胸に残る悔しさ





■ジタンside





「よっ、待たせたな!」

「遅くなってゴメンね」


ダガーと買い物から戻るとまだ上にいる兵士に伝えられたため、地竜の門に向かわずにエレベーターを上へ動かした。

別れた時と変わらずビビの寂しげな後ろ姿が見えたけれど、1つ違うのはツカサの姿が見えないということ。
この光景に少しだけ胸騒ぎがした。いつだって嫌な予感ってやつは当たるんだ。


「ジ………ジタン、大変!」

「よう、ビビ。どうしたんだ?ツカサが見当たらないけど………」

「今、お姉ちゃんがリンドブルムを出て行ったみたいで………」

「出て行ったですって!?」


買ってきた装備品やアイテムをドサッと置き、ビビの目線の高さまで屈む。
今にも泣きそうな顔が見えた。


「詳しく話してくれ」

「う、うん………

ジタンたちが出ていってからすぐ、お姉ちゃんも用事があるって出ていっちゃったんだ。
“ジタンたちが帰ってくる頃には戻る”って言って………」

「でも、帰ってこないのね………」

「ボク、その後ここからずっと遠くを眺めていたんだけど、ピナックルロックスに向かう青い服が見えて………多分お姉ちゃんだと思うんだ」


青い服………
ツカサの服は、自分のベストより鮮やかな原色に近い青色だった。
ダガーより露出がありボディラインも出るような、あまり見ないデザインの服。そして後ろで1つに束ねた髪に揺れる大きめな真っ赤なリボン。彼女に会ったことある人なら、きっと忘れられないくらい印象に残る。


「ツカサは何の用でピナックルロックスに行ったかわかるか?」

「う、ううん………それ以上はわからなくて………」

「いいのよ、ビビ。
外を見ていてくれたお陰でツカサの行方がわかったんだもの」

「ああ、そうさ。
じゃあ俺はツカサを呼んでくるよ。2人は荷物の整理をしていてくれ。
な〜に、心配はいらないさ!」


買ったばかりの荷物を2人に任せてエレベーターに向かう。
2人の止める声が聞こえたけど、走りながら手を振った。
何で2人を連れていかなかったのかわからない。でも気付いた時には走り出していた。

胸騒ぎを感じたせいなのかもしれないけど、その嫌な感覚が何故かブルメシアで会ったクジャの時と似ていて………


また俺の傍からいなくなるんじゃないかって思ったんだ。



















商業区から外へ出て、ピナックルロックスを目指す。
足を休めることなく走った。


(何でツカサはあんなところに………)


どれだけ考えても理由が見付からない。別れる間際の様子を思い出してみる。
すごく遠くを見つめていたあの顔が鮮明に残っていた。



「じゃあツカサはビビと待っていてくれ。すぐ戻ってくるよ。ダガー、行こう」

「え?私も待ってていいの?
それなりに長旅になるだろうし、荷物も増えるでしょ?荷物持ちはいた方が………」

「いや、さっきから何だかボーッとしてるし調子悪いんじゃないのか?
これから何があるかわからないんだ。休める時に休んだ方がいい」




そこまで思い出してハッとする。
以前リンドブルム城に来た時、ビビと一緒になって上ばかり見ていた。街に連れ出せば物珍しそうにキョロキョロしていた。
そんな奴がどうして2回目の街で用事を思い出すのだろう。明らかにおかしい。


(そうだ。確かツカサは一緒に買い物に行くって………
くそっ!やっぱりツカサは用事を思い出したんじゃなかったんだ!!)


俺が途中で話しかけてもあの時はかなりボーッとしていたから、具合が悪いんだと思った。
でもそれは間違いだったと今更気付く。他の誰でもない自分が彼女を置いていったということに。


(チッ………!!)


どうしていつもツカサを思うと裏目に出るんだろう。
どうしていつも力になってやれないんだろう。
 ツカサは隠しているつもりなのかもしれないけれど、俺たちに言えなくて悩んでいる姿が頭から離れない。
気付かないはずないんだ。俺だけじゃなくみんなツカサを気にかけてる。だからこそ悔しさだけが胸に残っていく。


ピナックルロックスまであと半分というところまで来ると、突然目的の方向の空から一筋の稲光が昇る。一瞬の出来事だったけれど、霧のない晴れた日にもよく見えるほど眩しかった。 


(あれは魔法なのか!?)


ツカサは黒魔法を扱える。しかしサンダーにしては威力が強すぎる気がした。
あの稲光が何を意味しているのかわからないけれど、あそこにツカサがいるんだとしたら行かなくてはいけない。
俺は更にスピードを上げて走り始めた。
















「君が必要なんだよ」


ようやく辿り着いてまず目に飛び込んできたのは、クジャの腕の中で脱力するツカサの姿。


「君は優しすぎるよ、 ツカサ………」


 ツカサの頬を撫でて強く抱き締める。ブルメシアで見たような蔑む瞳ではなく、どことなく優しい表情。
心の中で何かが渦巻く。こんな気持ちを俺は知らない。


「おい、クジャ………そいつに何をした」


その言葉でようやくこちらを見るクジャの顔に優しさはもうなかった。
敵を見る目。隙のない佇まい。


「彼女を連れ戻しに来た………というわけか」

「ああ、そうさ。 ツカサは連れて帰る」

「彼女は望んでいないかもしれないのに?」

「そんなはずはない」

「随分ハッキリ言い切るんだね」

「信じているからな」


その言葉にクジャは声を上げて笑う。そしてその冷たい瞳で鋭く俺を見た。
ツカサを離す気はなさそうだ。


「君の信じていることが彼女の想いと違わないといいね」

「どういう意味だ!」

「さあ?この美しい眠り姫に話してもらえないということが何よりの証拠じゃないかな。

銀竜!!」

「なっ………!逃がすか!!」


手を空に掲げて銀竜を呼ぶ。逃がすつもりなんかなかった。
せめて彼女に意識があれば………










「………目を覚ませ、 ツカサ!!」











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