ブルメシア 2





「フライヤ、この様子じゃ、ブルメシア王の命は、きっと………」


王宮の入り口までボロボロに破壊されていた。
フライヤは膝をついて項垂れる。
そっとしておこうとしたが、誰かの気配を感じたフライヤが真っ先に動いた。何メートルもある大きな像に飛び乗り、上から中に入ろうとする。


「王宮の中に人の気配がする!
おぬしらも、はやく登って来るのじゃ!!」

「登れって言ったって、俺たちは、フライヤほど簡単に登れやしないぜ………」


近くの像に飛び移りながらフライヤの後を追おうとしたが、ビビは転んで飛び移れない。仕方無いから隙間を見付けて入るように言っておいた。
中に入るとブラネ女王の姿が見える。しかし、王宮まで来たのにツカサの姿は未だ無い。


「あの、左に立っている奴は、アレクサンドリアの女将軍ベアトリクスだな」

「あやつが、ベアトリクスか………
泣く子も黙る冷血女と聞いたが見るのは初めてじゃ」


「………………」

「………………」


しばらくの無言。

突然立ち上がるフライヤに声をかけると、昔を思い出していたという。
するとブラネ女王の元に変わった格好の知らない銀髪の男が現れた。女王が“クジャ”と呼ぶ。
ブルメシア王がクレイラに逃げ込んだことで、次はクレイラを狙うらしい。


「あんなこといってるぜ!」

「うむむ………だいたいあの気色の悪いやつは何者じゃ!?」

「さあ………見たことのない奴だな。
それよりクレイラってのは幻の都といわれている、あのクレイラのことだよな?」

「そうじゃ、外界との接触を絶ってもう百年は経つ国じゃ。
クレイラに逃げ延びたということはしばらくの間は安全ということじゃの」


聞けばクレイラはブルメシアの民と同じ血が流れているらしいが、昔に縁を切ったらしい。
するとそこに1人のブルメシア兵が飛び出してきた。ベアトリクスがいるのに気付いていないのかもしれない。


(まずい………!)


そう思った俺たちは同時に飛び出した。


「フッフッフッ………私も甘く見られたものだ。
百人斬りの異名を持つ私にとっておまえたちなど、虫ケラに等しいわ!」


ビビも加わって、俺たちは兵士の代わりにベアトリクスと対峙する。
女だというのに力強い。そして無駄の無い動き。さすがとしか言いようがない。

ベアトリクスの技はどれも大ダメージになった。
自分達で回復アイテムを使いながらの戦いになり、攻撃も満足にできない。


(くそっ、ツカサの言う通りになったな………)


ツカサもいてダガーもいて、回復に特化したメンバーだってようやく気付いた。
そして最後の大技、ストックブレイクによって俺たちは膝をつく。



立てない。



動けない。



声も出ない。



2人の去って行く足音だけが聞こえた。


「さて………ドブネズミは置いといて………問題はこっちの少年だな」


銀髪の男が徐々に近付いてきた。
そして俺の近くで小さく囁く。


「大事なものっていうのは、無くしてから気付くんだ………

あの子、今何をしてるか知ってるかい?」





“あの子”




(………あ、の………子………?)


頭の中がぐるぐるする。体力を消耗していて頭が働かない。

あの子って誰だ?
ダガーのことならお姫様じゃないのか?きっと“あの子”だなんて言うとは思えない。
そうなると思い当たる人物は1人しかいなかった。


「く、そっ………!待てっ………
あい、つ………に………何を、した………!?」


辛うじて出た言葉に男はニヤリとしただけで、銀色の竜に乗って飛び立ってしまった。










「立てるか?フライヤ」

「あれくらい、なんともないわ………」

「ビビは、どうだ?」

「う、うん、大丈夫………」


2人の無事を確認したけれど、まだまだ不安は残っていた。


「ところで、あいつらクレイラへ行くって言ってたけど………追いかけるか?」

「あたりまえじゃ!
私がクレイラに行かぬわけがないっ!!」


フライヤならきっとそう言うと思っていた。
俺も追いかけようと思う。きっとツカサが待ってる、そんな気がするんだ。


「あ、あの………クレイラに行けば黒魔道士のことがわかるかな………?」

「ああ、ブラネとあのクジャの後をつけて行けば黒魔道士のことが分かりそうな気がするな」


ビビもまだ知りたいことがたくさんある。
行くと決めてくれた。


「そ、それと………お姉ちゃんたちは………」

「ツカサたちのことだろ?俺が2人のことを忘れるわけワケないって!!
でもさっきクジャが立ち去る間際に気になることを言っていたんだ。もしかしたら2人は一緒じゃないかもしれない。

きっと、すぐどこかで会えるはずさ!
さあ、行こうぜ!」







本当は心配で仕方なかった。


俺は自分自身に言い聞かせるように言ったんだ。








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