チリン………
「なんだ、今の音は………?………って、ツカサ!!こんなに冷えて!?」
「う………ジタン………?」
冷えた私の体をジタンがギュッと抱きしめて暖めてくれる。
もう大丈夫だからと離れれば、頭を優しく撫でられた。
「この先を見てくる。ここで待っていてくれ」
「ううん。私も、行きます」
「でも………何があるかわからないんだぞ」
「はい。でももう前回のように、ジタンだけを行かせるようなことはしません。仲間ですから」
魔の森では見送るしか出来なかった。
でも今は違う。
「行きましょう」
奥に進むと、とても大きな氷の塊が棒のように長く凍っている。
目の前が水飛沫の形のまま凍っているところを見ると、恐らくこれは滝だったのだろう。
その滝の上に見える黒い影。
「チッ、死んでなかったか………そのまま眠っていれば苦しまずに済んだものを………」
「この吹雪を起こしているのはお前なんだな?」
「ククク………そういうことだ………」
(最初のワルツか………)
全体的に茶色い風貌で青い大きな羽を生やした奴が、凍った滝から下りてきてまた鈴を鳴らす。
「氷の巨人、シリオン………出でよ!」
「ツカサは下がってろ!」
「いえ、戦えます!」
「わかってるさ!ツカサは魔法をメインに頼む。
詠唱中は俺に任せろ!」
氷の巨人シリオンは、その硬い爪を使ったり大きい体を使って津波を起こしたりする。
その度にケアルをし、ファイアを唱え、またケアルをした。
「ファイア!………ジタン、とどめを!!」
「ああ、いくぜっ!」
大きくジャンプし、シリオンの体を切りつけた。
激しく雄叫びをあげ、茶色い風貌の黒魔道士とシリオンを倒したのだった。
ーひとり目は倒したようでごじゃるが、他のふたりが姫を奪い返すでおじゃる!ー
「だ、誰だ?」
「さあ………でももう襲ってこないみたいだし、みんなの安否確認が先です。戻りましょう」
「そうだな。それよりもあいつら死んでないだろうな?」
「縁起でもないこと言わないでください………」
ジタンの後ろを歩き始めた私は立ち止まって上を見上げる。黒魔道士を倒したことで氷が溶けた滝の更に上。
あの2人と目が合う。
しかし特に何をするでもなく、何を言うでもなく踵を返して私はジタンの後を追った。
「あ、ジタン!ツカサ!」
「おい、貴様!いったい何が起こったのだ?」
大したことなかったと言うジタン。何もなかったと言い張る。
「………貴様、ひょっとして姫さまに何かしたのではあるまいな?」
「私が起きて隣でずっと見ててもガーネット姫に何かしてたら、すごい勇気の持ち主だと思いますけど………」
それでも止まらないスタイナーに、失礼よ!とガーネットが怒ればもう押し黙るしかなかった。
「(お姫さまって大変だな〜)先を急ぎましょう」
ジタンが何か考えていたけれど、気にせず横を通りすぎた。ようやくこの洞窟からも抜けられる。
早く太陽の下に出たかった。
「やっと“霧”の上に出られましたね!」
「おっ、あそこに村があるぜ。………な〜んかあの村って前に見たことあるような気が………」
ジタンが知ってる町かも、と早々に向かおうとするガーネットを止めた。
「ガーネットはお姫さまなんだぜ?それってどういうことかわかってんの?」
「(ああ、そっか)追っ手が来てるかもしれませんね。
みんながみんなガーネット姫の顔を知っているとは思えませんが………名前くらいは知っていると思いますよ。
あと言葉遣いとかでバレる可能性も無くはないですね」
「姫さまがコソコソする必要はない!」
スタイナーの堂々とした態度は時々羨ましくなる。
こんな柵もない高い“霧”の上にいるにも関わらず、アレクサンドリアに帰るということだけ考えているスタイナーは力強くジタンをどついた。
カランッ………
2人が喧嘩している間にジタンから落ちた短剣をガーネットが拾う。
「ふたりともおやめなさい!」
「ふたりともやめてよー!」
ガーネットとビビの声に喧嘩もピタリと止んだ。
拾った短剣を手にこの剣の名前は何かと聞く。するとしばらく考え込んだ。
「決めました!わたくしはこれからダガーと名乗ります。
ジタン、これでどうかしら?」
「上等だぜ、ダガー!
あとはそのしゃべり方だな………俺みたいにさ、くだけた感じになれば文句なしだ。
それからツカサ、お前もだ」
完全に気を抜いて眺めていた私に、突然ジタンが話を振る。
「私は別に改名しなくとも………」
「違う違う、しゃべり方だよ。もうその敬語はなしだ。ブランクたちには普通に話してただろ?」
「あ、なるほど。普段の話し方をダガーに学んでもらうんですね。
………じゃあ、ダガー。いきなりしゃべり方を変えるのは大変だと思うけど、頑張ろうね」
一通り話がまとまったところで、再び遠くに見える町を眺める。
ミステリーサークルのような物がまるで私たちを待ち構えているかのようだった。
(ダリ、か………)
自分を自分だって証明なんて私も出来ない。
でもきっと、それでいい。
君が君でいることを私がちゃんと知っているから。
(
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