チョコレート・ギモーブ
何やら下の階から賑やかな声がして目が覚めた。
寝過ぎてしまったのかと思い時計を見ると、予定していた時間より30分早い。
少し損をした気持ちになったけれど、賑やかな声が聞き覚えのあるものだったから着替えて階段を下りる。
「好みもあるけど、やっぱりこれじゃない?」
「ええ、さすがお姉さま!これなら食べていただけると思います!」
「いいわね、いいわね!いいセンスだと思うわ!!」
キャッキャッ!と女子3人(?)の声がキッチンから楽しそうに聞こえてきた。こんなに早く何をしているのだろう。
何かをするのであれば手伝った方がいいだろうと思い、声をかけることにした。
「おはよー、みんな何してる………」
「ツカサ!?」
「ツカサさま………!」
「ツカサちゃん!?入ったらダメよ!!」
「………へ?」
3人の背中が見えたかと思ったら、何をしているのかも見えないままキッチンを追い出された。
仕方無く外から声をかけてみる。
「あ、ごめん。みんなが楽しそうにしてるから何してるのかと思って見に来たの。手伝いが必要なのかな、って」
「まあ!ツカサさまは本当にいつもお優しくて素敵ですわ」
「でも今日はダメ!男子禁制はもちろん、今キッチンは女子だけなの!
もし何か欲しいものがあったら外から言って」
私も女子なんだけど………と言おうとすると、ヒョコッとシルビアが顔を出した。
私が何かを言う前に彼はウィンクをする。
「ツカサちゃん、楽しみにしててね」
「え、ちょ、ちょっと待って。何!?」
「あ、そうだ。もし暇なら買い出ししておいて。はい、これリストね。
結構多いからカミュでも叩き起こしてみたら?」
「カミュちゃん!?ダ、ダメよ!」
ベロニカに渡されたリストを眺めると、種類も量も確かに多い。
それでも買い出しなんていつものことだし、何がダメなのかわからずポカーンとしているとシルビアの横からセーニャが出てきた。
「グレイグさまならどうでしょう。
お休みだというのに、もう起きて訓練をしていらっしゃいましたよ」
その提案に何の違いがあるのか更に謎だったけれど、どうやらシルビアは納得したらしい。うんうんと頷いている。
「そうね、わざわざカミュちゃん起こすのも可哀想だし。グレイグなら安心だし!」
「カミュだってあんなに強いんだから安心でしょ?」
メンバー1素早くて攻撃力も高いのだから心配はいらないのに「そういう安心感じゃないのよ!!」と言われる。
その時丁度訓練を終えて戻ってきたグレイグに買い出しの同行をお願いすると、彼は快く承諾してくれた。
「グレイグがいてくれて助かったわ」
「いや、当然のことだ」
「いつもはシルビアが来てくれるんだけどね。3人で楽しそうに何か作ってたし、忙しそうだったのよ。
そこに丁度グレイグが来てくれよかった。カミュを叩き起こすところだったし」
そう話すとグレイグは額に手を当ててため息をついた。
どうしたのかと訊けば、首を横に振るだけで答えてくれない。じっと見つめると、視線の圧に負けてくれた。
「ゴリアテのやつ………カミュに妬いたな」
「ああ〜、そういうことね………」
コンコンッ
宿に帰り、買ってきた物の整理をしていると扉を叩く音がした。私を呼ぶ声からしてどうやら扉の向こうにはシルビアがいるらしい。
すぐに鍵を開けてあげると、少し甘い香りがした。
「ツカサちゃん、ハッピーバレンタイン!」
「え?」
「甘さ控えめにしたんだけど………受け取ってくれるわよね?」
そう言って渡された箱の中には一口サイズのチョコレートが入っていた。
1つ食べてみると、甘過ぎないビターなチョコの中にマシュマロがふんわり包まれている。
「お洒落………」
「今年1年も更にツカサちゃんが大好きよ。
この気持ちも受け取ってもらえるわよね?」
真っ直ぐ言ってきた彼の自信満々な顔が少し腹立たしい。
私が断るわけがないのを確信している顔だ。
「あ」
「どうしたの、ツカサちゃん?」
意地悪をするわけではないけれど、1つ思い出したことを教えてあげることにする。
「ねえ、シルビア。カミュを近付けさせないようにしてると思うんだけど………強いて言えば私、グレイグの方が好きよ」
「なんですって!?」
本当に自分は性格が悪い。
私に振り回される彼がとても好きなのだから。
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ゴリアテのイントネーションって
「盆栽」と同じなのか
「ご利益」と同じなのか
未だにわかりません。