ブルメシア








今思えば、きっとかなり焦っていたんだと思う。


急いでリンドブルムを出ても3人は見当たらない。
門番をしていた兵士に聞いてもわからないと言っていた。
望遠鏡で見た時から気になっていた沼も素通りするほどに、俺は周りが見えていなかったんだと思う。


ギザマルークの洞窟に着くと、入り口にブルメシア兵が何人も倒れていた。
辺り一面、残忍さだけが残っている。


「こ、この様は………!
おい、しっかりせぬか!フライヤじゃ、なんとか言え!」

「ひどくやられてるな………」

「ボ………ボク………」

「心配するな、お前は関係ねえよ」


フライヤはビビの仲間がやったことだと思っているみたいだが、王のことが心配だと言ってすぐに走っていった。


「ツカサ………こんな危険なところに来るなんて………
俺たちも急ごう!」


俺たちもフライヤを追って洞窟の中に入った。
どうやらこの洞窟は特殊なベルで扉を開く仕掛けになっているらしい。

モンスターの気配がたくさんする。あのとんがり帽子もウロウロしていた。
そして赤と青の道化師。


(あいつらどこかで見たことあるな………)


仕向けられた黒魔導士を倒せば奴等は簡単に逃げていった。
足止めをしたかったわけではないらしいが、俺にはイラつく要因にしかならなかった。
探しても探しても見付からない。
倒れているブルメシア兵を見ると、ツカサたちだったら………と胸が締め付けられる。



そして俺たちはギザマルークでツカサたちを見付けることは出来なかったんだ。







青の王都 ブルメシア




洞窟を抜けるとすぐ目の前にブルメシア王国が見えた。

まだまだ道のりは長いが、この距離なら半日で着けるだろう。
最低限の休息しかとっていないが、足を止める気にはなれなかった。


「ここが、フライヤの生まれた国か………
おい、フライヤ!何やってんだ、はやく来いよ!」

「国を出て、はや5年………この地の夢を幾度見たことか。
いや、この地の夢を見ぬ夜なぞ無かった!

懐かしい………

私もあれからずいぶんと変わった。
そして、いま、私の竜騎士としての力が試される時が来たのじゃ!」


フライヤの想いは十分わかったつもりだった。
恋人を追い続け、力も磨き、本当にフライヤは強くなったと思う。


「俺もできる限りのことはするぜ!」

「ボクも!」


だから俺はそんな仲間の故郷を助けたいと思ったんだ。
もしかしたらあの時ツカサも同じように思っていたのかもしれないな。
会って間もないフライヤをすぐに仲間だって言い切れたツカサを俺は誇らしく思えた。


そしてブルメシアでも道化師たちに遭遇した。
ツカサはすぐ攻撃を仕掛けてくるこいつらに遭遇したのか?無事なのか?
頭の中がそればかりになる。
いつからこんなにもツカサを気にするようになったんだろう。

俺、ツカサに会いたいよ。
会って無事を確かめて………それから、謝りたいんだ。

だからこんなところで立ち止まれない。
また特殊なベルを使って先に進んだ。


「ジタンよ………この階段の先はブルメシアの王宮じゃ。
これまで見た居住区の荒れ様を見ると私はこの先へ進むのが恐ろしい………」

「ここで立ち止まっちゃだめだ。
あいつらの正体を見極めようぜ!」

「ボクもボクと似た格好をしたあいつらが何者なのかを知りたい………」

「ほら、こんなに小さなビビだって、この現実を正面から見つめようとしてるんだぜ」

「ビビよ………おぬし恐くはないのか?
おぬしがこれから見る現実は、おぬしの生き方に影を落とすやもしれぬぞ?」

「う〜〜〜〜ん。そうかもしれない………だけど………だけど………
だけどボクは………ボクがどんな人間なのか知りたいんだ。
もしかしたら………人間じゃないかもしれないけれど………」

「ビビ………」


王宮の方から誰かが来る気配がした。でもこの足音はきっとツカサじゃない。
じっと待っているとブルメシア兵とその家族が走ってきた。ブルメシア王は見なかったらしい。
王より家族が大事だと言っていたその兵は逃げていったが、フライヤは故郷も王も大事だと言った。


仲間が戦うなら俺も戦う。

誰かを助けるのに理由なんかいらない。



そう、ツカサが真剣に言ってた言葉は今も胸の中にある。





「ツカサ………」






そう呟いた名は、永遠と降り続く雨にかき消されていった。







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