ダリ





辺境の村 ダリ



「わぁ〜っ!風車だ〜っ!」

「ビビ、宿屋はこっちだぜ!」

「もう休むの?風車見たいなー。ね、ビビ?」

「うん。ボクも見たい」

「気持ちはわかるけど、今は宿に入ろう。
それに、今後のことも決めなきゃな」


村の奥に大きな風車が見えた。
宿屋に入ってくみんなを見て私も最後に入る。


(………1、2、3、4、5、今っ………!)



バンッ!バタンッ!!



5つ数え、勢いよく宿屋から出て扉を閉めた。


「ひっ!」「な、なんだおまえ!」

「この村の子ね?ここの大人に伝えなさい。
私たちと一緒にいる黒魔道士は、あんたたちのとは違うって。

………わかった?」



「「う、うわぁ〜〜〜!!!!」」




つい黒い笑顔で言ってしまった。子供には刺激が強かったようだ。
もう1度宿屋に入ればみんなに心配される。


「お姉ちゃん………ど、どうしたの?」

「ううん、虫が勢いよく飛んできたから外に逃がしただけだよ」

「そ、そうか………まぁ、とりあえず部屋だな!
このおやじさん寝てるのか?」


トントン、と肩を叩いて起こす。
宿屋の親父は後ろにいる私たちの方を凝視した。


「おやじさん、かわいいからって見とれてもらっちゃ困るなぁ………」

「いっいえ、お嬢さんたちではなくて………
あ、いやいや、部屋はその奥になります。どうぞどうぞ」


何でもなかったかのように私たちを部屋に案内する。
そこで遠慮がちにダガーが呼び止めた。


「わたくしとツカサが泊まる部屋はどちらでしょうか?」

「ん?そこだよ。みんなで泊まるんだ」

「あ、そっか。
男性と同室のは気が引けるかもしれないけど、小さい村には個室なんて無いし、旅ではそんなこと言ってられないんだよ」

「そうそう。そういうことだ。
さ、入った入った」


怒っているスタイナーを無視して全員部屋に入る。
そこにはベッドが4つ。私が居ることでベッドが1つ足りない事態になってしまった。


「寝る前に教えて欲しいことがあるんだ。
城を出てどこに行くつもりだったんだい?」

「あのまま劇場艇が飛べば今頃は………」

「リンドブルムに着いてただろうが………まさかアレクサンドリア王国を出るつもりだったのか!
確かに、劇場艇にうまく隠れりゃ国境の南ゲートも楽々通り越せた………か」

「でも今となっては歩いて越えるしかなくなっちゃったね。どうにか越えられないかな?」

「う〜ん………」

「みなさん、聞いてください。
どしても、やらなければならないことがあるのです。理由はまだ言えないのですが………でも、どうか………」


ダガーの真剣な眼差しにジタンも頷いてリンドブルムまで送り届けることを約束をした。


「ええい!黙って聞いておれば勝手なことを次から次へと!
姫さま、このような者の言葉を信用してはなりませんぞ!」


スタイナーの守らなければいけない使命もわかる。
でもスタイナーがダガーの気持ちをわかっていないことに私は少しだけムカッとしてしまった。


「何があったのかは存じませんが自分と共に城へお戻りください!」

「ねえ、お兄さんは誰のためにそんなことを言ってるの?」

「ツカサ?」

「ブラネ女王の命令だから?自分の仕事だから?
心からダガーのことを心配してるのはわかる。でもダガーのやることを妨げるのはお兄さんの本意ではないよね。
だって、彼女が覚悟して城を出たことをお遊びか何かだと思ってるわけではないでしょう?

今も昔も、ダガー自身とその想いも、全てを守るのは騎士であるお兄さん役目じゃないの?」

「それは………………」

「「………………」」




く〜〜〜〜

か〜〜〜〜




沈黙を破ったのはビビの可愛い寝息だった。
たくさん歩いて、戦って。みんなも疲れているに違いない。


「疲れてたからな。なのに、おっさんがウダウダ言い出すから。
さあ、俺たちも寝ようか」

「そうだね………ベッド足りないけどどうする?私べつに床でも寝れるよ」

「それはいけません!!」

「ツカサ殿がベッドを使ってくだされ!」

「え?あ、いや………ううん、ありがとう」


私はみんなの好意に甘えることにして、久々のベッドで眠った。
ふかふかとは言い難いが、それなりの寝心地にすぐ意識を手放したのだった。










少し早くに目が覚めた私は宿屋を出た。
畑の方から歌が聞こえる。


(ダガーの優しい声………
私も未だに聞いちゃうくらいこの曲好きだったなー)


図々しいとは思ったが………ダガーの歌に寄り添うように、独りではないという想いを込めて私も歌う。
ダガーをメインに、私がコーラスとして音を響かせる。
声が風に乗って“霧”の上を流れていくようだ。私の生きる世界と違う、清々しさが胸に残る。


(………いや、こんなことしてる場合じゃなかった。誰かに聞かれる前にやめよう)


ジタンが目を覚ますことを思い出した私はダガーの心地好い歌をBGMに、情報収集と買い出しに道具屋へ向かった。






■ジタンside



やさしい………声だ………


………誰が………歌って………


そこでようやく目が覚める。大きく伸びをしてベッドから出た。


「………聞いたことのない歌だったな………
歌ってたのは………ガーネット?いや、もう1人………

なんだ、みんなもう起きたのか………4人を呼びにいくか」


宿を出て村の中に居るであろう4人を探す。
風車を見たいと言っていたビビは簡単に見付かった。………ツカサも見たいと言っていたのに一緒ではないらしい。


「よお、ビビ!何してるんだ?」

「ジタン!ちょ、ちょっと考えごと」

「はっは〜ん。ビビ好みの女の子がいたんだな?」

「ちっちがうよ!そんなことじゃないよ!!」


リンドブルムじゃモテモテだった俺は、いつかビビの恋に役立てるんじゃないかって思った。

そういえばダガーはお姫さまだからそういうことに疎いかもしれないけど、ツカサは俺に媚びたり猫撫で声で話すみたいな面倒なことをしてこない。
………俺になんて興味がないのか、それとも相手がいるかのどっちかだろうと思う。
そこでフッと思う。何でこんなにもツカサが気になるのだろう。



「とりあえず、これからどうするか決めよう。
みんなを探してくるからビビも宿に戻ってくれるか?」

「うん、わかった」

「ところで、風車見たいって言ってたツカサは一緒じゃないのか?」

「うん。ボクが起きた時にはもういなかったよ」

「そうか………じゃ、また宿で!」


この時一緒に戻ればよかったんだって、後々後悔したんだ。





■ツカサside


宿に戻ろうとすると、丁度ジタンとダガーが出てきた。


「あれ?2人でどこか行くの?」

「ツカサ!ビビがなかなか戻ってこないから探しに行くところなの」

「ビビのやつ、風車を眺めてたんだよな」

「(もうそこまで………)私も最後に見たのは風車の前だったよ。チョコボの鳴き声するよね、あの場所」


実際見たわけではないが、拐われる瞬間を私は知っている。
とりあえずビビを最後に見た風車の前まで行ってみることにした。


シクシク………


「鳴き声………?」

「あの穴から聞こえるね………ビビ?」



………お姉ちゃん?



「やっぱりビビか!どこにいるんだ!?」


地下に閉じ込められたビビ。さっきまで人がいて出るなと言われたらしい。


「ビビ、怪我はない?今からそっちに行くから待ってて!危険を感じたら逃げるんだよ?」


うん………とビビの弱々しい声に胸が締め付けられる。
私たちは地下の入り口を探し始めた。









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