魔の森 3




劇場艇をジタンと共に出れば、ビビとスタイナーが待っていた。


「お姉ちゃんも一緒に行ってくれるの?」

「うん。戦えないから足は引っ張るだろうけど、アイテム係するね」

「ツカサ殿のことはビビ殿から伺ったのである!このスタイナーがお守りします故、ご安心くだされ!」

「はいはい、オッサンはガーネット姫を助けることだけ考えてくれ」


グイッとジタンに手を引っ張られた。


「どんなに危険でも必ず守る。だから俺から離れるなよ」

「あ、ありがとうございます」


改めて言われるとむず痒い気がしたけれど、ジタンらしい優しさに嬉しくなる。
しかしこれから敵の巣窟に足を踏み入れるのだ。気持ちを切り替えるために自分の頬を強くバシバシ叩く。
緊張感が走る中、私たち4人は暗い森の奥へ入っていった。

ブランクのことを考えると先に進むのが怖い。

でも「ツライから見たくない」という自分勝手な都合で物語を変えてはいけない………そんなこと、頭ではちゃんとわかっていたんだ。












人生初めてのモンスター。
見たこともない姿、形に最初は戸惑った。


「ポーション!」

「はい!」


ジタンの指示のお陰でアイテムを投げるタイミングもわかってきて、回復薬を投げる以外にも敵に向かって石を投げることを覚えた。

命を懸けて戦っているのに、石で挑もうだなんて馬鹿げている。
どこへ行っても何をしても、きっと自分の無力さを感じるのだろう。


(夢なのに最強じゃないなんて、ね)











「こいつが親玉か!」


木の根の穴をくぐった先に広い空間の中心に見えた大きいモンスター。


「貴様は一切手出しするなっ!アレクサンドリアの姫が盗賊に助けられたとあっては!」

「ひとりで手におえる相手か!!」

「ちょっと、お兄さん!お姫さまを助けることが最優先ですよね!?」

「ムムム………」

「来るぞっ、ツカサ!ビビ!!」


敵は想像以上に大きかった。まるで花のような………どう見ても人食い花という感じである。
厄介なことに、花粉を飛ばして目眩ましをしてきた。
そしてサンダーなんて魔法を使ってくる。


「ビビ、ポーション!」

「お兄さん、目薬です!」


守られてるだけなのに心臓がドキドキする。
小さいビビでさえ戦っているのに、アイテム係しか出来ない私は何をしているんだろう。

そんな状況に段々ヤケになってきて、私は大きめの石を敵に投げつけた。
敵に当たったものの相手に気付かれてしまい、ターゲットにされてしまう。


(やば!!)


「危なっかしくて、見てられねーな!ツカサ、俺が見本を見せてやる」


突然の声に振り向けばそこにはブランクがいた。
こぶし大の石を振りかぶって投げつける。


キシャャャアアアア!!!!


花の中心部にヒットして敵が身をよじる。


「(なるほど………)じゃあ出来るだけ石で援護するから、その後はブランクお願いね!」

「(何でブランク………!)ツカサ、回復も忘れないでくれよ!」

「あ、それはもちろんです!」

「(何でブランクとだけあんなに仲がいいんだ)無理して前に出るなよ」


その後は5人の連携が上手くいき、大きな敵を倒すことができた。
ガーネット姫に薬を飲ませ、もう安心かと気が抜けそうになる。


「みんな!まだ気を抜いてはダメです!」


そう叫ぶと同時に地響きが起きる。


「クッ、次はなんだ………!?」


次の瞬間、辺りに敵が続々と集まってくる。
のんびりしていたら囲まれる恐れがあった。


「逃げるが勝ちってことか!ツカサ走れ!」


逃げることに必死でこの辺のことはあまりよく覚えていない。
私の頭の中はこれから起こることでいっぱいいっぱいだったのだ。

どうすることが正解だったのだろう。
いつだって私は正解ばかり気にした。未来を知っているだけなのがこんなにもツライとは思わなかった。


「ツカサ!考え事は後だ!!
ジタン、ツカサの手を繋いでおけ!」

「もし転んでも抱き抱えてやるよ!」


追ってくる敵を倒しつつ私たちは逃げた。
走れば走るほど、何だかざわざわする感覚も強まってくる。恐怖と入り交じって足が止まりそうになるけれど、手を強く握るジタンが引っ張ってくれた。


「森の様子がおかしい………!」

「(まさか!!)森が追ってくる!みんな早く逃げて!」


お互いに感じたざわつきが同じモノだと確信した私たちは、前にいるビビたちにも聞こえるように叫ぶ。


「ブランク、姫を頼む!このままじゃ全滅するぞ!」


そして私たちはまた走り出した。
敵は絶え間なく右からも左からも追ってくる。


(もうここまで来てしまった………

どうしよう!

私はどうしたらいいんだろう!!

後で助けられるのわかってるけど………

でも………!!!!!)



「(ツカサ………また何か迷ってるのか)
ツカサ!お前が何を迷ってるか知らないが、ジタンについて行くことを決めたことは間違いじゃないハズだ!

何でついて行きたいと思ったんだ!

必ずそこには何か覚悟があっただろ?思い出せ!

今の迷いは最初の覚悟を揺るがさないか!?」


走りながら叫ぶのは大変なのに、ブランクは私に大切なことを伝えようとしてくれている。

この繋いだ手の先を見ると広がる金色。


(ジタン………

そうだ、私はこの物語を変えてはいけない!

ジタンもビビもガーネットも………これから出会う仲間も!みんなが成長しなければいけない旅になるんだから!!)


「ありがとう、ブランク!!
さっき言われたことなのにもう忘れるところだった。もう迷わないから!」



そう私が叫んだ途端に追ってくる敵が更に増えた。
走っても走っても追手との距離が縮まるような気がする。


トンッ


「え?………だめ、ブランク!!」

「なにやってんだ!ツカサを連れて走れ、ジタン!!」


押された感覚に後ろを振り返れば、追手に捕まったブランクの姿があった。逃れようともがく姿がツラくて見ていられない。

足元からは石化しているであろう色に変わっていく。
なかなか走り出せない私たちにブランクから最後の力で何か投げられた。

ジタンはすかさずキャッチをして、私の手を強く握る。
棘のような蔦も追ってくるようになり、いよいよ私の足では走りきれなくなってきていた。


「いいか、絶対離すなよ」


今まで聞いたどの声よりも低く、落ち着いたような声でジタンに言われた。
聞き返す前に体を横抱きにされ、もっと速いスピードで走る。
私を守るように出口に飛び込み、地面をゴロゴロと転がった。



振り向けば入り口が蔦でギチギチに絡まっており、森全体が完全に石化していたのだった。






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