一旦宿屋に戻った私たちは、また寝ている宿屋の親父に呆れていた。
「よく寝てるな………」
「また起こしてあげなよ」
デジャヴかのようにまた肩を叩いて起こす。
起き上がった親父は目を見開いて驚いた顔になる。
「おやじさん、かわいいからって見とれてもらっちゃ困るなぁ………」
「いっいえ、お嬢さんたちではなくて………あ、いやいや、どうぞどうぞ!」
まるで平常心を保とうと親父はいつも通りの接客をする。
ジタンは少し疑問に思って終わったけれど、私は見逃さない。
猫と遊ぶフリをして、みんなが部屋に入ったのを確認する。
そして親父の目の前まで行ってニッコリ笑いかけた。
「プライドを持つのは結構ですけど、お客を売るような行動はいかがなものかと思いますね」
「な、何の話だ………」
「あら、知らないフリをするんですね?こっちは知ってるのよ。あんたがうちの仲間を村人に引き渡したのは。
いい?よーく聞きなさい。
いい大人がくだらない喧嘩を自分で何とかできないくらいならするんじゃない!
子供の方が立派に働いてるわ。それを見て何も思わないわけ?あーあ、てっきり私は子供の気持ちを代弁してくれる素晴らしい大人なのかと思ったけど………違ったみたいね」
「………………」
「ラクに大金を稼げるのは生活を豊かにする。けれど村に残された子供たちはどう思っているでしょうね?」
それだけ言い残して私も部屋に向かった。
部屋に入るなり、また虫?とみんなに訊かれる。
「ふふっ。私、虫に好かれてるのかも!」
少しだけ冗談が出てくるようになってきた。
とりあえず今はこれでいい。物語の大筋さえ変わらなければいいと思っていた。
そして私たちは前回と同じベッドを使って眠りについた。
「さ、そろそろ飛空艇に向かおう!」
「じ、自分が頼んでこよう!ひ、姫さまのことを思えばこそである!貴様のためではない!!」
そう言ってスタイナーは走って行ってしまった。
私はジタンをチラッと見ると、ジタンも気付いていたようにこちらを見ている。そしてどちらともなく頷いた。
「間違いなくアレクサンドリア城行きだと思わない?」
「奇遇だな。俺もそう思ってたんだ」
「どうして………!?ジタンも『乗ろう』って………」
不安げにダガーが言えば、ジタンは胸を叩いて大丈夫!と言う。
本当に大丈夫ということを知っているといえ、何だかジタンの『大丈夫』は安心できた。こういうところに女性は惚れるんだろうな〜と心底思う。
「………お姉ちゃん。
村の地下でつくられてたお人形って………ボクにそっくりじゃなかった?」
「そう?そうでもないよ。
だって今のご時世、誰かに似せて何かを作ることなんて珍しくないんだよ?本人と同じ顔のアンドロイドとかも出てきたしね」
「………アンドロイド?」
「前々から思ってたけど、ツカサって色んなこと知ってるんだな。アンドロイドなんて初めて聞いたぜ」
そんな話をしていると突然カーゴシップが大きな音を立てて動き始めた。
(この世界にはもしかして『アンドロイド』って言葉が無い?他にもそういうのがあるかも………これからは気を付けなきゃ)
「仕方がない!乗ろう、ダガー!」
ジタンの一声にハッとした私は、でも………と渋るダガーの背中を私がポンッと叩く。
驚いたように振り向いたダガーに微笑んで後押しをした。
「大丈夫だよ。必ずジタンはリンドブルムに連れていってくれる。信じて、ね?」
「わかりました、乗ります!」
ギリギリまで乗ることを躊躇していたダガーは覚悟を決めて乗ってくれた。
それを確認して私も急いで梯子に手をかける。
「飛ぶぜ!………おっ!やわらかい………」
「ちょっ、こんな時にバカじゃないの!」
最後に梯子を上ったジタンの手がお尻を掠める。
足で蹴飛ばしてやったら本当に落ちそうになっていて思わず笑ってしまった。
そして飛空艇は大空へ飛び立った。
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