城下町





次の日


私たちは城下町の宿屋に泊まった。
ビビが部屋に訪ねてきてくれたお陰で目が覚めた。ジタンの部屋に行ってきたという。


「じゃあ、ボクは街を見てこようかな」

「うん。気を付けていってらっしゃい」


ビビを見送ってからすぐに部屋のノック音が聞こえる。


「おはよう、ツカサ。城下町デートはどうだい?」

「おはよ、ジタン。丁度よかった!服と装備を買いに行きたいの。いい?」

「おお!逆に誘ってくれるのか?
ツカサはそういうギャップが………」

「だって私お金持ってないもの」


そうキッパリ言えばズーンと項垂れるジタン。何か少し可哀想かなって思ったけど気にしない。もちろん、買ってもらったお代は返すつもりでいた。

私たちは宿を出て商業区の奥に向かって歩き出す。


「リンドブルム楽しみだな〜!」

「そういえば初めてなのか?」

「うん、そうだよ。アレクサンドリアでもビックリしたけどリンドブルムはもっとビックリしちゃった!」

「だろ?
でもその言い方だとアレクサンドリア出身でもないんだな。ツカサはどこから来たんだ?」

「………え?ゴメン、周りに夢中になって聞いてなかった。
あ、あれ装備売ってるお店じゃない?行こ!」


不自然に間が空いてしまったが、キョロキョロして夢中になっていたフリをした。すぐに笑顔で話題を切り替える。
そして早く!と言わんばかりにジタンの腕を引っ張って急かした。


「すごい!品揃えが豊富!」

「ちゃんと自分に合った装備を選ぶんだ。俺も自分のを選ぶから、決まったらまとめて会計しよう」


そして各々真剣に装備選びをした。一通り上から下まで買う。なかなか冒険者っぽい。

次は洋服選びに向かう。いつまでもこんなジャージでいるわけにはいかない。機能性重視で選ぼうと思った。


「お、これなんかどうだ?可愛いと思うぜ!」

「え、どれどれ………無理」

「じゃあこっちは?」

「動きにくそう。却下」

「うーん、じゃあこのセクシーな………」

「ちょっと外で待っててくれる?」


ジタンが選んでくれるのは嬉しいが、フリルが付いたピンクの服やゴシックっぽいズボンの間に紐が付いてる………とにかく引っ掛かりそうな服とか、見た目で選んでいる。

私は店主に注文をつけ、それに近い服が無いか尋ねた。すぐに店の奥に行って何着か持ってきてくれた。


「お姉さんの希望だとこの辺だと思うんだけど………どうします?色もこれしかないんだ、悪いね」

「じゃあ、その青い革の服頂けますか?」

「なぁ、ツカサ。髪を留める物も買おう!」

「え?いや、そんなに余裕も無いのにたくさん買ってもらうのは………じゃあ髪切るよ」

「!?………いやいやいや!!」


私としては髪なんて邪魔なら切ってしまえばよかった。こだわりとか、執着は特に無い。
でもジタンは焦ったようにもったいない!と言って止めた。


「じゃあ、これは俺からのプレゼントだ。きっと似合うと思うぜ!
おやっさん、これも1つくれないか?」

「まいどあり〜」


男性からのプレゼントなんてどれくらい振りだろう。何だか恥ずかしいような嬉しいような、くすぐったい感じがした。
会計を終えたジタンが私に可愛くラッピングされた袋をポンッと手渡す。
中を開けて見てみると、真っ赤なリボンが入っていた。


「こんなに可愛い物付けたことないからどうだろ………ありがと、ジタン」


試着室を借りて早速着替える。なかなか体にピッタリな服だが、こんな服はこの世界でしか着れないと思うとそれもいいか………とさえ思えた。


「他の場所にも行ってみないか?」

「あ、行きたい行きたい!」


そして私たちは劇場街に行くことにした。
先程までいた商業区とは雰囲気が違って、とても落ち着いている。


「ここにはタンタラスのアジトがあって、この時計塔の中にあるんだ。
まだ戻ってきてるわけないか………アイツらがいないと静かすぎるぜ」

「すごい。歯車とか剥き出しだけど………素敵だね」


少し誇りっぽくて、外れた床板もそのままな感じだった。秘密基地みたいなアジトで居心地がよかった。

しばらくすると音を立てて大きな歯車が動き出して鐘が鳴る。
ジタンはその音を聞いて、何だか落ち着かない様子だった。


「もうそんな時間か………今、どうしてるかな、ダガー」

「ねえ、ジタン。そろそろ………」

「やっぱりいたよ!」


戻らない?と声を掛けようとすると、子供2人が勢いよく入ってきた。どうやらタンタラスに入るためのお宝を持ってきたらしい。
作戦は上手くいったのかと訊いているところを見ると、バクーも本気でタンタラスに入れるつもりだったのかもしれない。


「もうお姫さまにきめぜりふつかったの?」

「そうそう、『俺とデートしないか?』ってね!」

「うわ!ちょっと、お前らっ!」


こっちをチラッと見て焦ったように子供の口を塞ぐジタン。
その焦った姿が面白くてついついからかってしまう。


「違うの。ジタンったら緊張しちゃって、まず手始めに私で練習したのよ。ヒドイでしょ?」

「ひどーい!」
「ヒドーイ!」

「え、いや、ツカサまで!」

「あはは!嘘だよ、冗談!
さ、お城に戻ろ。本当はダガーが気になってるんでしょ?きっと寂しくしてると思うよ」

「そうだよ!1人でいるのはさみしいと思うわ!」

「そういうわけじゃ………まあ、シドと話せたかどうかも気になるし、やっぱり会いに行ってみるか」


ジタンが私のために時間をくれたのは嬉しかったけど、ソワソワしていたのも知っていた。
ダガーが今の鐘の音を聞いて考え込み始めるのも私は知っていた。

でも誰かの後押しがないと、わかってても動けないことだってある。


(それが“人”ってものだよね)


あの子供たちに感謝しつつ、真っ直ぐお城に戻ることにした。









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