■ビビside
「ジタンと一緒に行かなくてよかったの………かな」
2人が戻ってきたらすぐ出発できるようにとアイテムや装備の整理をしていたけれど、やっぱり気になってダガーおねえちゃんに声を掛けた。
「そうね。心配ではあるけど」
「おねえちゃんはどうしてついていかなかったの?」
行くって言うと思っていたのに追いかけなかったのは何でだろう。
でもおねえちゃんは寂しそうに笑って、わからないと言った。
「ねえ、ビビ。ツカサはどうして私たちと一緒に来てくれるのかしら」
「?」
よくわからなくて首をかしげると、今までのことを思い出しながらおねえちゃんは話してくれた。
「成り行きとはいえ、最初はビビもスタイナーもタンタラスも巻き込んでしまった。もちろんツカサも普通の女の子なのに巻き込んでしまって………
でも旅をしていて気付いたのだけれど、彼女だけ“無い”のよ」
「“無い”?」
「みんな思い出の地や知り合いがいるのに、ツカサだけはそういうことが無いの」
「………………」
ボクにはおじいちゃんがいた。
誰かがいること、思い出があること、それが普通だと思っていたんだ。
ツカサお姉ちゃんにも家族やお友達がいるはずなのに。
「どこの街に行っても誰一人知り合いがいないのはおかしいわ。
今思えばブルメシアへ行く時だってツカサだけ私がスリプル草を入れたことを知っていたのだっておかしいの!それから………!!」
「おねえちゃんは………疑ってるの?」
「………っ違う!
疑いたいわけじゃない。信じたいのよ………でも………」
つらそうな顔をしたおねえちゃんはまたアイテム整理を始めた。
その時背中を向けたけれど、少し肩が揺れていて泣いていたんだ。
ボクには難しいことよくわからないけれど………
お姉ちゃんのことも、みんなのことも信じたいなあ。
疑うって何だろう。
信じるって何だろう。
その答えは誰が知っているのかなあ………
ピナックルロックスから戻ってきたジタンとお姉ちゃんは、いつものように笑っていた。
けれどお互い目をなかなか合わせないということに、ボクもおねえちゃんも気付いていたんだ。
(喧嘩しちゃったのかなあ………)
本当は色々訊きたかったけれど、訊いてはいけないような気がして。
いつも側にいてくれていた頼もしくて優しいお姉ちゃんがそこにはいなくて。
不安を抱えているボクやおねえちゃんのような背中みたいにとても小さく見えた。
ボクはお姉ちゃんのために何をしてあげられるんだろう。
ボクはお姉ちゃんに何を返せるんだろう。
「お姉ちゃん元気ないね」
「そうね………」
帽子を被り直して、もう1度自分の装備を確認する。
何かがキラッと光ったような気がして見渡すと、足元に緑色の宝石が転がっていた。
周りを確認したけれど、近くには新しい短剣を装備するお姉ちゃんしかいない。
「お姉ちゃん………これ、落とした?」
「ん?」
手を止めてボクの高さまで屈むと、手の中にある宝石を眺めた。
さっきラムウさんからもらった宝石だったら装備袋に入っているはずだけれど………この宝石はどうしたんだろう。
「………私のじゃないよ」
しばらく眺めていたおねえちゃんは笑ってボクの手の中にそっと返した。
何か変わったことがあったのかと思ってボクも覗いてみたけれど、特に何もなかったと思う。
「よし、外側の大陸に行こう!」
「待って!」
ジタンの掛け声に1歩踏み出そうとすると、突然おねえちゃんが大きな声でみんなを止めた。
「待って!ツカサも行くの?」
「おいおい!どうしたんだ、ダガー?」
「戻ってこれないかもしれないのよ!?
何があるかわからないのに、いつまでも私たちの都合で付き合わせるわけには………」
ボクはお姉ちゃんも来てくれるものだと思ってた。
最後まで一緒だって思ってたけど、今日が最後かもなんて考えたことなかったんだ。
「ありがとう、ダガー。
でもこれは私の都合よ。向こうへ行かなきゃいけないの」
どうしてお姉ちゃんが向こうへ行かなきゃいけないのかはわからない。
どうして誰もそのことについて訊かないのかも、どうして誰も喜ばないのかも、ボクにはわからないんだ。
ずっとみんなで旅をしていられたら、なんて思っていることがボクだけだったら………
少し
本当に少しだけ
寂しいなあ。
(
back/
save)