今になっても言えないことだが、中学時代後半、俺はグレていた。らしい。いや実感はある。認めたくないだけだ。
それまではどちらかと言えば真面目。勉強は嫌いではなかったし数学など割りと得意だった。普通に部活動にも参加していた。平々凡々の毎日に疑問など抱かなかった。なのに、ある日、ぷつんと切れた。進路の話をする機会が増えてきた頃だと思う。(記憶があやふやなのは仕方ない。)どちらかと言えば母は苦手だった。そんなことを息子が思っているのを知ってか知らずかペラペラ進路について勝手に担任に話し出す。苛立つ心を必死に鎮める。だがまだどこもかしこも未発達なからだ。こころ。耐えられるはずだった。なのに無理だった。そこから反れて反れて、それはもう大惨事だった。らしい。同中だった沖田さんからは「あれは傑作的なグレ具合だったよ。」なんて誉められた。やめてください本気で殴りますよ。グーで。
そんな俺だが父には頭が上がらなかった。思ったことを口にすることが得意な母とは正反対に口数が少ない。俺は完全に父親似だ。そんな父が「自分で決めろ。」って言ってきた。抜け殻みたいに空っぽだった俺に向かって。つん、て鼻の奥が痛くなった。無表情同士、なに向き合ってんのと言う母の声は、どこか明るかった。


「えっ!山崎ってグレてたの!?」

「そ。びっくりだよねぇ」


……せっかく人が暗い歴史を精一杯きれいに纏めていたのに、なんだこの仕打ちは。俺に恨みでもあるのか沖田さん。ほらほらキラキラした目で見てますよ仔犬みたいな奴が。
長い長いため息を吐き出して、気持ちを落ち着ける。相変わらず上機嫌に俺の黒歴史を語る沖田さん。絶対俺の存在に気づいてやってる。尚更タチが悪い。で、聞いてる側にも問題が。


「で!山崎はどーしたの!」

「でっ、山崎は机と椅子を引きずって廊下に出てこう言った。"日本でおk"」

「漢文の時間でかよ〜ひーひっ、腹いてえ〜!」

「その後掃除の時に椅子を机の上に上げて"レ点で返る意味がわからん"って」

「わかるわかる〜!あーっはっはっは腹っはらがあああ〜はっはっ」


そんな馬鹿な行動と発言をした覚えはない。…はず。やっぱり記憶があやふや。もういい。無視に限る。あんなのに付き合っていたら細胞をむしり取られてハゲそうだ。
くるりと方向転換。どうしてああなったのか。今考えても明確な原因はわからない。ただ、自分が馬鹿だったのも、本気だったのも理解はできる。…苦しいが。


「山崎さん、」


ゲラゲラ笑うふたりの方からよく通る声が聞こえる。ゆっくり振り返り姿を両目と脳とで確認する。ああ、


「雪村くん」

「お昼、まだですよね」

「ああ。」

「一緒に食べましょう」


いつの間にか雪村くんの隣でサイフをチラつかせている馬鹿ふたり。今日は学食で行きましょう、なんて、あまりにやさしく笑うものだから。もしもあの時出会っていたら、俺は同じように振り返ることができただろうか。


「はやく行こうぜ〜腹減った」

「痛いとか減ったとか忙しい腹だね」

「誰のせいだ!」

「え、僕?」

「行きましょう」

「…そうだな」


今のように返事をして、並んで歩けただろうか。
「自分で決めろ。」まだまだ決めるのには時間がかかりそうだが、それもいいだろう。今は、それでも。







「……」

「……」

「……悩みすぎだよ、山崎くん」

「ラーメン…いやAセット…それともからあげ…」

「もう先に食っとこーぜ」







20100821

キラさんへ
実はグレていた山崎さんのネタを入れつつの展開とのことでした。あれっ、いいのかこれで。
企画参加ありがとうございました!

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