アレクサンドリア 2





「こいつらがガーネット姫を!」

「さらおうとしているのでごじゃる!」


本当にこいつらは1mmも好きになれない。
そしてブラネ女王。以前見た時はこの旅が始まる前だった。
きっと悪い人ではないのだと思う。でも、今の私にこの女王を許す余裕はなかった。


「ガーネットか………もうガーネットからは全ての召喚獣を抽出したのか?」

「抽出したでおじゃる!」
「抽出したでごじゃる!」

「だったら、はやくガーネットを捕らえて牢屋に閉じ込めておしまい!」

「あんた、いつまでそんな………!!」


口を挟もうとした私を遮ってベアトリクスがすぐに前に出た。その時私の肩を見えないように後ろへ引く。
そして彼女は迷いのない目を向けた。


「その命令、どうかお取り下げください!」

「ほほう………このブラネに逆らうとは、どうしたことじゃ、ん?」

「ブラネ様、私の使命はガーネット様の身を守ること………どうか、これ以上ガーネット様に手をお出しにならないでください!
あなたたち、この場は私にまかせて早く逃げなさい!」

「私はこの場を去れぬ!ジタンよ、早く逃げるのじゃ」


目が覚めたばかりのダガーと一緒にいるのが正解なんだと思う。このメンバーでは私が唯一の回復役なのだから。
でも、そんなことわかっていたけれど私は女王の前に走り出た。


「じゃあ私も残るわ。逃がすくらいの時間稼ぎ、私たちに任せといて!
ジタン、ダガーのことよろしくね。
ダガー、無理しちゃダメだよ!」

「ツカサ!?
そんなのダメだ!ツカサも一緒に逃げるんだよ!!」

「バカ言わないで。私はジタンを信じてるから頼んでるってわかってる?
………必ず追うわ。さ、行って!」

「ついさっきまでは敵と味方だった者が今は手を組むのか、ほほう、面白い………
ゾーンとソーンよ、私を本気で怒らせた奴らを徹底的にやっつけておしまい!」

「お母さま!」

「ツカサ、フライヤ………後をたのんだぞ!」

「うん、そっちもしっかりね!」
「まかせておくのじゃ!」


ビビがロウソクの仕掛けに触れてまた地下への入り口が開く。
ジタンたちが見えなくなるのを確認してゾーンたちが連れてきた魔物と向き合った。
3人でどこまでやれるかわからない。でも不思議と不安はなかった。


「ツカサ………おぬしは共に行くべきだったのではないか?」

「どうして?ジタンならダガーをちゃんと守ってくれるわ。それが私たちのリーダー、でしょ?
とりあえず2人共、エーテル先に飲んでおいて!ガンガンいくよ。頃合いを見て逃げるんだから!」


アイテムを投げるのはもうお手の物になってしまった私は確実に2人に投げ渡す。
バンダースナッチがじりじりと牙を剥き出しにして襲いかかろうとしている。


「初めて会うのにあなたは初めてのような気がしませんね」

「そうですか?私はベアトリクスのような美人に会うのは初めてで緊張してます………よっと!」

「話ながら戦って、舌を噛むでないぞ!」


何だか清々しい気分。
フライヤとは狩猟祭以来だけれど、息が合っている気がする。ベアトリクスはさすがというか………よく周りを見てベストタイミングで連携してくれる。


「ここから先は行かせないんだから!!」














■ジタンside





ついさっき上った大きな螺旋階段を駆け下りる。
途中、どこからともなく現れた魔物たちと戦いながら下を目指した。
目が覚めたばかりのダガーにキツいかもしれない。そう思って視線を向けると泣きそうな顔で上をチラチラ気にしていた。


(………まあ、そりゃ気になるよな)


俺だって気になってる。でもツカサは行けと言った。俺を信じてるから………って。
ツカサは信じてくれているのに、俺が信じていなかったらリンドブルムの時よりすれ違うかもしれない。
今きっと俺は本当の意味でツカサを、仲間を信じているんだと思う。


「あれ?スタイナーはどうした?
おっさん!もたもたしないでくれよ!」


振り返ると1人遅れている奴がいることに気付いて、遅れている本人に声をかける。
思い詰めるような面持ちで階段を下りてきた。


「自分は果たしてこの場所にいて良いものであろうか?」

「どうしたんだよ?スタイナーのおっさん!」

「忠誠を誓ってきたブラネ様に刃を向けたベアトリクスと………
自らの仲間を殺されながらも、共闘して姫さまを守ろうとしてくれているフライヤ………
最初から巻き込まれた立場のはずなのに、どんな時も側で支えてくれていたツカサ殿………

ブラネ様が本気で怒ってしまった以上、彼女たちの命を取りかねん!」


そして意を決したように顔を上げ、こちらに近付いてきた。
ああ、決意した男の顔だ。


「ジタン、おぬしに頼みがある!

アレクサンドリアを無事脱出し、姫さまをトット先生のもとへ送り届けてはくれぬか?
トット先生なら、この荒んだアレクサンドリアを救うための良い手立てを考えてくれるはずだ………」

「わかったぜ!
その心意気、俺が引き受けた!」

「ボクも頑張ってみる」

「ジタン殿、ビビ殿頼りにしているぞ!
姫さま、さらばです!」


ダガーにはそれだけ言い残してスタイナーは来た道を戻っていった。
それを見つめる儚げなダガーの後ろ姿。


「スタイナー………みんなわたしのために………」

「そうだよ、ダガー!
みんな、ダガーのため………アレクサンドリアのため………そして、自分のために必死で生きてるんだ!
だから、こんなところで立ち止まってちゃいけない!こんなところでくたばれるかっ!

生きよう!!」

「でも、わたし………」


何か言いかけたところでまた魔物が現れる。考えている余裕は無さそうだ。
相手は1匹。難なく倒す。
追っ手が少ないのもきっとみんなが足止めをしてくれているからだとわかる。


「さあ、急ごう!」


さらに下を目指して走り出す。
ダガーが横たわっていた部屋を通りすぎると、少し拓けた場所に出た。
ダガーの話では、ここからアレクサンドリアに入ってきたらしい。つまりもう少しでアレクサンドリアから脱出できるということ。




ガシャンッ




「しまった、ワナか!?」










■ツカサside



「どうじゃ、持ちこたえられるか!?」

「これだけ続けて戦うと、私でもそう簡単には………」

「ケアルで疲れも取れればいいのに〜………
私は2人より体力ないし場数も少ないから、そろそろマズイです………」


止めどなく襲ってくるバンダースナッチたち。
最初は何匹倒したか数えていたけれど、もう20匹から先は覚えていない。ゲームの時より遥かに多い。
みんなの疲れが溜まってきた頃、下の方からガシャンガシャンと鎧のような音が聞こえてきた。


(やっとスタイナー来たの!?)


「ベアトリクス!フライヤ!ツカサ殿!!」

「スタイナーではありませんか!?」

「プルート隊隊長………アデルバート=スタイナー………誉れなる御三方に加勢いたしたくただいま、はせ参じました!

ツカサ殿、ここで交代であります!」

「はい?交代って………」

「姫さまを追っていただきたい!
この先、姫さまが怪我をしても白魔法が使えるツカサ殿がいれば安心である。
ここは任せて、行ってくだされ!」

「え、えっ?でもこっちだって回復………」

「行くのじゃ、ツカサ!
おぬしのやさしさはわかっておる。でもたまにはジタンの気持ちも考えてやれ!」


有無を言わさない圧力をかけられ、私は頷くしかなかった。
しかしまた魔物が襲ってくる。そいつらだけでも倒そうと近付こうとすると、みんなに早く行けと止められた。


「みんな………ありがとう!また後で!」


そうして後ろを振り返らず下へ下へと下りていった。
もうそろそろジタンたちが罠に引っ掛かる頃。

さっきまでダガーがいた部屋の真上まで来た私はそのまま迷うことなく飛び降りた。これくらいの高さ、怖くない。
更に下へ向かおうとするとジタンの怒鳴り声が聞こえてくる。


「おまえたちっ、ひきょうだぞ!!」

「これが我々のやり方でごじゃる」

「おまえたちに口出しはさせないでおじゃる」

「毎回、同じ手は通用しないっス!」
「ジタンっ、待たせたなっ!」

「ブランク!!」


数人の声が響く。
私が着く頃にはゾーンとソーンが気を失っていた。
ブランクとマーカスのお陰で罠も解除される。久々の再会だというのに言葉が出てこない。
私に気付いたブランクがこっちを向いた。


「おまえ………ツカサか?」

「ツカサ!?よかった、無事だったんだな!」

「うん。今上でお兄さんたちが食い止めてくれてるよ。
何て言えばわかんないけど………ブランク、もう一度会えてよかった!」


こんなにも距離が無ければブランクに抱きつく勢いだった私は、限界まで手を伸ばして大きく振った。
ブランクは片手を挙げて笑ってくれる。


「ガルガントステーションはすぐそこっス、ジタンさん!」

「あの………ブランク………マーカス………」

「礼なんかは後でいいから、おまえたちは早く逃げろ!!追っ手がくるぜ!!
ツカサ、今スッキリしてるんだな。安心した。気を付けて行けよ!」


ダガーの言いたいことがわかったブランクは早く行けと促す。
私は笑顔で頷いた。ブランクの言葉に心が温かくなる。


「また借りができちまったな、ブランク!!
さあ、急ごう!!」

「またね!ブランク、マーカス!」









その先へと走ると、少し霧のようなモヤがかかった地下へ着く。


「ここからダガーたちはやってきたのか………?
ん?どうした、ダガー?」

「………」

「無理もないよ。あんなことがあったんだし………」


遠くから何か音が聞こえた。
鳴き声のような………段々とその音も大きくなってくる。


(そうだ、ガルガント………!!リアルは大丈夫かな………)


「何か来るよ!」


ビビがそう言ってすぐにその姿が見えた。本物のガルガント。


「こ、これに乗る………の?」

「やっぱりビビも………怖いよね」

「急いで乗るんだ!考えてるヒマはないぞ!!」


すぐにビビは乗り込んだ。
さっきまで怖そうにしてたのに!と思ったけど、ダガーが来た道を眺めていた。


「ダガー!!」

「でも………わたし………どうすればいいのか………」

「それはこれから考えればいいと思う。
どうしてみんなが残ったと思う?自分で決めたからだよ!ここで戦わなきゃならないって、私も思ったからあの場に残った!
ベアトリクスも、フライヤも、マーカスも、ブランクも、そしてダガーから片時も離れなかったお兄さんまで………」

「そうだ、奴らの思いをムダにするな!今ダガーがすべきことは何だ?」

「ダガー………リンドブルムでジタンと別れたことは少なからず間違いじゃなかったハズだよ。

何で別行動しようと思ったの?やるべきことがあったからだよね?

必ずそこには何か覚悟があったハズだよ。思い出して!

今の迷いは最初の覚悟を揺るがさないかな?」


私がブランクに言われたことだけど、今でも私の胸の中にある大事な言葉。
想いが通じたのか、ダガーは力強く頷いてガルガントに乗った。









「ねえ………いったいどこに向かうの?」

「ひとまずはトレノに向かってそこから手だてを考えないと………」

「これって生き物だけど………勝手にトレノに行ってくれるのかな?」


と、上を向くとガルガントの立派な背中が見えた。
何となく蝉のような昆虫系な気がして鳥肌が立ったけど、乗せてもらっている身だし………と我慢する。

すると突然ガルガントの足が止まる。モヤの向こうに大きい蛇のような魔物が見えた。


(そうだ………この後暴走してヤバいんだった!!)


「気を付けて!前にいた時とは違うみたい!」

「ま、前にもいたなら言っておいてよー!」


狭い空間の中での戦いは大変だった。
しかもこの蛇、攻撃に反応して防御する。私は魔法メインで戦うことにした。










「よいしょっ、と………」

「前と違うって言う割りには、そんなに強くなかったね。最後の力振り絞って追ってくるかなー?」

「お、動き出した………けど何だか遅くなったな………
おおい、早く走れよー」

「そんな、かわいそうよ。ずっとこわい思いしながら、走ってくれてるんだから………」


みんなの会話を聞きながら私は後ろが気になって仕方なかった。
きっともうそろそろ………


「あれ?なんだか………」

「お、なんだ?速くなったぞ?やればできるんじゃないか」

「あああ………来たよ、やっぱり!
ジタン、どうする!?魔法でドカンとやっちゃう!?」


私の声にみんなが振り向いた。
しかしこのスピードじゃガルガントから降りられない。


「げげげ、追っかけられてたのか!?
ツカサ、地下でドカンは無しだぜ!」

「まずいわ、このままじゃトレノを通り過ぎて………」


アレクサンドリアで乗ったガルガントステーションに似た風景が見える。
しかし止まることなく猛スピードで通り過ぎていった。


「な、なんだか………通り過ぎたみたいだよ………」

「………!ジタン、前!!」

「ん?なんだ………?げっ!?」


段々と揺れが大きくなるガルガント。
前を見るとデコボコの空間に太い根が生えているような………どう見ても安全ではなさそうだった。
速すぎて周りがどんなか、景色さえ見えない。


「道がっ!?」

「きゃあっ!!」

「落ちちゃうよっ!!」

「しっかりつかまってろ!!」

「こんな浅い乗り物のどこ掴めっていうのよ………!」

「出口!?」


突然の眩しさに目が眩む。
その瞬間、空でも飛んでいるかのような浮遊感と背中を強く抱き締められる感覚。

それが誰だかすぐにわかった私は、目の前にいたであろうダガーとビビを咄嗟に掴んだ。











迷っているばかりじゃ進めない。


私は自分に自信があるわけじゃないけれど、ブランクの言葉で自分を信じてみようと思ったんだ。


これから更なる困難が立ち向かってきても………私はみんなを信じている。



それは、もうこの物語を知ってるからとかじゃない。


みんなの仲間になりたいと心から思ったからこそ、自信をもってそう言えるのだから。








back/save