反対を押し切ってビビと一緒に森を出た。
霧に覆われた大地は不思議と嫌な気持ちにはならなくて、私の心を写す鏡はこの霧なんじゃないかと思うほど身近に感じる。
「どう?チョコボに乗った気分は!」
自分が彼にしてもらったようにビビを前に座らせた。確かに支えやすくてバランスもとりやすい。
ビビに感想を訊いても乗ることで精一杯のようで、一生懸命なその姿に少し笑ってしまう。
ジタンとダガーはというと、道を探すのに時間が掛かるだろうと先に沼へ向かってもらった。
納得していない2人の視線が刺さったけれど、そっぽを向くという子供のような荒業でその視線を避けるのはやっぱり少し大人気なかったかもしれない。
(あの2人、同時に驚いたような顔したのよね。本当に息ピッタリなんだから………)
その微笑ましい姿を思い出すとまた笑みが溢れた。
けれどチクッと胸の奥も痛む。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なーに?」
「ジタンとケンカしたの?」
「え?」
わかってはいたことだったけれど、シド大公の言っていた通り。
誰よりも周りを気にして、誰よりも気付けるビビ。
変な言い方だが、油断していたんだと思う。
大変な道を辿るみんなは私のことなんて見ていないと、そう勝手に思っていた。
「いつも近くにいるのに自分のことを何一つ話してくれない。1人だけ外側から見てるような時だってある。俺が何も気付いてないと思ったのか!?」
「おぬしのやさしさはわかっておる。でもたまにはジタンの気持ちも考えてやれ!」
「訊きたいことなんてたくさんあるんだ。
でも本当に訊いていいのか………訊いたことでツカサが傷つくんじゃないかって」
「戻ってこれないかもしれないのよ!?
何があるかわからないのに、いつまでも私たちの都合で付き合わせるわけには………」
「あ、あのね、上手く言えないけど………ボクはまだお姉ちゃんと一緒にいたいんだ」(………気にかけてもらってばかりじゃない)
みんなのことを見ていなかったのは私だったのかもしれない。
人の気持ちまで知ったような気でいた。心なんて簡単に図れるものではないとわかっていたのに。
随分自分勝手に旅をしてきたと思う。変わるかもしれない未来があるのかわからないのに、ヒーローのようなつもりでみんなを助けようとしていた。
いつの間にか私も物語の一部になっているとも知らず。
「お姉ちゃん?」
「あ、ううん。ケンカなんてしてないよ。ただ………そうね、何て言えばいいのかな。“仲間”って難しいね」
「むずかしい?」
「そう、難しい。
どこからが仲間でどこからが知人なのかとか、線引きしようとすると肝心なとこが曖昧なの」
「えっと、お姉ちゃんは………ボクたちの仲間じゃないの?」
「仲間でいたい、かな」
目の前のビビを見ると、表情はわからないけれど俯いていた。こんな話、ビビには難しかっただろう。
小さな子にする話題にしては重すぎたと少し反省した。
「ごめんね、ビビ。全然大したことないから気にしなくて………」
「あの、ボクは………お姉ちゃんが危なかったら助けるよ」
「え、うん?ありがとう?」
「あのね………仲間でもそうじゃなくても、みんなお姉ちゃんのことを助けに行くと思うんだ」
「うん」
「えっと、だから………むずかしいことはよくわからないけれど、仲間でもそうじゃなくても、きっと何も変わらない、から………」
「うん、そうだね。そうだといいね」
相手が何であれ、どういう立場であれ、助けたい時はそんなの関係無い。
簡単そうで難しいことも彼らにとっては当たり前なことで。それをわかっているからこそ私は仲間になりきれない。
(私はみんなの味方だと思いたいんだけどな)
クジャに会いに行ってみたり、お城の内部を知っていたり………これまでの自分の行動は普通に考えたら敵と繋がっていてもおかしくない。
直接言ってこないのはみんなが信じてくれているからなのか、それとも本当に疑っていて様子を伺っているからなのかはわからない。
(ううん、もう決めたじゃない。この物語は変えない。
信じるとか信じないとか、そういう話が通用しない日がきっとくるから………)
自分の考えは変わらない。
決めたことは曲げない。
だって私は神様でもヒーローでもないのだから。
一通りお宝探しをした私たちは、チョコにお願いして沼に向かう準備をする。
採掘場を見付けておいてもらうのは自分だけラクをしているようでズルい気がしてならない。それでも、これも全てあの2人の距離を近付けるためなのだから………と言い聞かせる。ジタンの気持ちがをダガー以外の誰かに向くなんてことはダメだと思う。
そんなことを考えていると、チョコが頭を擦り寄せてきた。まるで「大丈夫」と言っているかのようで、私もにっこり笑ってあげればチョコは小さく鳴いた。
「ビビ、チョコ。そろそろ行こっか!」
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