リンドブルム





「我が国は、謎の軍の攻撃を受けておる!戦況は極めて不利、援軍を送られたし!

敵はとんがり帽子の軍隊でございます………」


弱々しい声をした兵士がよろけながら入ってきた。
そのボロボロな姿に、言葉に、誰もが言葉を失う。現実はまだビビを傷付ける。

手当しようとしたけれど、誰もが傷が深すぎた兵士の最期を看取ることしかできなかった。

話は飛空艇団を呼び戻すだとか、自分達が行くとか………どんどん進んでいった。


(ブランクを助けたい。ダガーがお城で身動きが取れなくなるのもわかっていた。
でも、それでも私は………………)


「俺も行くぜ、フライヤ!」

「ありがたいが、おぬしには関わりのないことじゃ」

「仲間の故郷が攻撃されてるんだ、これを聞いてだまっていられるか!おまえがイヤでも俺は行くぜ!」

「すまない………ジタン」

「ボクも一緒に行く。自分の目で見たいから………」

「………わかった」


いつも夢では届かなかった金色。きっと今が初めて手が届く一歩なんだと思った。
少しでもいい。道中の戦闘の補助だけでも助けになればよかった。


「私も行きます」

「ええ、すぐに出発しましょう!」

「姫さま!危険であります!」

「スタイナー殿の言うとおり!それに、まだ相手はわからんブリ」

「でも、黒魔道士たちだとすれば………あなたにもわかっているはずよ、ジタン?」

「………………」


ダガーのお陰で私の発言が埋もれたような感じになって少しホッとする。
このまま何だかんだ一緒に行けるといいなと思った。しかしジタンは黙ったまま。


「いますぐ侵略をやめるようにお母さまを説得してみせる!」

「………危険だとわかっている場所に連れて行くことはできない。リンドブルムに残ってくれ。
ツカサ、お前もだ」

「私はお姫さまじゃないから行っても問題ないはずよ?」

「私たちにも危険なところなのはわかってるわ!」

「わかっちゃいないよ、2人は………
戦争なんだぞ?人が死ぬんだぞ?」

「そんなこと………!」

「ダガー………今、目の前で死んだブルメシア兵を見てどう思った?」

「………かわいそう、って………」

「そう、かわいそう、だ………そう思うのは悪いことじゃないさ。けど2人はまだこう考えられない………『自分もこうなるかもしれない』って」


ダガーはその言葉に俯いてしまった。頭ではわかっている。でも心で納得できていないのだ。
私は納得なんかしていない。仲間がそうなってしまうことだって同じくらい嫌だった。


「お母さまを説得するなんて、そんなこと言ってられる状況じゃないんだ。

ツカサもまだ戦い慣れてるわけじゃない。そんな奴を戦場なんかに………」

「でも!!」

「お荷物って言いたいの?」


そんな言い方されると思わなかった。ただ心配と言われる方がよかった。
もちろんジタンがそんなつもりで言ったんじゃない、そんなことはわかっていた。
でも私の口からは冷めて淡々と違う言葉が出てくる。
ハッとしたジタンの顔が切なそうな、今まで見たこともない表情でこちらを向いた。


(その顔をする相手は私じゃない………!)


どうしてだかわからない。
どうしてかわからないけどモヤモヤした気持ちが渦巻く。ジタンのそんな顔を見ていられなくて、思わず力一杯手のひらを白くなるほど握りしめて俯いた。


「そういう意味で言ってるんじゃない!ツカサだって戦争の本当の恐ろしさがわかって………」

「守らなきゃいけないって思ってるの?」

「え?」

「そんなにも私は信用されていなかったの?
私はそんなに弱くない!」


私の気持ちをわかってほしいなんて思ってなかった。
ただ、ジタンが理解しなきゃいけないのは私なんかじゃない。


「ジタンが守るべき相手は私じゃない!ダガーのはずでしょ!
私がみんなより戦えないのはわかってる。でも回復役は?戦闘の効率の良さは?
ジタンだってわかってないじゃない!!この兵士さんのようになるのが誰かかもしれないのに悠々と待ってろだなんて………

私だって仲間を………仲間の故郷を助けたいと思っちゃいけないの!?」

「おぬし………」


普段ですらそんなに人に理解されようと思っていないに、何で今こんなにも私は必死なんだろう。それでも私の気持ちは止まらなかった。
もう、誰の顔も見えない。


「信用?なんだよそれ………!
俺はいつだってツカサを信じてた。信用してないのはツカサじゃないか!
いつも近くにいるのに自分のことを何一つ話してくれない。1人だけ外側から見てるような時だってある。
俺が何も気付いてないと思ったのか!?」

「………なら、ここでパーティを抜けます」

「おい!それってどういう………」


ぐっと肩を掴まれた。
私は顔も上げずその手を払いのける。そう、これでよかったのだ。私がいなくてもみんなは成長するし、この世界は救われる。


(ああ、そうか。私だって戦えるって思ってること自体、不必要なことだったのかもしれない。
この世界に私がいる意味なんてなかったんだ………)


「まあまあふたりとも………今は言い争うべき時ではないブリ」

「大公殿の言う通りじゃ、早くブルメシアに向かわねば。地竜の門を開いてはもらえぬか?」

「うむ、歩いて行くのならば、あそこから出るしかないブリな。では、地竜の門が開くのを待つ間、腹を満たしていくといいブリ」


狩猟祭が終わったばかりでお腹も空く頃。
みんなも頷いて部屋を出ていった。
ジタンと私だけが最後に残る。


「本気なのか?俺たちの旅の目的は、ブランクを助けることだったはずだ。
どんなに時間がかかっても助けようと言ったのはツカサだろ?」

「………ブランクのことは心配いらないよ。
石化を治す針の存在を見付けたの。トレノの学者さんが持ってるって一部で有名みたい」

「嘘はやめてくれ」

「嘘?嘘じゃない。気になるならトレノに行ってみたらいい。きっともうタンタラスは動いてるはずだよ」


それだけ言って大広間を出た。







「おいしそうなごちそうがいっぱいあるね」

「これらの料理は500年以上も前からこの地に伝わる伝統的な狩猟祭料理ブリ。この料理は手で食べるのがならわしブリ。カッコなど気にせずガツガツ食べてくれブリ」

「………では、お言葉に甘えて、冷めないうちにいただきましょう」


本当にみんなお腹が空いてたみたいで手掴みで食べ始めた。
すごく美味しそうな匂いにお腹が段々と空いてくる感じがする。


(食べるべきか、食べないべきか………この流れだと私のにも入ってないと思うんだけど………)


迷った結果、食べることにした。どうかスリプル草が入っていませんように………と祈って、いただきますと手を合わせた。
無言で料理を見ていたフライヤもジタンに促されて手をつける。


「あれ………ボク、おなかいっぱいみたい。なんだか眠くなってきちゃった………」

「し、しまった!毒かっ!?」


ダガー以外がグラッと揺れて床に倒れる。
私の視界も揺れてきた。段々と睡魔が襲ってくる。


「ダガー………」

「不覚!じ、自分も………苦しくなってきたようであります………!も、もうしわけありません、姫さま………自分が毒味をしておれば、このようなことには………」

「そんなはずはないわ、スタイナーのには入ってないんだから」

「何で私のにまで………」


まだ少量しか食べてなかったとはいえ、もう立っているのもツラい。ガクッと膝をついてしまった。


「………ツカサ、ごめんなさい。あなたのには入れるかどうしようか迷ったの。
でも私もあなたにはブルメシアに行ってほしくない。さっきはムキになってジタンに反発したけど、真っ直ぐな美しい気持ちを持ったあなたには行ってほしくなかったの。

お願い、リンドブルムに残って………」


そこまで聞いて視界が真っ暗になった。
倒れて床に体を打った痛みで目覚めないほど、私の意識は深い眠りに落ちていった。









夢だと思えなくなった頃に、現実は何食わぬ顔でやってくる。






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