「きらいな音があるの」


おおきくなりすぎた緑色をした葉がやわらかく重なった音を鳴らす庭をぼんやり眺めていた。
独り言、じゃなくてれっきとした会話。のハズ。返事なんてこないからすきに話している。やっぱり独り言かもしれない。でも会話。ややこしい。
何故か隣、と言っても間が人二人分ぐらいあいているから、隣じゃない。そんな微妙な位置で座る私達は、まわりから見たら関わりたくないようなかんじ。当事者から言わせればすっごく間抜け。情けないくらい隣のバカはぽけっとしてる。眉は相変わらず吊り上がってムッとしてるけど前よりは、千鶴ちゃんを妻にするとか何とか言ってた頃よりはあの夏の葉っぱみたいにやわらかく…なってない。どっちかって言うと秋の終わりの茶色いような金色のようなカサカサした葉っぱ。髪もそんな色だし似た者同士仲良くすればいい。


「……なんだその顔は」

「え、?」

「気味が悪い」

「人の笑顔にケチつけないでよ」

「ハッ」


ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくなにあの勝ち誇った顔!そりゃあさっき変なこと考えてたからちょっとにやけてたかもしれないけど、気味悪いって酷い。おんなのこに言っていい言葉じゃない。最低、バカ、鬼。あ、鬼か。そして私も鬼。同じ鬼でも千鶴ちゃんには私みたいなこと言わないんだろうけどさ。毎回会う度に妻になれとか言われるよりはマシかな。考えただけで鳥肌がぞわって出てくる。
そういえば、で思い出す。この前風間が千鶴ちゃんのとこに行ったって天霧から聞いた。帰ってきて最初に何を言うのかと思えば千鶴ちゃんと一緒に居るっていう新選組の……藤堂、さん、よね。その人の話ばかりしてたらしい。話を聞くにはくっだらないことばっかり。暮らしている場所のことから食事や生活まで。本人たちの勝手でしょ!って殴りたくなった。天霧も天霧でなんだか藤堂さんたちのことを不憫に思ったのか今度行く時にまでには色々言っておくことがあるようですねとどこかに行った。

千鶴ちゃんの選んだ道は先が短い。風間は藤堂さんのことをなんだかんだ気に入っている。だから無意識に必要以上関わろうとしている。助けている実感はないんだろうけど。あっちも、そんな意識持ってきてる相手だったら嫌だろうしね。なんだか、わかってんのかわかってないのか。絶対にわかってない。あほでよかった。風間も。全部。


「で?」


で?って、なに?えっ、私なにか続くような会話してた?あ、会話になってたんだ。ふぅん。
態度か顔に出ていたのか察したのか。いらいらとだいぶご立腹の様子。


「きらいな音がある、」


ああ。思わずため息の様な声が出た。覚えてたんだ。ごめんなさい心底驚いていると同時に感動してしまいました。だって人の話(殆ど独り言みたいなあれ)を風間が聞いていたなんて。嬉しくなった。悔しいから言ってやらないけど。


「心臓の音」

「心臓…」

「生き物が生きていく為に重要な役割を持つ内臓のひとつ。」

「それがなんだ」

「どくどくって血を全身に廻らせてるの。太かったり細かったりする管を通して」


真ん中にいつもあったこの音は、死んだら止まる。止まった時の音を千鶴ちゃんは聞くことができないんだって。羅刹はなにも残さないで消えるから。
でもそれだと私がきらいな理由には直結しない。怪訝そうな顔をする風間に向かってにっこり。いきなりで驚いたのか一瞬だけ吊り上がり気味の眼がぱちっと開いた。秋の葉と同じ色をした髪とお揃いの、眼。きれい。すぐに風に流されて落ちてしまいそうで。ホントに、きれい。


「お前にはきらいなものが多いのだな」


ふっ、緑色をしたやわらかい笑顔に、今度は私の眼がぱっちり開いた。悔しい、悔しい。でも、この悔しいはきらいじゃない。けど、やっぱすきでもない。


「そうでもないわよ」


人二人分の距離を保ったままだったら、間を通り抜ける風は気持ちいいから。









20100821

弓さんへ
うへっやばいねこりゃあ。恋愛には発展しない鬼さんたちをへいすけルートで、とわっしょい最高じゃねえかそれっ!なテンションでずんずんやっていったら、おっほう…(ごくり)なあはあはに。すみません。
企画参加ありがとうございました!

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