クッエエ〜





メネの取引を受けた私たちは、一通り森の中をジタンとチョコに掘ってもらっていた。


「いいなー。チョコボに乗れて」


チョコの背に軽々と飛び乗り、難無くこなすジタンが心底羨ましくて思わず声に出てしまう。
どんなに羨ましくても、乗馬経験があるわけでもない私が乗れるはずもない。


「お姉ちゃん乗れないの?」

「手懐けるのはとても上手だったのに………」

「動物を世話することはあっても乗ることはなかったから」


みんな乗れるのかと訊けば、2人とも直接チョコボに乗ったことはないらしい。
思った以上に、霧を動力とした乗り物の方が主流なのかもしれない。


「ツカサも乗ってみるかい?」

「クッエエ〜」


肩にグリグリと衝撃を感じて振り向けば顔を擦り付けているチョコと、その後ろからジタンが手を差し出している。
まるでおとぎ話の白馬に乗った王子様のようで格好いい。


「(無意識の罪って本当にズルいよね)あのね、乗ったことないのよ、私」

「ああ、聞こえてたさ。だから教えてやるよ。………ほらっ!」


何?と聞き返す前に差し出されていた手が私の腕を掴む。
グッと力が入ったと感じるとすぐに景色が変わって、視線が自分の身長よりもかなり高くなった。


「え、え、え!!え、すごい!」

「ファーストコンタクトはツカサだったんだ。誰よりもチョコと上手くやっていけると思うぜ」


2人乗りをしても大丈夫そうで、チョコの力の強さにただただ驚くばかり。何度も往復した森の中を再び歩き出す。
目の前の手綱を掴むと、重なるほど近くを握る手に少し胸がドキッとした。


「座るの前じゃなくて後ろがよかったかも」

「ダメだ」

「どうして?」

「俺がツカサを支えてやりたいからさ」

「………ありがとう(今のは完全に罪だわ)」









何度か穴堀を続けると、もう1人でも大丈夫なくらい上達した。チョコとも意思疎通できている気がする。
もう何度挑戦したかわからないが、時間内に1つも見付けられなかったお宝が今では5つくらい見付けられる程。
チョコグラフもいくつか見付かった。


「ねえ、みんな!先に行ってもらってもいい?」

「おいおい、まさか………」

「チョコグラフの場所を探しに行くつもり?いくら敵に遭遇しないとは言っても1人だなんて危険だわ!」


誰1人いいとは言わない。まさかこんなにも反対されるとは思わなかった。しかしそろそろ進まないといつまで経っても外側の大陸には行けない。
そう思って説得を試みても、結局「1人は危険」と言われた。リンドブルムでの勝手な単独行動もしてしまったし、ここは私が譲らなくてはいけないのだろう。


「(えーと………それならビビかな。ジタンがいればダガーは大丈夫だし)
わかった。じゃあビビ!私とトレジャーハンターやらない?」

「お姉ちゃんとトレジャーハンター?」

「そう!世界中のお宝を探しにいきましょ」

「おいおい、お宝っていうならタンタラスが黙っちゃいないぜ?」

「タンタラスの仕事は、お姫様の護衛でしょ?」





ドキッ………




先程感じた胸の鼓動とは違う音。
自分で言ったのに胸が痛い。

間違ってはいない。
誘拐の時から始まった仕事。タンタラスを抜けてまでお姫様の護衛をしてきた彼は、今後もダガーを護り続けていく。
そんなことはもう出来上がったシナリオで、それこそ私が目指す未来だとわかっているのにスッキリしないこの気持ちが嫌だった。

気付いてはいけない。

願ってはいけない。

いつか来る別れの日まで沈めておきたい。

そう思えば思うほど平常心を保つのは難しいことは知っている。
彼が越えてくれようとしてくれている溝を作り続ける私の心は、馬鹿以外なにものでもない。





「ジタンが守らないで誰がダガーを守るの?」




ほら。



また1つ言い訳をして溝を作るのだから。






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