生まれてこなければ、良かった。記憶の奥底に沈む後悔の念は、再び生まれ変わった今でさえ、俺の心の中に確かな居場所を作り、巣食っている。いや、仕方のないことなのかもしれない。この世でも結局、俺と千鶴は双子の兄妹のまま。俺が千鶴を手に入れることなんて、到底できないのだから。


「お父さんもお母さんもいないなんて、残念だよね、薫」


手作りのケーキを切り分けながら、千鶴はぽろりと不満を零した。両親は、急な仕事が入ってしまい、3日前から仙台へ行っている。俺は別に誕生日を親に祝ってもらいたいだの思わないから良いが、千鶴はそういうわけにはいかないらしい。2人で食べ切れやしないっていうのに、ホールのケーキを作ったのはきっと千鶴なりに抵抗感を顕にしてみた結果なのだろう。


「はい、薫。ケーキ」


「ありがとう」


目の前に置かれた大きなショートケーキの上では、蝋燭の火がゆらゆら揺れている。昔は、よく千鶴に火を吹き消すのを譲ってやっていたな、などと思い出しながら、俺は小さな灯火に息を吹きかけた。簡単に消えてしまう灯りは、何かに似ているような気がした。


「薫、ハッピーバースデー」


「千鶴も、おめでとう」


ああ、世界に生まれたのが俺と千鶴だけなら良かったのに。なんて、馬鹿らしいことを考えながら、ケーキを口に運んでいく。相変わらず、千鶴の作るケーキは美味い。甘く舌でとろける生クリームみたいに、全部溶かしてしまいたいと思うくらいだ。変に冷静な自分も、兄妹という関係も、明日も、全て消えてしまえば……。そうか、消してしまえば良いのか。


「千鶴、生クリームがついてる」


「えっ……?」


どこ?と自分で口を拭おうとする千鶴の手を掴む。生クリームのついた口の端をぺろりと舐め上げ、俺は千鶴の唇に噛みつくようなキスをした。罪悪感は、幸福感に塗り潰されていく。ふに、と柔らかい唇の感触も、生温い体温も、同じシャンプーの匂いも、こんなにもこんなにも愛しいっていうのに、どうして千鶴は俺のものになれないんだよ。俺はこんなに幸せなのに、どうして千鶴は泣くの?あの蝋燭のように、優しい兄の仮面は、ゆらゆら揺れて吹き消されてしまって、もうないんだよ。




















愛しの澪姉さんから誕生日プレゼントをいただいちゃいました(´ω`)
もうね、きゅんてね、きたんだよね、うん。
素敵小説ありがとうございました!一生の宝物にします。




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