「一応訊くけど、まさか私を拐おうとしてる?」
「拐うだって?違うさ、君はいるべき場所へ戻るんだよ」
「戻る?」
「そう。
召喚獣とは違う膨大な魔力………迎えに来てあげたのさ」
膨大な魔力?
クジャは何のことを言っているのだろうか。だって私の魔力なんてダガーやビビよりも低い。強みと言えば白と黒魔法が両方使えて、盗むなどのサポートができることくらいだ。
そんな戦闘スタイルの私のどこに膨大な魔力があるのだろう。
「私、魔力なんてメンバー内でもかなり低いのよ?
どこ情報か知らないけど、それはきっと間違いだわ」
そう言い返せばクジャは嬉しそうな笑顔を浮かべる。
不気味なほど綺麗に笑っていて、悪寒にも似た寒気が体中を通っていった。
「………私をこの世界に呼んだのはクジャなの?」
「ああ、君は知らないんだね。可哀想に。
まるで行き先を失った渡り鳥のようだ」
「なるほど。私を呼んだのはクジャじゃないのね」
よくわからない例えには触れず、君は知らないんだね………その言葉を私は聞き逃さない。
クジャは隠すつもりなんてないのかもしれないけれど、これで1つ疑問が明確になる。
私が探す人物はクジャじゃない。
もしこの世界に呼んだのがクジャだとすれば、私が知らないということを知っているはずなのだから。
「それならもう訊くことはないし、私は帰るね」
「………僕が君を連れていく理由は訊かなくていいのかい?」
「何で?」
「………………」
「………………」
私の言葉にクジャは少し驚いたような表情をすると、考え込むように腕を組んで右手を顎につけた。
こちらから視線を外さずに考えているようだ。
「………わからないな」
「そう?簡単なことよ。
私が追う人物はクジャじゃない。別の人物を探すってだけ。
その目的の中に拐う理由を知ることなんか含まれないのよ」
長居は無用だとわかったし、もうそろそろジタンたちも戻って来る頃だろう。
まだ考え込む姿勢のままのクジャに手を振る。
「クジャ、あなたの目的を遂行する手助けにはなれない。私のいるべき場所は私自身が決めることよ」
それじゃ、とクジャにヒラヒラ手を振りながら来た道を戻る。
グイッ
振っていた手を掴まれたと思ったら、ぐるりと視界が変わる。
目の前には私の腕を掴むクジャ。
切なさを感じさせるその瞳の輝き。
腕に伝わる温もりと力強さ。
この切なさを知っている気がして、何故だか目を反らせなかった。
「………っ!!」
引かれた腕は止まらず体は傾き続ける。
トンッと少し衝撃を感じると、私はクジャに抱き締められていた。
頭の上で小さく聞こえる声。
「………行かないでくれと言ったら?」
ギュッと抱き締める腕に力がこもる。
少し苦しかったけれど、その手を払ったり逃げるつもりはなかった。
彼の苦しみを私はきっと全て理解してあげられない。
そばにいることもできない。
世界を壊す協力もできないだろう。
この寂し気な背中を抱き締め返すべきなのか振り払うべきなのか、私にはわからなかった。
「君が必要なんだよ」
頬を優しく撫でながら視線を合わせてくる彼の瞳を見ていると、突然視界がぐにゃりと歪み始める。
こんな場面、ダガーsideのイベントで見たはずなのに………迂闊だった。
「クジャ………それ、は………ズ、ル………い………」
「君は優しすぎるよ、ツカサ………」
(ジ………タ、ン………………)
薄れゆく意識の中で、空に輝く金色がキラリと光ったような気がした。
(
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