「夢の中って………」
驚いている。でもピンときていない表情をしていた。
こんな突拍子も話、無理もない。
でもこれを信じてもらえれば、きっと不必要に情報を提供しなくていいし本当に彼らが迷った時だけ助けられる。
「何ていうのかな………予知夢って信じる?」
「予知夢?」
「そう、よく子供が夢で見ちゃうアレ。私の場合、未だに見るの。
いつ起こるかも定かじゃないし、本当に起こるのかもわからない夢を断片的にね」
「そんなこと本当にあるのか?」
「あるよ。私の場合、いつ起こるかまではわからないけれど必ず起こる。
じゃなきゃアレクサンドリアみたいな大きな城の内部なんか、スパイじゃないとわからないわ」
ふーん………と疑わしいというような目で顔を覗きこんでくる。
目を見て嘘か本当か見極めているよう。ジタンはどこまで嘘だって気付くかな………?
もちろん、私もこれ以上疑われるわけにはいかない。
「じゃあ今度そんな夢を見たら俺に教えてくれ。
よくないことを回避できるかもしれないだろ?」
本当に信じたのかわからないけれど、ジタンはそれ以上何か訊くことはなかった。
私はこの嘘に後悔なんてしない。
私たちをゆっくり朝日が照らし始める。
ガイアの夜明けだ。
「もうすぐ夜明け、か………
もう少し休めよ。見張りは俺がする」
「うん………ありがとう」
仮眠をとるために横になる。
陽が顔に当たらないようにジタンが陰をつくってくれた。
ありがとうと言おうとすると、陽に照らされた金色が眩しくて………逆光で見えないジタンの横顔があまりに綺麗で………
私は何も言えなかったんだ。
「寝たか。余程疲れてたんだな………
なぁ、ツカサ。そんな嘘をつく程の目的って一体何なんだ?」
目が覚めると太陽がまだ傾いている頃。
(………2、3時間ってとこかな)
周りを確認すると、丁度みんなが焚き火の後始末をしてくれたりアイテムの確認をしたり………出発の準備をしているところだった。
「あっ、ごめん。起こしてくれてよかったのに」
「ツカサ………ううん、いいの。
夜中、先に目が覚めて見張りをしていてくれたって聞いたから」
「ボク、すごく温かいなって思って目が覚めたんだ。
焚き火とか大変なのに………お姉ちゃん、ありがとう」
誇張されている気がしてジタンに視線を移すと、笑顔で口をパクパクしていた。
(そ………れ、で………い、い………だろ………?
それでいいだろ?って………)
これからのことを聞くと、ここがリンドブルムの近くだってことと………おじいさんが現れた話を聞いた。5つの物語を集めるらしい。
(間近で召喚獣見たかったな………)
今後戦闘中に現れることはあっても、話す機会なんてなかなか無い。
これから試練をするとかで、森の中を探索するらしい。
それなら最後にまたおじいさん………ラムウに会える。
「昨晩の話はみんなにしなかったぜ。
ツカサは、クレイラが消滅したことを知っているのか?」
「うん、消滅したことは知ってる」
「ダガーの召喚魔法をブラネが使った。
間違った使い方をしたからクレイラが消滅したんだ………ダガーは召喚魔法と向き合おうとしてる」
「なるほどね。それで力を貸してくれるかどうか試されてるってことか………」
分身のラムウを探しながらジタンがより詳しく状況説明をしてくれた。
向き合おうとするダガーを私は誇らしく思った。
「5人を見つけたようだな………
では、物語をつくってもらおう。ただし、物語は4つで成り立つ。
1つは偽りの話ゆえ、4つだけ選ぶようにな………」
「発端、協力、沈黙。あとは人間と英雄か………」
独り言のように呟いた言葉は誰にも届かなかった。
ダガーなら間違えることなく物語をつくれるだろう。最後の1つは、きっと………
「この4つでよいか?
………ひとつ聞きたいことがある。なにゆえ、この『勇者の物語』のしめくくりを『英雄』としたのか?」
(そっか。やっぱり英雄にしたんだ)
「行動が一貫した人物こそ、人や民が認めるのだと思います。
遠き時代からの伝承に残るほどの勇者ならば、どのような時も迷わず進んだのではないかと思いました」
「………そなた自身がどう考えたのかを聞きたいのだ」
「わたし………ですか?今は国を離れてはいますが城の者、民のことを忘れたことは………」
「………そなたの魂ははりさけんばかりに緊張しておるな。
召喚魔法になることで少しでもやわらげることができるのなら………我が魂をそなたに預けよう」
「ありがとうございます!」
「道はひとつではなく、どの道をゆくかはそなた自身が選ぶということ、忘れぬようにな」
「さあ、リンドブルムに行きましょう!」
そしてダガーは走っていってしまった。
ラムウと目が合う。一応会釈をしたが、ほんの一瞬こちらを見定めるようにじっと見つめてラムウは消えた。
この物語を聞くのも初めてじゃないはずなのに、私には難しくてよくわからない。
だからこそ、ジタンの言いたいことはよくわかった。
「………じいさん!もういないのか?」
「どうしたの?」
「なんのためにあんなことさせたのか聞きたくなってさ。人間的だの英雄的だの、どっちも、後のやつらが勝手に言ってるだけだろ?
うまくいえないけどさ、その時、そいつらが選んだことに後で意味付けしても、しかたなくないか?」
「………おじいさんは、おねえちゃんがどっちを選んでも力になってくれたんじゃないのかな。
なんとなくそんな気がしたんだ」
「うん………私もそう思う。
物語に意味付けしてもしかたないけど、きっとダガーの自信になったと思う。
召喚魔法とちゃんと向き合えるんじゃないかな」
「ジタン、ビビ、ツカサ早く行きましょう!」
いつまで経っても来ない私たちに大きな声でダガーが呼ぶ。
すると、姿は見えないけれど先程と同じ声が聞こえてきた。
「その通りだ………後世や、周りの者がなんと言おうと、大切なことは素直な心なのだ………
彼女は気付いておらんかもしれんが召喚魔法を使いたいと心から願い、我が分身を探した過程で本来の召喚の力を取り戻したようだ。
召喚魔法は、使い方次第で神にも悪魔にもなる。考え方は固かったが望みはあるということ………ゆえに我があるじとしたのだ。
行く末、見守られてもらうがそなたたちの存在、彼女の中で小さくない我があるじのこと、よろしく頼むぞ………」
「う、うん!」
「ああ、まかせときな!」
「大丈夫!」
そこでラムウの気配は無くなった。
私たちはダガーを追って、木の根を飛び越えて崖を下りる。
ダガーは遠くに見えるリンドブルム城を見つめていた。
「わたし、召喚魔法をみんなのために使いたい………」
「ああ、ダガーならきっとできるさ!」
「召喚獣も正しく使われたいと願ってる。ダガーなら大丈夫!」
ダガーの想いはよくわかった。私たちもできる限り支えてあげたい。仲間だから。
すると突然ビビが私の腕を引っ張った。
「ジタン、おねえちゃん!
あ、あれ………!」
「………あれは、レッドローズ!?」
ビビが指差す方を見ると空に何隻も飛空艇が飛んでいて、リンドブルムを攻撃し始めたところだった。
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