「その穴が外側の大陸に?」
外側の大陸に行けるかもしれないというシド大公の話が、まるで流れるように耳に残らない。
何となく気持ちがソワソワするのは、きっとクジャのことが気になるからだと思う。
(クジャの目的がわからないのに、危険を覚悟で会うのは得策じゃないよなあ………)
「ああ、そのほうがいいな。
じゃあツカサはビビと待っていてくれ。すぐ戻ってくるよ。ダガー、行こう」
うーん、うーん………と考え込んでいたところに声が掛かった。
何の話かわからなくて聞き返すと、これから旅の準備に入るらしい。
長旅になるだろう。それなりに荷物も必要なはず。それなのにジタンは私を誘わなかった。
「え?私も待ってていいの?
それなりに長旅になるだろうし、荷物も増えるでしょ?荷物持ちはいた方が………」
「いや、さっきから何だかボーッとしてるし調子悪いんじゃないのか?
これから何があるかわからないんだ。休める時に休んだ方がいい」
そう言ってすぐに出ていってしまった。
まさか気付かれていたとは思わなかった私は、何か言うこともできずにジタンとダガーの背中を見送る。
振り向くと外を眺めているビビの後ろ姿。近付こうとしたけれど、胸のソワソワした感覚がまだ止まらない。やっぱり私はクジャが気になっている。
(この際、わからないなら確かめればいいだけの話だわ)
ここにいれば安全だけれどきっと何もわからないままだろう。
何もわからないかもしれない。
けれどわからなかったということがわかるならいいと思った。私にとってクジャは追う相手ではなかったということになるのだから。
ビビを1人にするのは心苦しいけれど城の中なら大丈夫だろうと、シド大公にビビのことをお願いしてから出口に向かった。
「お姉ちゃん、どこ行くの?」
「あ、ビビ………
少し用事があったことを思い出したの。ジタンたちが戻ってくる頃には私も戻るよ」
心配そうにこちらを見るビビの顔に少し胸が痛くなる。
私の心配なんてしなくてもいいのに。
もっと支えるから自分のことでいっぱいになってくれてもいいのに。
(心配してくれてありがとう、ビビ………
でも私は確かめてくるね)
街の外と言っていたクジャの言葉を思い出し、ジタンたちもいるであろう商業区から出るか迷った。
しかしまさか城の門から出るわけにもいかず、周りを警戒しながら商業区の外へ向かう。
(えーと?クジャはどこに………)
門から出ればモンスターもいる。
なるべく遭遇したくないため、まずはぐるりと辺りを見渡した。
リンドブルムが高いところにあるお陰で“霧”の中にいるような視界の悪い嫌な感じがしない。
しばらくすると先程見た銀竜が降下するところが見えた。
降りた先は数時間前に自分たちがいた場所、ピナックルロックス。
「えええ………自分は銀竜乗ってるからいいけど、私にあそこまで歩けと?」
城に来るまでの道のりを思い出すと気分が下がる。
どうかモンスターに会いませんように、と祈りながら歩き始めたのだった。
「久しぶりだね、ツカサ」
「………と………ぃ」
「うん?何だい?」
ようやく辿り着いた場所で、クジャは銀竜の上で悠々としていた。
その余裕さを見ると無性に腹が立つ。
「遠い!って言ったの!!
そっちは竜に乗ってるからいいけど、こっちは徒歩なのよ!?
ジタンたちが帰ってくるまでに私も戻らないといけないんだから………」
「いいじゃないか。もう戻らないのだから」
「え?」
「君はもうあの場所には戻らない。
あそこは君のいるべき場所じゃないんだよ、ツカサ」
ああ、これってやっぱり危険な賭けだったのかなーなんて思ったけれど、もしもの場合の逃げ方まで考えていなかった。
それでもどうにかなる気しかしなかったのは、きっと自惚れていたんだと思う。
(どうにか助けを求めなきゃ………!)
何かあれば必ず来てくれる。
どこにいたって見付けてくれるって。
私は空に輝く金色に向けて手を掲げた。
(
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