無事に全員飛空艇に乗ることができた。
「わざとじゃないしそんなに怒らなくても………」
「べつに怒ってない。蹴ったお詫びに………後で尻尾触りまくってあげるね」
「ひっ!………ビビ、大丈夫か?」
黙って下を覗きこんでいるビビにそう声をかければ、元気なくボーッとしていた。
ダガーが中に入ろうと促す。
「ジタン。わたし、あなたを信じてますから」
「………全然信用されてないね。まぁ、ここで頑張ればハグくらいしてくれるんじゃない?」
「ツカサはどうしたらハグしてくれるんだ?」
「私?うーん………絶体絶命の時に助けられたら、とか?」
「ふーん。………助けるさ、いつだって」
「え?」
バンッ!!!
「ジタン、ツカサ………!」
勢いよく開いた扉から慌てた様子でダガーが出てきた。
どうしたのか聞けば、泣きそうな顔で「ビビが………」としか言ってくれない。
私たちもすぐに船内に入った。
「………!!驚いたな………動いてる」
そこにはダリの地下で見た黒魔道士が働いていて、ビビは一生懸命彼らに話し掛けている。
そして肩を落としてしょんぼりした様子で戻ってきた。
「何度も何度も話しかけたけど………振り向いてくれないから」
「ビビ………
ジタン、ここは私とダガーに任せて上に行って。このままじゃアレクサンドリアに着いちゃうよ」
「ああ、そうだな。行ってくるよ」
ジタンを見送ってから私は働いてる黒魔道士に声を掛ける。
もちろん振り向くわけがない。そう思っていたのだが、
顔を覗きこめば一瞬あの黄色い瞳と目があった………多分。
しばらくその黒魔道士の仕事ぶりを眺めていると、突然ぐらっとカーゴシップが傾き始める。
ジタンが操作し始めたのだとわかった私は後ろのビビたちに叫んだ。
「ビビ、ダガー!進路変更だよ。上に行って!」
戸惑いながらも指示にしたがってくれた2人を追って、私もすぐに梯子を上った。
些か船の戦闘が心配ではあったけれど、今はできるだけビビのそばにいたい。それだけは気持ちの中に強くあった。
それにどれだけの意味があるのかはわからないけれど、自分だけエンジンルームに隠れているなんて私にはできない。
ハッチを開けて外に出れば、雲なのか“霧”なのか………白いモヤが下に見える。
何かの気配を感じて後ろを向くと黒のワルツが船頭に降り立ったところだった。
(危ない!)
ワルツは怯えるビビに向かって手をかざし、雷の魔法攻撃をしてきた。
間一髪でビビのを後ろに引っ張って避ける。
すると、それに反応したように黒魔道士たちが船頭に集まってきた。
「ダガー、ビビを!」
急いでビビを引っ張って安全なところまで移動する。
すると勢いよく黒のワルツの魔法が爆発した。
私たちを守ってくれた黒魔道士たちは吹き飛ばされ、樽も落下し、操縦室の窓ガラスも全て割れてなくなった。
私は吹き飛ばされないようにビビの体をギュッと抱き締めて支える。
「………ぅぅうわあっ!!」
「ビビ殿、助太刀いたすっ!!」
「おい、おまえら!!
………ダガー、黒のワルツは俺たちがなんとかする。それまでかじを支えててくれ。これから危険は増えるだろう。でも今ならまだ戻れる」
スタイナーは敵に向かっていったビビを追いかける。
ジタンは最後の選択をダガーに求めた。進むか舵を戻すか、ここからはダガー自身が決めなければならない。
「どっちにしても俺がついてる!船をふらつかせないように頼んだぜ!」
「気をつけて、ジタン!!」
加勢するために走って行ったジタンの背中は頼もしくて大きく見えた。きっとダガーもそう感じているはず。
「さ、私も加勢してくるね。ダガーが舵をとるなら回復役いなくなっちゃうし。
もう気持ちは決まってるんでしょ?私もその道が正解だと思うよ!」
ビビのトランスが目に入ったため、私はそれだけ言い残して急いで走り出す。
ダガーはここで帰ったりなんか絶対しない。
ワルツは色んな魔法を使ってくる中で、サンダラがとても辛かった。
(あの羽で飛ぶのはズルいなぁ………物理が届かないじゃない)
通常は回復に徹し、飛んでる間は攻撃魔法で戦うことにした。
すると相手の様子が段々おかしくなってきているのがわかる。
「おのれ………おのれ、オのれ、おのレェッ!我の存在理由ハ勝ち続けルことのみ!!」
そして飛び立っていった。
もう少しHPを削っておきたかったけれど、もう魔法も届かない距離。
「しかし、次から次へと………黒のナントカは何人いるのであるか!?キリがないのである!」
「今ので最後だと思うぜ」
「そうだね。ワルツっていうくらいだから三拍子。今の3号で終わりってこと。
………あ、ジタン」
よくわかっていないスタイナーは放っておいて、進行方向をみれば南ゲートが見えてきた。
ジタンもこちらを向いて笑って頷く。
ダガーの方はジタンとスタイナーに任せる。私はビビのそばにいることにした。
南ゲートの入り口まで来た頃、突然船の速度が上がった。
後ろを向くとワルツが猛スピードで追ってきているのが見える。
ワルツの放つ攻撃をどうにか回避しようと詠唱の構えをしたが、私が唱えるより先にビビが撃ち落とした。
そしてそのまま力尽きたように倒れたビビを間一髪のところで掴む。すぐにジタンが手伝いに来てくれたお陰で、船から振り落とされずに済んだ。
そして私たちの船は閉まるギリギリのところでゲートをくぐる。
振り向くと南ゲートが煙を上げて閉まっていった。ワルツはゲートにぶつかり、もう追っては来ない。
一先ず安心といっていいだろう。
「どうしたみんな?黙りこくっちゃって!」
「………南ゲート、あれでは当分動かないわ
………ジタン、私は大変なことをしたのね………?」
「リンドブルムの技術ならすぐに直るって!大丈夫!」
そんな会話を聞きながら私は目が覚めたビビの手を握り、声を掛ける。
「ビビ、さっき倒れたけど大丈夫?」
「………うん」
「ガラスもこんなに割れたけど怪我はない?」
「………………うん」
「そっか」
それだけだった。リンドブルムの正門が近付いてくる。
「ボクと………あの黒魔道士って呼ばれてた人たちって………おんなじ………なのかな?」
「ビビ………」
「ビビ殿も妙なことを言われますな。何を気にされているのか自分にはわからないのですが………ビビ殿はビビ殿であって彼らは彼ら、ではありませんか?
いったいなんのことを………」
「そうだね、お兄さんの言う通りだよ!何があってもビビはビビってこと!」
「う、うん!」
「そうだぜ!よーし、ビビ!甲板に出ようぜ!ツカサも来いよ」
目の前のリンドブルムは思っていたより大きくて機械の技術も発達していた。
これからようやくブランクを助けに行く手伝いができる。それは素直に嬉しかったし気合いも入った。
でもブランクを助けた後はどうなるんだろう………と、脳裏にジタンの顔が浮かぶ。
(私たちの旅の目的は“ブランクを助けること”
もしかしたら大好きなゲームの体験もここまで、か………それなら何でこの世界の夢を見たのだろう)
答えなんて出ないはずなのに、この世界で自分が存在する理由は何だったのか………無意識に考え始めていたのだった。
(
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