「いらねーならオレがもらうけど?」
いつもの平助じゃないってすぐに感じた。けど、時々こうして冷たい、呆れた態度をしていることがある。
大方、察しはついている。でも、だからってそんなにすぐ君みたいに行動できる人間じゃあないんだよ。
そんなの、ただの言い訳にすぎないけど。
「見ててイラつくんだよ。あんなに態度に出すくらいならさっさとくっつけ」
「……なんで君にそんなこと言われなきゃ「どっちも待ってるだけだから」
わざわざ僕の言葉を遮ってまで言ったものは、紛れも無い事実だった。
自分の中でも千鶴ちゃんに対しての感情には気づいていた。でも、同時に浮かんだのはいつも馬鹿なことばっかりしているくせに変なとこで大人びているチビ。
いつも奪い合うように得てきたのに、今回は、千鶴ちゃんなのに。どうしてなんだろう。
(…うまく、いかない。)
三人で居たらどうしたって誰かが我慢するようなシステムになってしまう。それでも分け合って、やってきた。
今回ばかりはそうはいかないけれど。
「………平助、は?」
「オイオイ人の心配してる場合かぁ?」
なんで笑えるんだろう。
僕だったら余裕あるフリをするだけで疲れるのに。
きっとすごく疲れているんだろうな。平助は本当に本当に、馬鹿だと思う。
「オレはいいんだよ」
ほら。やっぱりこう言うと思った。
「なにそれ、身を引くって意味?」
「誰がお前の為なんかに貴重な青春投げ出すんだよ」
いつもはいじられる方のくせに今日に限ってこんなに僕らを笑うんだね。
「オレ、お前らと付き合ってきて長いけど、こんなにイラついたの初めてだった」
「でも嬉しかった。やっとかよ、って思えたし」
「お前らオレより手間かかってんな、ははっ」
叩かれた背中がじんじんと熱くなった。押されてやっと決心がついた。今だったらなにもかもうまくいきそうな気さえしている。
「ありがとう、馬鹿」
「うっせえよ、馬鹿」
この後、僕は走って千鶴ちゃんのところまで行った。可笑しいんだ。やっと気持ちが通じ合えたのに僕らから出てくる話は平助のことばかり。楽しそうに平助のことを話す彼女を見ても、悔しくない。むしろ、安心してしまっている自分が居たんだ。
(ほんと、甘いなぁ。)
苦かったのは僕の笑いだけだった。
2010/0618
沖田さんバージョン
人違い気味ですね(あ)