トレノ





「………ブルメシアが黒魔道士兵におそわれたそうっス………
さっきの敵と同じような黒魔道士兵にブルメシアの人々は………」

「………………」

「いったい誰がそのようなマネを………」

「本気でそんなこと言ってるっスか!?」

「どういう意味であるか!?」

「スタイナーやめて………
わかってるから………もうわかってるから。

城に向かって………そしてお母さまにお会いして………
きっと………わかっていただけるわ」


ワルツを倒したというのにスッキリしない。
これからのことを考えると少し怖かったのかもしれない。

それでも………
それでも………………
進んでいく時は止められない。自分だけが止まってなんていられなかった。
もうすぐ列車はアレクサンドリアに着く。


「なんだか………ちょっと変わったっスね」

「わたし?ことばづかいのこと?」

「いろいろっス」

「そうね………いろいろあったから………

あ、そうだ!そう言えば………変わったと言えば、もう戦闘だって慣れたし、足手まといにはならないわよ」


わたしは胸を張ってマーカスに言った。
何となく彼も“お姫さまだから”って思っているんじゃないかと思った。


「ブランクを助けなきゃ!トレノで白金の針を探すんでしょ?」

「しかたがないっスね………ダメって言ってもついて来そうっスし………
(やっぱり………あんまり変わってないかもしれないっス………)」


列車を降りれば、車掌さんがまた丁寧に道を教えてくれた。
迷わずトレノへ向かえそうで少し安心した。










眠らない街 トレノ






門をくぐれば、夜の闇に照らされた無数の光が辺り一面に溢れている。
ずっとアレクサンドリアにいたのに、こんな景色を見たことがなかった。


「姫さま、ここが貴族の街トレノであります」

「まずはどこの貴族の家に白金の針があるのか情報収集しなきゃね」

「貴族なんて一部だけっス………
夜が長いっスから、盗賊にはもってこいの場所っス」

「貴様らのような者どもがこの夜の都をおとしめたのだ!」


マーカスには悪いけれど、スタイナーのお小言を任せて情報収集をすることにした。


「………行っちまうっスよ」

「待たんか!まだ話は終わっておらんっ!」

「俺じゃないっス」








「へえ………ここはオークション会場なのね。
ここだったらもしかしたら白金の針が手に入るかも………」


そこで上から会場を見下ろす人物に気付いた。


「姫さま、ここにおられましたか!
心配いたしましたぞ、もし姫さまの身に………」

「スタイナーの小言に付き合ってたら白金の針のありかも探せないわ。
でもどうやらここには白金の針はないらしいわ。
マーカスは?」


またも項垂れるスタイナー。この姿を見るのは何度目なのか、もう思い出せないほど見た。
そして小さく「存じませぬ………」と返事をした。


「マーカスが、もうありかを見つけてるかもしれないわね。
あれ、行かないの?また先に行っちゃうわよ」


そう言うとスタイナーはハッと顔を上げて先にオークション会場を出ていった。


「………あの人、どこかで………」


再び見上げるともうそこに人影はない。
どこで見たのか思い出せないままマーカスの居場所を探した。

会場を出て民家に入るとマーカスがいた。今から白金の針を取りに行くらしい。
すぐにでも行けると言うので、早速出発することにした。

後ろから鎧の音を激しく鳴らしてスタイナーが追いかけてくる。


「この先に、ボスが待ってるっス」

「ボスって………あなたたちの?」

「そりゃそうっス。俺たちがボスって呼ぶのはひとりしかいないっス」


民家の地下はトレノを巡る水路に繋がっていた。
船着き場に誰かが立っている。きっとあの人がボスなのだろう。


「お姫さまがいいのかい?
他人の家に忍び込むようなマネをして………」

「あなたたちが余計なものまで盗まないように見はらなきゃね」

「ええい!自分も同行するのである!
貴様らが姫さまを悪の道に連れ込まぬよう、監視することがこのスタイナーのつとめなのである!」


マーカスもボスも呆れ顔になる。
でも諦めているのかもしれないが、2人共ダメと言わない。


「全く、おつとめ御苦労なこった………が、おまえさん、自分自身がいったい何をしたいのか、考えたことはあんのかい?

ちったあジタンとツカサと一緒に行動して、おまえさんも変わってるかと思ったが………自分、自分て言いながら、自分のねえ奴だな………」

「あなたもツカサと知り合いなのね」

「知り合いってわけじゃあねえ。あの1件で会っただけだ。
まあ、訳ありのようだったからとりあえずブランクに任せたが………なかなかいい目をしてる娘だったな」


詳しくは聞けなかったけれど、ボスの顔はなんだか楽しそうな感じの笑顔で溢れていた。









■スタイナーside




(いったい自分は………何をやっているのであるか?
盗賊どもにくみするようなまねまでして………

いや………耐えるのだ、アデルバート=スタイナーよ………

姫さまをお守りし、アレクサンドリアにお届けするが自分の任務………
女王陛下が非道なことなどなさるはずがない………きっと何かお考えがあるに違いないのだ………


………自分がない?


いやいや、そうではないのだ!
あさはかな自分などには女王陛下のお考えなど理解できるはずもない………

盗賊ふぜいの言葉など気にすることはないのだ………ただ姫さまをお守りしてアレクサンドリアに………

もうあいつに会うこともないのだ………
そう、あいつがいかんのだ。あいつが姫さまをかどわかし………


こんな時、我らを支えてくれていたツカサ殿なら何と言うのであろう………?)









■ダガーside




(………ジタンが悪いのよ。ジタンがわたしのこと子供あつかあいするから………
だからこんな所でわたしが白金の針をさがすなんてこと………


………そう………どうしてわたし、こんなことを?


ブランクを助けるため?
わたしを助けてくれたから?
最後ツカサたちを助けてくれたのもブランクだったのよね………

そうよね、助けてくれた人を助けるためだもの………
あたりまえのこと………



でも………わたし、そんなこと考えたことなかった………)






船を降りて建物の中に入ると真っ暗で人の気配はなかった。
たくさん物があってカウンターもあるところを見ると、どうやら閉店後の道具屋のようだった。
本当にここにあるのかも怪しいが、マーカスは探すと言う。

すると奥の階段から誰かが下りてくる足音がする。
足音からするとどうやら1人のようだった。
相手はまだこちらに気付いていない。


「どうするっスか?」

「………!!ちょっと待って!」

「姫さま、いけませぬ!」


スタイナーの言葉も無視してその人物の前に飛び出した。
しばらく見つめあってから相手はわたしのことを思い出した。


「………まさか!!」

「お久しぶりです………トット先生」

「ひ、姫さま!ガーネット姫さまではありませぬか!」


トット先生に事情を説明すると上の階から声が聞こえた。お店の人が目を覚ましてしまったらしい。


「ここはひとまずお逃げなさい!白金の針は後でお渡しいたします。
トレノの入り口より左にすすむと回廊が続き、突き当たりまで行くと大きな搭がございます。

そちらがわたくしの住む家です!
カギを開けてお待ち申し上げておりますので後ほど!」


トット先生にお礼だけ言って、わたしたちは一旦戻ることにした。






「それで………そのポッポってのが白金の針をくれるってんだな?」

「………トットっス」


そこで大きなくしゃみを1つ。


「ヘブション!
トットだかトントンだか知らねえが、このタンタラス団がお情けをかけられるたあな。
まあいい………それじゃあまだ、お姫さまのおもりは終わんねえってこったな。

お姫さまがいなけりゃ、おめえなんぞに白金の針はくれねえだろ?


ってことだ、お姫さまよ。白金の針のためにそのチッチの所まで頼むぜ」

「………トットっス」

「ま、とりあえず一休みしてから行きな………
そのピッピもそうそうすぐは準備できねえだろうしな」

「………トットっス」



そうしてわたしたちは再びアイテムや装備を確認しつつ、トット先生に言われた建物に向かうことにした。










いろんな経験をした。

いろんなものを見た。


だからこそ、より強く思ったわ。






わたしはわたしの出来ることをしたいって。








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