一緒なら





目的地の沼に着くと、コックのような帽子を被った丸めのフォルムをした人物が見えた。
色も女の子らしくて可愛い。舌は思った以上に長いけど。


「クイナ、どこ行くんだ?」

「匂いアルよ。カエルの匂いがするアルよ」

「カエルはいいから外側の大陸への入り口を探してくれよ」

「カエルはこっちアルね!!」

「しょうがないなぁ、まったく………ん?」


こちらに気付いたジタンが驚いたような、怒ったような表情でこちらに近付いてくる。


(あ、やば………)


「ツカサ!ビビ!!」

「わあっ!」

「ちょ、ちょっとジタン!?」


大きな声に驚いたビビが私の後ろにさっと隠れる。そんなに大きな声を出すと思わなかったダガーも咄嗟に止めに入ってくれた。
言いたいことはおおよそわかっているが、今のはジタンが悪いと思う。自分勝手な行動をした私が言えることではないけれど。


「ほ、ほーら!お宝いっぱい持ってきたよ。アイテムはありがたいよね!
あ、さっきの人誰?どっか行っちゃったよ?」


後ろに隠れた小さな影をぎゅっと抱き締め、よしよしと頭を撫でる。強引に話題を変えれば、彼も少しは落ち着いたようだった。


「さっきのはクイナ。ク族らしいんだ」


下を向いたビビの背中を撫でて、ポンポンとすれば怯えた瞳と目が合う。何だかすごく可哀想に思えた。
聞こえてきた大きな足音に目を向ければ、先程いなくなったクイナが右往左往とカエルを追っている姿が見える。
全くやめる気配がないようで、どうしようかとジタンとダガーが相談を始めた。


(遺跡の入り口は見えない、か………)


すぐに見付かると思っていたが、実際はそんなに上手くいかないらしい。
眺めていてもしょうがないだろうと、私もカエルを探し始めた。










「待つアルよ!ツカサ!!」

「まかせて!はい、捕獲ー!」

「すごいアル!ツカサはカエル取りの名人アルね」


最初は気持ち悪かったカエルも徐々に慣れてきたら、いつの間にかクイナと一緒になって追いかけていた。
ようやく追い詰めたカエルを協力して捕まえる。


「クイナも今の追い込みは的確だったわ!」

「的確って………それよりツカサ、クイナ!カエルどころじゃないぜ。
見ろよ………これこそオレ達が探してた採掘場の入口じゃないのか?」


ジタンの声で、ようやく自分のいる場所に気が付く。
沼に似つかわしくない石畳の先に、岩を積んで造ったような大きな入り口から重い風が流れてくる。


「こんなの初めて見たアルよ。
ジタン、ホントにココ入るアルか?」

「今さら何言ってんだよ。ここから外側の大陸へ抜けられるかもしれない。さぁ、いこう!!」


ジタンが先頭に立ち、みんなが様子を伺いながら階段を下りて行く姿を後ろから眺めた。
目的も無く旅をしていた頃と違って、私自身の目的を見付けた。だからこそ、これからの旅に不安はあるけど後悔はしないだろう。


「どうしたんだ、ツカサ?」


遺跡の中からヒョイッと顔を出したジタンに咄嗟の笑顔を向ける。
新しい大陸に向けて気合いを入れるため、自分の頬を目一杯叩いて走り出した。

この決意がどれだけ苦しいことかも知らぬまま。









忘れられた道
フォッシル・ルー


「遺跡って初めて入るけど………ジメジメしてるし暗いし足元危ないしで結構怖いとこだね。
どうしたの、ジタン?」

「何かいるんだけど………暗くて見えねぇや」


入り口からすぐのところに牢のようになっている空間があったが、真っ暗で何も見えなかった。
まあ、いいかとジタンが去った後、私もまじまじと暗がりの中を覗いてみる。手元をファイアで照らすと、奥でキラリと光が反射した。


(でかっ………!に、逃げ切れるかな)


静かにその場を後にして小走りでみんなを追いかける。
先頭のダガーが角を曲がろうとした時、大きな地響きとジタンの叫び声が聞こえた。


「な、なんだ!!冗談じゃねぇぞぉー!!」


先程の暗い牢から大きな機械が飛び出してきた。
退路は無い。
角を曲がった先は、大きな橋になっていた。


「みんな、走って!!」


騒々しい音にモンスターが反応する。
侵入者対策か知らないが、大きな刃物がいくつも振り子のように揺れている。魔法を唱える時間はなさそうで、身軽なジタンが目の前の敵を薙ぎ倒していった。
すると4つめの振り子で橋が崩れる。
タイミングよくみんなが跳んでいくけれど、思った以上の距離に私は一瞬足を止めてしまった。後ろには大きな機械がもう迫ってきている。


「………っ!!」

「何してんだ!飛べ!!」


手を伸ばすジタンにOKのサインを送る。死ぬつもりは毛頭ない。急かされるということが嫌だっただけ。
瞬時に精神を集中し、素早く後ろへ向く。
目の前の大きな機械にできるだけ魔力を込めてサンダーを強くイメージした。


「ラムウ、裁きの雷!!」


雷の衝撃で私の手前で橋が崩れ、敵は下へ落ちていく。


(今“ラムウ”だなんて言うつもりなかったのにどうして!?
………まあ、いいか。これで私を落ち着いて向こうへ渡れ………うっわぁー)


結果無事だったし、落ち着いてこの距離を跳べるし、私にとってはよかったことだと思うのに、くるりと振り向けばジタンがこちらへ大きく跳んだところだった。
ダンッ!!と大きな音を立てて着地をする彼の表情に笑顔はない。足早にこちらへ近付いてきて、今までにないくらい強く抱き締められた。


「………っ!!言いたいことはわかってますごめんなさい勝手な行動して」


と、息継ぎをすることなく言い切った。
優しいジタンのことだから言いたいことなんてわかっている。
心配してくれたこともわかっている。
でも私は跳べなかった。
ガルガントに投げ出された時と違って、恐怖心が出てきてしまったのだ。
ダガーもビビもこの距離を跳べたのに。
今更「怖かった」だなんて私には言えなかった。


「何で跳ばなかったんだ」

「跳べなかったのよ。急かされた状況だったから上手くタイミングが掴めなくて」

「敵が待ってくれるわけないだろ!?」

「だから下に落としたんじゃない。みんなに怪我がなくてよかった」

「ツカサがそう思うように、ツカサが怪我をしていいだなんて誰も思っちゃいない。
そのことをちゃんとわかってるのか………!」


耳元で話すジタンの声は少し掠れて弱々しくて、表情を見ようにも苦しいくらい抱き締められていて見ることができない。
こんなにも心配させたことが申し訳なくて、切なくて、言葉にならない気持ちが込み上げてくる。
つい、私は抱き締め返して髪を撫でようと手を伸ばした。


「ツカサー!大丈夫ー!?」


橋の向こう側からダガーたちの声が聞こえる。咄嗟に離れて、遠くのみんなに手を振った。
抱き締め返さなくてよかった………と少しホッとする。
みんなのところに行こうと、崩れた橋に近付いた。落ち着けば跳べるはずと思っていたけれど、落ち着いても跳びづらいことは変わらない。


「一緒なら跳べるさ」

「え?」

「行こう、ツカサ!」


グッと右手を引かれる。
一緒なら………と一瞬思ったけれど橋の向こうのダガーが目に入り、繋いでくれた手を払い除けてしまった。


「っ………大丈夫だから!」

「今日は引かないからな」

「え?」


聞き返すと、視線で私に訴えかける。
わからないのか?とでも言いたそうな目。


「決めたよ。俺はこの手を離さない」


いつも気を使って遠慮がちなのに、今だけは違う顔付き。男の人の顔をした知らないジタンがそこにいる。
見惚けてると繋がれた手を強く引かれた。


(こんなにも力強かったかな………)


温かさ、大きさ、手袋の下に感じるゴツゴツした感触。
嫌でも意識させられてしまう。

橋の向こうに渡るとみんなが心配そうに駆け寄ってくれる。
パッと離された自分の手が、何だか少し寂しくて小さく見えた。





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