展望台





お城に戻り、客室に向かうとスタイナーだけだった。


「どうしたんだ、スタイナー?」

「また貴様のしわざだな!姫さまはどこにいるんだ!」

「え、いないの?私たち今街の方から来たばっかりだから外には出てないと思うんだけど………」


スタイナーは散歩じゃないかと言うジタンに怒って、走って探しいった。


「手分けして探す?城の中だと思えば手分けした方が早いよね」

「そうだな。見付からなかったらこの部屋に戻ってこよう」


部屋を出てすぐにジタンと別れて後ろ姿を見送った。
リフト前の廊下を通ると微かにあの歌が聞こえてくる。上に向かおうとしたが、よく考えたら一般人はリフトを自由に使えない。


(ジタンは………まだ来ないか〜)


プレイしている時は、ジタンが寝ている兵士の鎧を奪ってリフトに乗れた。
しかし今回はどうしたらよいだろう。そう考えていたら後ろから声がした。


「おや?あなたはガーネット姫と一緒にいた方ですな」

「オルベルタ様………申し遅れました、ツカサです。
多分上にダガーが居ると思うのですが………このリフト使ってはいけませんか?」

「ああ、なるほど。
今から王のところに向かうところでしたので、よければ一緒にどうぞ」


なんの苦労もなくリフトを使うことができた。
私が先に行ってどうするの、と思ったけれど大事な2人のシーンを邪魔するつもりは毛頭ない。

オルベルタにお礼を言い、私は展望台に向かった。
長い長い階段を上り、ようやく頂上に辿り着く。
歌っているダガーの後ろ姿が見えた。足音に気付いたダガーはこちらを振り向いてまた寂しげに空を見上げた。


「ツカサ………よくここまで来れたね」

「オルベルタ様に丁度会ったの。上に行くって言うから、一緒に乗せてもらったんだよ」

「そう………
ねえ、ツカサはどうしてここまで一緒に来てくれたの?
ジタンはタンタラスに居たからボスの命令で私を誘拐したのはわかる。でもあなたは戦ったこともない一般人だったわ。
魔法も初めて。
戦いも初めて。
ううん、それより外に出ることが初めてかのような………まるで外を知らない私みたいだった。

でもツカサはいつも目的があるような真っ直ぐな目で話してくれたり、行動していたように見えたの。そんな目的があるような人がどうして………」

「(みんなも悩み始めてる。何が正しくて何が間違ってるのか………)違うよ、ダガー」

「何が違うの?」

「今言ったこと、全部………かな。
多分これからジタンが来るからジタンのことは本人に訊けばいい。でもジタンはボスの命令でここまで来たんじゃない。

私は………私は何で一緒に来たんだろうね。
う〜ん、嫌々来た訳じゃないし、行く宛が無かったから………じゃない。
そうだなあ〜………強いて言えば“後悔したくなかったから”かな」

「後悔………?」


私はあの時の………あの魔の森を思い出していた。

タンタラスに残るか、ジタンについていくか。
どうしてタンタラスに残った方がいいと思ったのか。
どうしてジタンについて行こうと思ったのか。

両方のメリット、デメリットを並べて考えていた自分。無意識にデメリットをなるべく避けようとしていた、普段の生活から出来上がってしまった考え方。

自分の“本当の気持ち”に気付かせてくれたブランク。そして最初に決めた覚悟。


「明確な理由なんて本当はないのかもしれない。
でもね、私は確かに魔の森でジタンについていきたかった。氷の洞窟で戦う覚悟を決めた。ダリでビビの側にいたかった。
私もジタンと一緒にダガーをリンドブルムに無事に送り届けたかった。

その時々で自分のしたいことを1番にしていた結果が“今”だよ」

「自分の、したいこと………」

「そう、ダガーはダガーのしたいことをすればいい。それに反対する人ももちろんいる。でも賛同する人ももちろんいるの。
どっちに転んでも自分は独りじゃない。

だから私はいつだって前を見ていられる」

「自分は、独りじゃ………ない」


すると下から響く足音が聞こえた。きっとジタンがあの長い階段を走って上ってきているのだろう。
私は見付かる前にダガーに戻ると告げ、ジタンと鉢合わせにならないように物陰に隠れた。

そしてジタンとダガーが頂上の望遠鏡を覗くところを確認し、私は階段を下りて来た道を戻った。








■ジタンside



早い時間からツカサとリンドブルムの街を見て回れることになって、デートなんて慣れてるはずなのに心が浮かれているのが自分でもわかる。

忙しなくキョロキョロして色んな物に目をキラキラさせてて………可愛いなって。
でも俺はたまに気になることがあった。

ツカサは自分のことを話さない。

さっきも出身について訊いたら周りに気をとられていて聞いてなかった、と………。
言いたくないのか、言えない事情があるのか………無理に訊くつもりは俺にも無かったから、話してくれるまで待つべきだと思っていた。

タンタラスのアジトにも連れて行ってやれば、ツカサはこんな狭いアジトを素敵だと言った。
その時、時間を知らせる鐘の音でダガーを思い出した。そういえば1人だけ置いてきてしまったが、シドと話せたのか。退屈していないか………少しだけ気になる。

そんな少しの気持ちの変化に気付いたのか、戻ろうとツカサは言う。


(そんなすぐに気付けるものなのか?)


そしてその後のダガー捜索。

ツカサは隠れたつもりだったんだろうけど、物影から少しだけ見えた真っ赤なリボン。
何でリフトに乗れたんだーとか、何で俺より先に来てしかも隠れるんだーとか、疑問はたくさんあった。
でも俺はわざと気付かないフリをしたんだ。


「ここにいたんだな、ダガー。
ひゃ〜、高いなぁ!街があんなに小さく見えるぜ。
おっ、望遠鏡があるじゃないか。のぞいてみようぜ、ダガー!」


ダガーを望遠鏡まで連れていくと、物影にいた赤がサッと動いて出口に向かったのが見えた。
どうやらそのまま階段を下りて行ったようだ。


「(出てくるわけじゃないのか?じゃあ何で………)どうだい、よく見えるだろ?」


ツカサのことが気にはなったけど、きっとツカサは何かを思って隠れていたに違いない。


「………どうかしたのか、ダガー?」

「ねえ、ジタン………わたしをリンドブルムまで連れてきてくれたのは………
タンタラス団のボスに………そう命令されたからなの?」

「それは違うぜ、ダガー。
君を助けたい、そう思ったからさ。誰かに頼まれたわけじゃない。
ボスの考えとは違ったからタンタラス団は抜けて来たんだ」

「えっ………ごめん、知らなかった………
そっか、そうなのね。このことをツカサは言ってたんだわ………」

「ツカサ?さっき物影に隠れてるつもりだったみたいだけどそこにいたよな」


ダガーも別に口止めをされたわけではないらしい。
ツカサがなんでここに居たのか話してくれた。


「そうか………ツカサがそんなことを………」

「わたし、たまにツカサには気持ちを見透かされているんじゃないかって思うの。
嬉しい時は自分のように喜んでくれて、いてほしい時は側にいてくれて、悩んだ時はいつも必ず背中を押してくれる。

独りじゃないって教えてくれるの」


俺も思っていたこと、ダガーも感じてたんだなと気付く。
きっとビビだって感じているはずだ。


「さっきの歌さ、ダリの村でも歌ってただろ?」

「え?ええ………あの時、起きてたのね………?」

「いい歌だよな、なんの歌なんだ?」

「いつ、どこで覚えた歌なのかわからないの、どういう歌なのかも。
でも昔から悲しくなった時はこの歌を歌うとなんだか暖かくなって………
わたしはひとりじゃないんだ、だから頑張ろうって気持ちになれるの」

「俺も初めてあの時聞いたんだ。でもダガーにもわからない歌って………
じゃあツカサはどうして知ってたんだ?」

「え?どういうこと?」


あの時ダガーには聞こえなかったらしい。
俺はもう1人の歌声が多分ツカサだったことを話した。


「………どうして何も言ってくれないのかしら」

「わからない。でも俺は話してくれるまで待とうと思ってる」


そう言うとダガーもそれがいいと言ってくれた。

ツカサの謎は深まるばかりだけれど、疑ったりはしたくなかったんだ。









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