黒魔道士の村





「確か『ふくろうも住まぬほど奥深く』だったよな………」


言葉の通りふくろうのいない方の道を選んで、逃げた黒魔道士を追いかけた。
少し開けたところに出たけれど、その先にはまた森が見える。見たところ村なんて見当たらない。
森の手前で立ち止まった黒魔道士が手をかざすと空間が歪み、さらに続いていた木々は消えて村への入り口が現れた。


(人間に見つからないように隠れた村、か)


………ギュッ


手に圧力を感じて下を見ると、ずっと手を繋いでいたビビが私の手を強く握っていた。きっと怖いだろうし、緊張もしているのだろう。

私は何も言わずにその小さな手を強く握り返した。





黒魔道士の村


「!!」
「ひゃっ!!」
「??」

「に、に、に………」

「どうしたの?」

「にんげんだーっっ!!」


村に入ると入り口にいた黒魔道士たちが、私たちを見るなり四方八方に逃げていく。
ずっと繋がれていた小さな手がパッと離れた。


「あ、まって………いまのひとたち、見たよね!」

「あ、ああ………」

「しゃべってた!しゃべってたよね!
ボクと同じようなひとたちがいるんだ!」


そう言ってビビは村の奥に走っていった。
ジタンが何か言いたそうにこちらを見たけれど私は首を横に振る。心配は要らないだろう。


「自由行動、みたいなもんでしょ?」


この一言で察したジタンは、少しホッとしたような顔で「ツカサがそう言うなら」とだけ言ってくれた。


「どうして枯れた森の中にこんな村が………?ビビは?」

「むこうに行っちゃったけど………いったいどこに………って、おーい!」

「村があるのコト、おいしいものがあるのコト、これすなわち同じアルね」


ダガーはジタンの指差す方へ走っていってしまったし、クイナは2人と反対方向に走っていった。
こういう時に残るのはいつもジタンと私だけ。


「………まったく、どいつもこいつも………」

「頼もしいじゃない。みんな、仲間のために動いているんだから」

「おいおい、ダガーはビビが心配なのはわかるけど、クイナは食べることしか頭にないぜ?」

「そうね。でも誰よりも興味があることでどんな食材でも見極められるし、ちゃんとみんなの分も食事を作ってくれるじゃない。
それにこの村、食べ物があまりないかもしれないと思わない?」

「まあ、そうかもしれないけど………
なあ、ツカサ。前から気になっていたんだけど………いや、また今度でいいさ」

「?」


言いかけられると気になるけれど、また今度でいいということなら突き詰める必要もないだろう。
ジタンと別れ、私もビビが向かったであろう場所を目指すことにした。





「こんな遠くまで!?」


目的地に着く頃、ビビの驚くような声が遠くから聞こえてきた。
割って入るべきではない。ビビは今彼らに教えてもらっているのだから。
「生きる」ということ。
「死ぬ」ということ。
私は近くの木にもたれ掛かって、影から見守ることにした。


「そうだよ。人間たちに見つからないように、海を渡ってこんな遠くまで、自分たちだけで暮らせる場所を探して………」

「そうなんですか………
あの………それで、ここは?」

「えっと、ここはね………なんだっけ?」

「『お墓』だよ」

「あ、そうだった。ここは『おはか』だよ」

「『おはか』………?
じゃあ………も、もしかしてこの下には!?」

「そうだよ………僕らの仲間が動かなくなったまま………」

「そんな………どうして?」

「それは………」

「いっしょに………いっしょにね、ぼく、36号くんとここまでにげてきたんだ。
みんなでここに村をつくって、わからないことだらけだけどみんなでくらして………でもある日、36号くん、うごかなくなったんだ。ぴくりとも、なにも、しゃべらなくなって………ものしりのともだちがいったんだ。これが『死ぬ』ってことだって。死んだら土の中にかくれなきゃいけないって。
36号くんは今この下にいるよ。どうして土の中にかくれなきゃいけないのか、ぼくにはよくわかんないけど。
でもまた土から出てきて、いっしょにあそぼうって言ってくれるんだよね?そしたらそこの池でからだ、あらってあげなきゃ」


最初にこの会話を見た時、私もまだ「死」を理解していなくて、ビビのようにどういうこと?と思ったような気がする。
色々な「死」を私は知らなかった。
「止まる」ということの意味がわからなかった。


「ど、どういうこと………?」

「………………」

「なにかの病気?それともケガ?」

「………………」

「ねえ!どうして!?」

「それは………………」


(………それはね、ビビ)








■ジタンside



村の中を色々探索して、チョコボの卵に興味を持つクイナと黒魔道士たちを説得しているダガーにも会ったけれどツカサとビビが見付からない。
結構村の中でも奥の方に来たなと感じた頃、俯き加減で横を走り去っていくビビに会った。


「!!
おい、ビビ!………どうしたんだ、あいつ………?」


ビビが来た方向に更に足を進めると、2人の黒魔道士の間に見慣れた背中が見えた。
隠れる必要なんて本当はないのだけれど、近くの木に背を預けて3人の会話を聞くことにする。


「ビビに話してくれてありがとう」

「君は………そうか、君たちが彼をここまで連れてきたんだね。彼はきっとわかってると思うんだ」

「そうね、きっと気付いてる。自分なりに色々整理してからまた後で来ると思うわ。
私たちの言葉よりも、きっとあなたたちのひとつひとつの言葉の方がビビにとっていいと思うの。だからその時はよろしくお願いします」


そう言ってツカサは彼らに頭を下げた。
彼らにとても丁寧にする彼女の姿は、いつもと少し違っていて大人の余裕さえ感じる。


(ああ、そうか。もしかしたらツカサも俺と同じようにビビの様子を伺っていたんだな)


彼女は誰かを黙って見守ることが多い。誰かに見守られる姿なんて見たことがない。
信頼されていないのか定かではないが、隙という隙が殆どないような気さえした。
そんなことを考えていた時、俺は思ってもいなかった言葉を耳にする。


「ところで君は、僕らと『同じ』なのかい?」

「え………?」




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