ダリ 3





私たちはタマゴを追うように奥へ奥へと進んでいく。
コードのたくさん付いたような大型機械にタマゴが流れていく様子をしばらく眺める。中が見えそうで見えないが、大きな音を立てていた。
それだけではよくわからなくて、みんなが次へ次へと早足に進んでいく。
しかし、次が何の部屋かわかっていた私はジタンの後ろに隠れるようについていった。





「う、うわっ。なに、これっ!?」

「………こいつは、こまかいところは違うけど………」


ジタンがちらっとビビを見たのがわかった。
最後まで言わなかったのではなく、最後まで誰もが言えなかった。


(ビビにそっくりだなんて………)


私はこの見たこともない光景に腰が抜けそうになる。
どうにか気をしっかり持とうと、目の前にいたジタンの服の裾を握った。


「誰かくる!」


あまりのショックにジタンの警告でさえ誰も聞いていなかった。


「しかたない!ツカサ、その手離すなよ!」


そう言ったジタンは、ひょいっとダガーを担ぎ上げ、ビビを引っ張って物陰を探す。私は裾を握ったまま引っ張られるようについていった。


「キャ………むぐ………ん〜〜〜〜!!!!!」

「ゴメン、でも静かに!!」


さっきまでいた入り口の前から人の話し声が聞こえる。雑音のお陰でどうにかバレずに済んだようだった。

安心かと思い機械の間から出ようとすると、突然上からの落下物により視界が暗くなった。


「なっ………!?」
「わわっ!?」

「ジタン、ツカサ!?」



ガタガタ………ガタガタ………ガコン………



「う、ううん………誰かいる?ビビ?
………これ大きさ的にビビじゃない。もう!暗くてわかんないよー!!」


先程見た箱に詰め込まれた私は、一緒に入ったであろう人形を触って確かめていた。

手探りで色んなところを触っていると、肌触りのよい太めの紐のような物を見付ける。


(………何、これ?扉か何かの綱?)


スッと撫でるように触ると何か動く気配を感じる。もう1度同じように触ってみた。


「………う、あっ………!!」

「………………」

「………………」

「………ま、まさか………ジタン?」

「………ああ」


聞いてはいけないような声を聞いてしまい、少しだけ恥ずかしくなる。


「ねえ、これ………もしかしてダメなやつ?」

「………まあ、そうだな。よからぬ声が出そうだ」

「そっか。いいこと聞いたなぁ」

「………どうにかここを出ないとな。よっと、蓋はここかな〜?」

「っ!ちょ、ちょっと!!セクハラ!!」


お兄さんに言いつけてやるんだから!と言えば、慌ててジタンの手が止まる。
この箱から出ないとアレクサンドリアに連れていかれてしまうということを思い出し、まずは横に倒した衝撃で壊れないか試すことにした。


「よし、もう一押し!」

「せーのっ!!」



ギィ………バタンッ!!!!



明るい日差しに目が慣れずよく見えなかったが、目の前に剣を構えて驚いた顔のスタイナーが居ることだけはわかったのだった。






ガタガタ動いていた樽を見付け、無事にダガーとビビも救出する。
またスタイナーが何か騒いでいたが、ダガーの一言で静かになった。今はスタイナーの小言に付き合っている余裕なんか誰にもなかった。


「ジタン、わたしビビに言うべき言葉がみつかりません。城とビビに関係があったなんて………」

「決まったわけじゃないさ………とにかく、ビビのそばにいてやろう。ツカサみたいにさ」


樽から助け出してからずっと私はビビの隣にいた。何をするでもなく、話すでもなく。
ただ、ただ………そばにいた。

すると、遠くから何か黒い物が近付いてくるのが見える。


(あれは!また黒のワルツ………!!!)


こんな状態のビビを戦わせるのは嫌だったけれど、ビビは黙ってワルツ2号と向き合って杖を構えた。
こういう時にビビの強さを垣間見る気がする。


黒のワルツの目的はダガーを連れ戻すこと。つまり、ダガーを傷付けることはしないはず。


「ダガー、できるだけビビのそばにいてくれないかな?きっとその方が安全だと思うの」


そう小さく耳打ちする。
今回は私も前に出なくてはいけない、そう思った。まだまだ前戦で戦うには厳しいが、ビビとダガーに近付けさせないようにするくらいの動きはできる自信があった。


「我が任務のじゃまはさせん!!」

「来るぞ!」

「ビビとダガーは安心して魔法に専念して!」


2人を守るように私たちは前に出た。
ワルツ2号は瞬間移動をしながら攻撃してくる。
魔力も1号より高い。少し苦戦を強いられた。

ビビはほとんど会話無く戦っている。最後に放ったファイアでワルツ2号は膝を付いた。


「な、なぜだ………!」


そう言って倒れていく姿をどんな気持ちで見ればいいのか私にはわからなかった。
襲ってきた悪いヤツとは思う。しかし先程の工場の光景を思い返せば、生まれたばかりの赤子に戦いしか教えていなかったようなもの。
そう考えると切なくなった。








「国境越えのことなんだけど………こいつに乗せてもらおうと思うんだ」


飛空艇ならリンドブルムまでそう遠くはない。
乗り込む前に一旦宿で休んでいくことにした。






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