氷の洞窟 2




チリン………



「なんだ、今の音は………?………って、ツカサ!!こんなに冷えて!?」

「う………ジタン………?」


冷えた私の体をジタンがギュッと抱きしめて暖めてくれる。
もう大丈夫だからと離れれば、頭を優しく撫でられた。


「この先を見てくる。ここで待っていてくれ」

「ううん。私も、行きます」

「でも………何があるかわからないんだぞ」

「はい。でももう前回のように、ジタンだけを行かせるようなことはしません。仲間ですから」


魔の森では見送るしか出来なかった。
でも今は違う。


「行きましょう」







奥に進むと、とても大きな氷の塊が棒のように長く凍っている。
目の前が水飛沫の形のまま凍っているところを見ると、恐らくこれは滝だったのだろう。
その滝の上に見える黒い影。


「チッ、死んでなかったか………そのまま眠っていれば苦しまずに済んだものを………」

「この吹雪を起こしているのはお前なんだな?」

「ククク………そういうことだ………」


(最初のワルツか………)


全体的に茶色い風貌で青い大きな羽を生やした奴が、凍った滝から下りてきてまた鈴を鳴らす。


「氷の巨人、シリオン………出でよ!」

「ツカサは下がってろ!」

「いえ、戦えます!」

「わかってるさ!ツカサは魔法をメインに頼む。
詠唱中は俺に任せろ!」


氷の巨人シリオンは、その硬い爪を使ったり大きい体を使って津波を起こしたりする。

その度にケアルをし、ファイアを唱え、またケアルをした。


「ファイア!………ジタン、とどめを!!」

「ああ、いくぜっ!」


大きくジャンプし、シリオンの体を切りつけた。
激しく雄叫びをあげ、茶色い風貌の黒魔道士とシリオンを倒したのだった。







ーひとり目は倒したようでごじゃるが、他のふたりが姫を奪い返すでおじゃる!ー



「だ、誰だ?」

「さあ………でももう襲ってこないみたいだし、みんなの安否確認が先です。戻りましょう」

「そうだな。それよりもあいつら死んでないだろうな?」

「縁起でもないこと言わないでください………」


ジタンの後ろを歩き始めた私は立ち止まって上を見上げる。黒魔道士を倒したことで氷が溶けた滝の更に上。

あの2人と目が合う。

しかし特に何をするでもなく、何を言うでもなく踵を返して私はジタンの後を追った。







「あ、ジタン!ツカサ!」

「おい、貴様!いったい何が起こったのだ?」


大したことなかったと言うジタン。何もなかったと言い張る。


「………貴様、ひょっとして姫さまに何かしたのではあるまいな?」

「私が起きて隣でずっと見ててもガーネット姫に何かしてたら、すごい勇気の持ち主だと思いますけど………」


それでも止まらないスタイナーに、失礼よ!とガーネットが怒ればもう押し黙るしかなかった。


「(お姫さまって大変だな〜)先を急ぎましょう」


ジタンが何か考えていたけれど、気にせず横を通りすぎた。ようやくこの洞窟からも抜けられる。

早く太陽の下に出たかった。







「やっと“霧”の上に出られましたね!」

「おっ、あそこに村があるぜ。………な〜んかあの村って前に見たことあるような気が………」


ジタンが知ってる町かも、と早々に向かおうとするガーネットを止めた。


「ガーネットはお姫さまなんだぜ?それってどういうことかわかってんの?」

「(ああ、そっか)追っ手が来てるかもしれませんね。
みんながみんなガーネット姫の顔を知っているとは思えませんが………名前くらいは知っていると思いますよ。
あと言葉遣いとかでバレる可能性も無くはないですね」

「姫さまがコソコソする必要はない!」


スタイナーの堂々とした態度は時々羨ましくなる。
こんな柵もない高い“霧”の上にいるにも関わらず、アレクサンドリアに帰るということだけ考えているスタイナーは力強くジタンをどついた。


カランッ………


2人が喧嘩している間にジタンから落ちた短剣をガーネットが拾う。


「ふたりともおやめなさい!」
「ふたりともやめてよー!」


ガーネットとビビの声に喧嘩もピタリと止んだ。
拾った短剣を手にこの剣の名前は何かと聞く。するとしばらく考え込んだ。


「決めました!わたくしはこれからダガーと名乗ります。
ジタン、これでどうかしら?」

「上等だぜ、ダガー!
あとはそのしゃべり方だな………俺みたいにさ、くだけた感じになれば文句なしだ。

それからツカサ、お前もだ」


完全に気を抜いて眺めていた私に、突然ジタンが話を振る。


「私は別に改名しなくとも………」

「違う違う、しゃべり方だよ。もうその敬語はなしだ。ブランクたちには普通に話してただろ?」

「あ、なるほど。普段の話し方をダガーに学んでもらうんですね。
………じゃあ、ダガー。いきなりしゃべり方を変えるのは大変だと思うけど、頑張ろうね」




一通り話がまとまったところで、再び遠くに見える町を眺める。
ミステリーサークルのような物がまるで私たちを待ち構えているかのようだった。


(ダリ、か………)







自分を自分だって証明なんて私も出来ない。


でもきっと、それでいい。




君が君でいることを私がちゃんと知っているから。






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