×「あの、原田さん…」
×「んー?」
×「そろそろ離して頂けるとありがたいのですが…」
×「んー」
×千鶴からの願いは右から左。聞いているのかいないのか、先程からこの調子である。
×原田は千鶴を後ろから抱き、片手は千鶴の腹の前に。もう片手は黒髪に。指から滑り抜けてはまた絡み付ける。それを繰り返し繰り返し。
×「なんだろうな、」
×髪から指を離し両手を腹の前でしっかりと組み、肩に額を埋めた。
×言葉の続きが気になる千鶴だが、しかし、原田の様子がいつもと違うのに気づき黙って赤めの髪を撫でた。
×「(人肌恋しいときって、あるよな)」
×声には出さず、組んだ両腕に力を込めた。埋めた鼻先からは、微かに甘い薫りがした。
×「原田さん、」
×「んー?」
×「大丈夫ですよ」
×「………」
×「大丈夫」
×表情は見えないけれど、首筋からぬるい涙が流れた。制服がそれを吸い上げ、ちいさな丸い染みをつくった。
×「今だけは…先生と、呼びませんから」
×だから、泣かないで。
×千鶴が見上げた空は高すぎて、手を伸ばす気にもなれなかった。
2010/0627
蘭我明日奈さんへ
やさしいというかなんというか、雰囲気だけですね。千鶴ちゃんが男前になってしまいました。ううっ。
企画参加ありがとうございました。
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