巨大城 リンドブルム
「おっき〜〜〜………」
デジャヴのようだが、アレクサンドリア城より大きく見える。
飛空艇はリンドブルム城の中に入っていった。
「おっきなお城なんだね………アレクサンドリア城よりもおおきいかも………」
「やっぱりビビもそう思う?すごいよね〜」
「そりゃそうさ。ツカサ、ビビ!天下のリンドブルム城だからな!」
「城の中に飛空艇ポートがあるとは………ブラネ様のレッドローズでさえすっぽりと入ってしまう大きさではないか」
お城に毎日勤務していたスタイナーでさえ驚いているところを見ると、やっぱりリンドブルム城が大きいことがわかる。
ダガーは小さい頃に何回か来たことがあるらしい。しかし父親が亡くなってからは今日が初めてだという。
すると城の中から兵士のような人たちをがこちらにやって来た。
こんなボロボロの船でお姫さまが来ましたと言っても普通は信じてもらえないだろうなーと思う。
「これはまたずいぶんと型の古いカーゴシップですな」
「わたくしはアレクサンドリア王国の王女、ガーネット=ティル=アレクサンドロスです。
シド大公殿に会いに参りました」
「一国の姫君がそのようなボロ船に乗ってくるわけがありませぬ!だいいち、姫さまの御付きがこのメンツとは………」
「はぁ………(まあ、そうなるよね。普通は)」
スタイナーは無礼ではないか!と怒っているが、向こうの対応は正しい。
一般兵はきっときらびやかな格好をしていない姫など姫ではないと思っているはずだ。
リンドブルム兵に証拠を提示しろと言われてペンダントをダガーが見せる。
見た途端、慌てて偉い人を呼びに行った。
「これはなんのさわぎだ?」
「オルベルタ様!」
オルベルタと呼ばれる人が兵たちを下がらせる。
そして大公殿下が待っている、とも私たちに伝えた。
「ねえ、ダガー?会いに行くって言ってないのに大公殿下は待ってるんだね?」
「そう………ですね?」
オルベルタについていくと、奥にリフトがあった。
乗り込んでみると壁のない骨組みだけのエレベーターみたいで少し怖い。
「なあ、ダガー、シド大公ってどんな奴なんだ?俺リンドブルムにずっといたけど、今まで一度も見たことないんだよな………」
「へ〜。民の前に姿を現さなくても信頼されてるなんてすごい人ね」
日本ではなかなか考えられない。
覆面議員っていうのもいた気がするが、もしトップに立つ人の顔がわからなかったら信頼できないと思うのが人間だと思う。
まあ、今のシド大公はちがう意味で人前に出られないんだけど………
「間もなく最上層に着きます」
ダガーを前頭に謁見の間に入っていく。
椅子は後ろを向いたままになっていた。
(どうかブリ虫が苦手なヤツじゃありませんように苦手なヤツじゃありませんように………)
そっと王座を見上げると椅子がくるりとこちらを向く。
小さいのか大きいのか、バレーボールくらいの大きさの虫がいた。
虫にしては大きい………あの割れているようなお腹が気持ち悪い。
この距離なら大丈夫だけれど、ブリ虫は間違いなく苦手なヤツ………だと思う。
「うわ!ありゃブリ虫じゃないか!」
「ブリ虫までおっきいんだね………」
「ビビ、多分違うと思うよ」
そしてスタイナーの怒り劇場が始まる。
いつも怒りすぎだなとは思っていたけれど、今回ばかりは私も怒りたい。命懸けで来てブリ虫と対面じゃ頭にもくる。
しかしオルベルタに宥められ、それはシド大公殿下だと伝えられた。
(この話、みんな普通に聞いてるけど………こんなに城が大きくて迷うようなところ、王の寝込みを襲うとか内部の人間としか思えないよね。
………べつに言わないけど)
今日はもう休んで明日話を聞くということになり、一先ず私たちはシド大公の好意に甘えることにした。
食事も用意されているらしい。さすが王様。
私もみんなの後をついて食堂に向かおうとする。
その時肩をトントン………と誰かに叩かれた。
「ジタン?どうしたの?」
「外に食べに行かないか?リンドブルムを案内するよ。
もしよければ、だけど!」
「え、ホント?行く!」
少しお城のお食事にも興味はあったが、それよりもリンドブルムの街を見たかった私にとってこのお誘いは何よりも魅力的だった。
「城のお上品な食事ってどうも苦手なんだよなぁ………」
「まあ、私たちと目的が違うだろうからね」
「へえ〜。たとえば?」
「そうだな〜………会議するのにも食事をしたり、立食パーティなんかは食べながら交流を深めたり………
つまり食事がメインではないってこと!」
「なるほどな。
お、ここだぜ。メシはやっぱりここにかぎる!」
城を出て街に出るとジタンは真っ直ぐお店に向かっていたようだった。
着いたという店の外観を見ると、民家に混ざって隠れ家風でとても入りやすい雰囲気だった。
中に入ると酒場のようなお店になっている。
カウンターには妙に目を引く真っ赤な帽子とコートを着た人がいた。
「おやっさん、いつもの安っちいスープふたつ頼むよ!」
「だ、だれだ〜!?うちのスープにケチつける奴は!
おっ、ジタンか!最近顔を見せなかったが元気そうだな!可愛い彼女連れちゃって、お前も立派になったもんだな!」
「あ、いえ、彼女では………」
「ちょっとぉ、お客さん、そこに立ってられると邪魔なのよ」
ウエイトレスに声を掛けられて私は急いで退いた。
ジタンも悪いねと一言だけ言って道をあけた。
「じゃあツカサ、カウンター座ろうぜ」
「あ、うん(あれ?ナンパからのフライヤ登場じゃなかったっけ?)」
「どうしたツカサ?………おまえは!!」
「え?」
「久しぶりじゃな、ジタン。この私を忘れたのかい?」
一際目立つ真っ赤なコートの人物に驚くジタンだったけれど、うーん?と悩む素振りをして少しにやっとしていた。
これからイタズラするかのような顔。
「覚えてるさ!お静だろ?」
「………違う」
「クリスティーヌだっけ?」
「違うっ!」
「あ、わかった!小さいとき、隣に住んでたネズ美だろ!でっかくなったな〜」
「しつこいのじゃっ!!」
「冗談だよ、いい女の名前は忘れないさ。
ほんと、久しぶりだな、フライヤ」
ようやくミニコントが終わった。笑っていけないのだろうけど、すれ違い感が面白くて笑ってしまう。
マスターに声をかけられ、沈黙のスープが目の前に出される。会話の邪魔をしないように手を合わせて小さくいただきますと言い、一口食べると本当に沈黙してしまうくらい味わい深いスープだった。
「(何のダシだかわかんないけど………)おいし〜」
「ところで隣の娘は新しい彼女か?」
スープの美味しさに浸っていて話が進んでしまっていたようだが、どうやらフライヤは私が気になるらしい。
「ここまで一緒に来た仲間、なんです。他のメンバーはお城にいます」
「ほう、なるほどな。
それで、おぬしは参加せんのか?」
「え?何がですか?」
流石に細かい会話の内容まで思い出せなくて聞き返すと、狩猟祭の話題だった。
「いえ、特には参加予定はありません。それにまだバトル初心者なんです」
「そうか。初心者にはツラいかもしれんな」
こうして2人の世間話と思い出話が尽きることなく、夜まで続いた。2人の話は聞いてるだけでも飽きることはない。
旧知の仲というのは素敵だと思う。
目の前の2人を見ていると心からそう思えた。
私のことを知っている人はこの世界にはいない。
当たり前なのに少しだけ………ほんの少しだけ、私は寂しかったんだ。
(
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