■ジタンside
リンドブルム恒例行事、狩猟祭に俺は見事優勝した。
もちろん賞品のギルも欲しかったけど、何よりツカサとのデートがかかっていたから負けるわけにいかなかった。
(フライヤに最後譲ってもらえてよかったぜ)
シド大公から称号と賞品のギルをもらいに、みんなで城の大広間に集まった。拍手喝采って感じで盛り上がる。
その時、突然後ろの扉から見たことある格好の兵士が雪崩れ込んできた。
あれは確かブルメシア兵………痛々しい傷。よくあんな状態でリンドブルムまで来れたなと思うほど負傷していた。
「我が国は、謎の軍の攻撃を受けておる!戦況は極めて不利、援軍を送られたし!
敵はとんがり帽子の軍隊でございます………」
それだけ言って息絶えた。
みんな動揺が隠せない。
シドが兵をどうするだとかオルベルタと相談を始めた。
フライヤはもちろんブルメシアへ向かうと思う。ビビもとんがり帽子と聞いたら行くんだろうか。ダガーは連れていけない。
………ツカサは?
つい最近戦い方を必死になりながら覚えた。その努力を俺は知ってる。来てくれたらすごく助かるけど………
(戦場だぞ?………ダメだ。ツカサもダガーも連れていけない。
最悪、フライヤと2人でブルメシアへ向かおう)
「私は失礼する、飛空艇団を待ってはおれん」
「俺も行くぜ、フライヤ!」
「ありがたいが、おぬしには関わりのないことじゃ」
「仲間の故郷が攻撃されてるんだ、これを聞いてだまっていられるか!おまえがイヤでも俺は行くぜ!」
「すまない………ジタン」
「ボクも一緒に行く。自分の目で見たいから………」
ビビを見れば少し俯いていた。それでもビビの向き合う強さはみんな知ってる。
俺はわかった、と一言だけ言った。
でもその時だった。ツカサが声を出したのは。
「私も行きます」
やっぱり。
ダガーが出発しようとみんなに声をかけたからツカサの言葉が埋もれた感じになってしまったが、俺はちゃんと聞いていた。
でもツカサ、お前だけは連れていけないんだ。連れていきたくないんだよ。
何て言えば伝わるだろう。
「でも、黒魔道士たちだとすれば………あなたにもわかっているはずよ、ジタン?
いますぐ侵略をやめるようにお母さまを説得してみせる!」
スタイナーが止めに入っても、ダガーは真っ直ぐ俺にそう訴えかける。
気持ちはわかる。でもそういうことじゃないんだ。俺は2人にちゃんと言わなければならないんだと思う。
「………危険だとわかっている場所に連れて行くことはできない。リンドブルムに残ってくれ。
ツカサ、お前もだ」
「私はお姫さまじゃないから行っても問題ないはずよ?」
「私たちにも危険なところなのはわかってるわ!」
「わかっちゃいないよ、2人は………
戦争なんだぞ?人が死ぬんだぞ?」
「そんなこと………!」
「ダガー………今、目の前で死んだブルメシア兵を見てどう思った?」
「………かわいそう、って………」
「そう、かわいそう、だ………そう思うのは悪いことじゃないさ。けど2人はまだこう考えられない………『自分もこうなるかもしれない』って」
平和な環境で育ったダガーはそんなこと考えたこともなかったのかもしれない。悲しいような、怯えたような………ダガーは衝撃を受けた表情になった。
きっとツカサもそうだろうと思ってチラッと見たけれど、俺の予想とは逆で真っ直ぐこっちを見据えていた。
「お母さまを説得するなんて、そんなこと言ってられる状況じゃないんだ。
ツカサもまだ戦い慣れてるわけじゃない。そんな奴を戦場なんかに………」
「でも!!」
「お荷物って言いたいの?」
その言葉にハッとする。お荷物?お荷物ってなんだ?
俺たちはツカサに支えられてきた。それは戦闘でもそうだし、俺たちに対する姿勢、言葉………全てに支えられてきたはずだ。だからお荷物だなんて思ったことは一度だってない。
何故ツカサはそんなことを言ったのだろう。
どう言えば伝わる?
何でだかわからないけれど、仲間だからとかいう以上にツカサを失うのが怖いんだ。
「そういう意味で言ってるんじゃない!ツカサだって戦争の本当の恐ろしさがわかって………」
「守らなきゃいけないって思ってるの?」
違う。守りたいんだ。
「そんなにも私は信用されていなかったの?」
寧ろ信用しかなかったさ。
「私はそんなに弱くない!」
俺がいつ“弱い”だなんて言った?
「ジタンが守るべき相手は私じゃない!ダガーのはずでしょ!
私がみんなより戦えないのはわかってる。でも回復役は?戦闘の効率の良さは?
ジタンだってわかってないじゃない!!この兵士さんのようになるのが誰かかもしれないのに悠々と待ってろだなんて………
私だって仲間を………仲間の故郷を助けたいと思っちゃいけないの!?」
“守るべき相手”ってなんだよ。
俺はツカサだって守るべき相手だ。
俺を信じてないのは………ないのは………
「信用?なんだよそれ………!
俺はいつだってツカサを信じてた。信用してないのはツカサじゃないか!
いつも近くにいるのに自分のことを何一つ話してくれない。1人だけ外側から見てるような時だってある。
俺が何も気付いてないと思ったのか!?」
ダガーにも待とうと言ったのに、ここにきて口から出てしまった言葉。もう戻せない。
違うんだと言おうとしたけど、ツカサを見ても視線が合うことはなかった。
「………なら、ここでパーティを抜けます」
「おい!それってどういう………」
突然のパーティ離脱宣言に驚いて、咄嗟にツカサの肩を掴んだ。
しかしその手は払いのけられる。
それはきっと、拒絶。
「まあまあふたりとも………今は言い争うべき時ではないブリ」
「大公殿の言う通りじゃ、早くブルメシアに向かわねば。地竜の門を開いてはもらえぬか?」
「うむ、歩いて行くのならば、あそこから出るしかないブリな。では、地竜の門が開くのを待つ間、腹を満たしていくといいブリ」
みんなが大広間から出ていく。
普段ならツカサと2人っきりという喜ばしい状況なのに今は喜べない。
俺は柄にもなく焦ってたんだ。
「本気なのか?俺たちの旅の目的は、ブランクを助けることだったはずだ。
どんなに時間がかかっても助けようと言ったのはツカサだろ?」
「………ブランクのことは心配いらないよ。
石化を治す針の存在を見付けたの。トレノの学者さんが持ってるって一部で有名みたい」
「嘘はやめてくれ」
「嘘?嘘じゃない。気になるならトレノに行ってみたらいい。きっともうタンタラスは動いてるはずだよ」
そう言って出ていったツカサは一度もこっちを見なかった。
「おいしそうなごちそうがいっぱいあるね」
「これらの料理は500年以上も前からこの地に伝わる伝統的な狩猟祭料理ブリ。この料理は手で食べるのがならわしブリ。カッコなど気にせずガツガツ食べてくれブリ」
「………では、お言葉に甘えて、冷めないうちにいただきましょう」
すごく豪華な料理がテーブルいっぱいに並べられている。
手で食べていいだなんて庶民には嬉しい限りだ。
みんなが食べ始めてもツカサとダガーとフライヤは手をつけない。
「せっかくだから食べようぜ、門が開くまではどうしようもない」
そう言えばようやく食べ始めた。
「あれ………ボク、おなかいっぱいみたい。なんだか眠くなってきちゃった………」
「し、しまった!毒かっ!?」
ツカサとビビとフライヤの体が傾くのが横目に見えて、背中から倒れた俺の視界は真っ暗になった。
(ダガー………どこへ行くんだ………)
どれくらいの時間が経ったのか。
俺たちが起きた時にはダガーはいなかった。
「睡眠系の薬のようじゃな」
「スリプル草だ………
眠れないっていうからダガーにわけてやったんだ………」
「箱入りかと思ていたが、あの娘、意外とやるものじゃ」
そこで1人足りないことに気付いた。
眠る前、俺は確かにツカサの体も傾いていく瞬間を見た。
「ツカサも多分倒れたはずなんだ。なのにいない………
まさか先にブルメシアへ向かったのか?」
「うむ、だとすればまだ間に合うかもしれないブリ」
「ビビ、起きろ!
すぐにブルメシアへ出発だ!!」
俺は数時間前にした会話をもう後悔していた。
こんなことならダガーの時みたいに、兵士を付けて客室にいてもらうべきだったんだ。
俺たちは急いでブルメシアへ向かった。
どうしてもツカサのことになると必死になってしまう自分がいる。
こんなにも誰かに必死なのは初めてかもしれない。
俺はこの気持ちに、本当は薄々勘づいていたんだ。
(
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