モグ?」

「ク、クポ〜〜〜〜っ!!」

「こ、こら待てぇ〜!逃げるなぁモグ〜〜〜!
はあっ………こんなところにひっかかって………信じていたモグにも裏切られ、ここでさみしく死んでいくのだわ………
モグめ〜………死んだら絶対化けて出てやるんだから!
ああ、まぼろしかしら?角のない人まで見える………しかもシッポまで生えてるし………へ!?」


私たちの姿に気付いたモグはエーコを置いて一目散にその場を去って行った。
一方彼女は私たちが真下に着いても気付くことなく、とても大きな大きな独り言を言っている。ふと顔を上げたかと思えば、目をぱちくりさせながらキョロキョロ辺りを見渡した。


「きゃ〜〜〜っ!たぁすけてぇ〜〜〜〜っ!
だ、だめよ、あたしを食べるなんて!それに、おいしくないわ、きっと!きっとそうよ!うん、きっとそうにちがいないわ!」

「おいしくないってよ、クイナ」

「そうアルか………それは残念アルな………
そう言えばさっきのモーグリ、見たコトのない色してたアルね………じゃあワタシ、さっきのちっこいモーグリ食べに行くアルよ」

「そ、それもだめぇ〜〜〜っ!」


モグを追い掛けようと走り出したクイナがジャンプをした衝撃で枝に引っ掛かっていたエーコが落下するが、真下にいたジタンが軽々とキャッチする。
すごい。少女漫画によくあるシチュエーションだ。


「きゃっ!」

「よいしょっ………と」

「………………あ、ありがと」

「大丈夫?」

「………大丈夫」


すぐにダガーが駆け寄りエーコの体の心配をするが、2人がまるで姉妹のようでとても癒されるなあと思った。


「ケガはない?」

「大丈夫って言ったら大丈夫なの!
そこの青い服着た子みたいな子供じゃないんだから!」

「で、でもキミ………ボクとあんま変わんないような………」

「し、失礼しちゃうわっ!それにキミだなんてっ!ちゃんと名前ぐらい………エーコってリッパな名前があるんだから!それにレディーに名前を聞くときには自分から名乗るのが礼儀ってものだわっ!」

「自分から名乗ったんじゃ………」
「なあに!?」

「………………」

「わたしはダガー………こっちがツカサ、それとこっちの子はビビよ」

「ふうん………で、あなたは?」


興味が無いわけではないのだろうが、それより何よりジタンが気になるのだろう。その中でも特に私は眼中にもないという感じだった。こんなにも真正面からスルーされるのは初めてだ。


「俺か?俺はジタンだ」

「そう、ジタンね………うんうん」

「で、そのエーコさんはなんでまた、盗みなんてはたらいたんだ?」

「………おなか………すいたの」

「ははっ、そりゃまた立派な理由だ………まるでクイナみたいな………
あれ、そういやあいつ、本当にモーグリ追っかけてったのか?」

「ど、どうしよう………モグが食べられちゃう………」

「まさかクイナもモーグリを食べたりしないと思うけど………
ねえ、エーコの家はこの先なの?」

「うん、ずぅ〜っと向こう。多分モグは先に帰っちゃったと思う………」


心配そうにダガーが声を掛けるとエーコは寂しそうに答えた。置いていかれたのだからその感情は当然なのだろう。
それなら………とダガーが優しい提案をしてくれた。


「ねえ、この子を家まで送ってあげましょ」

「そうだな………俺たちもこの山道を越えなきゃいけないし、丁度いいんじゃないか?」

「(え、会話終わり!?結婚の話が出てくるところじゃ………だからエーコもダガーと話す機会を伺ったりするのに、このままじゃここでの話が終わっちゃう!!)あ、愛する妻の命令とあらば何でも〜!ってことでしょ、ジタン?」

「えっ!?ふたりはケッコンしてるの?」

「え?ああ、ちょうどさっき………」
「ちがうわよ、ただのオトモダチ」

「………オトモダチね」

「そっか、じゃあエーコもオトモダチになってあげる!」

「やれやれ………それじゃオトモダチの家まで行くとしますか」


オトモダチと言われてもっと肩を落としてガッカリするものだと思っていたけれど、予想より普通に見える。リアクションがオーバーがそうでないかの違いだろうか?
少し疑問に思いながらも私はみんなの後をついていったのだった。








エーコの家に向かっていた私たちの目の前飛び込んできたのは、遠くの方で異様な雰囲気を漂わせる大樹だった。


「あれが……『聖域』?」


ぽつりとジタンが呟くと大きな音を立てて地鳴りが起こった。足場が悪い山道でバランスを崩しそうになりながらもみんなでお互いを支える。


「な、なんだ………!?」


わからないとみんなが辺りを見渡す中、私だけがあの大樹から目を反らせずにいた。何故だろう。何かを忘れているような気持ちになってくる。

もうすぐ出口というところで敵の気配を感じた。すごく大きな体のヒルギガースが行く手を阻んできたが、今回は私もジタンと一緒に前衛を担うべきだろう。ジタンに合わせて連携攻撃を行った。


「いくよ〜!フェンリル!」


エーコの掛け声と共に召喚魔法が発動する。大地の怒りという名前なだけあって、なかなか派手に敵を巻き込んでいった。
敵は力も強いし体力もそれなりにあったが、召喚魔法のおかけでラクに倒すことができたと思う。


「エーコ!今の………召喚獣よね?あなたも召喚獣が使えるなんて、おどろいたわ。
ねえ、どうしてエーコは召喚獣を呼べるの?」

「え?だってダガーも召喚獣呼べるんでしょ?」

「それは………」

「それにツカサ」
「普通は呼べないぜ………っていうかエーコは昔から呼べたのか?」

「そりゃそうでしょ?エーコのおじいちゃんもみんなも呼んでたよ」

「どういうこと?」


今きっとエーコは「それにツカサも呼べるんでしょ?」と言いかけたに違いない。自分でもわからない召喚獣との関係性。しかしそれを遮ったのはジタンだった。何故ジタンが遮ったのかも私にはわからないけれど、いつもの彼の優しさだったのだろうか。
しばらく考え込んでいると、じーっと目の前に広がる二又の道を眺めているビビの姿を見たエーコが大きな声で呼んだ。


「あ、こら、エーコの家はそっちじゃないからね!そっちはイーファの樹!エーコの家はこっち!」

「ちょっとむこう向いてただけじゃないかぁ………」

「イーファの樹?『聖域』じゃないのか?」

「ん?ああ、それはドワーフの人たちがそう呼んでるだけで、エーコたちはイーファの樹って昔から呼んでるよ?」

「イーファの樹………?」

「さ、行きましょ!」


それ以上の説明は無く、もうすぐそこだから!と山道をそのまま出ることにした。
ようやく抜けた山道から遠くの方に海岸が見えるが、その手前に建物のような村のようなものが見える。恐らくあそこが目的地だろう。
私たちはそこを目指して再び歩き始めた。





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