物心つく頃には、家族は歳の離れた姉ひとりだった。
だから必然的に気を遣っていた。遊びたい盛りの年頃のはずの姉に。ひとりでも大丈夫だと、なんでもやった。邪魔だと思われたくなくて。だから学校からの手紙なんて、滅多に出さなかった。(それは流石に怒られたけど。)
なのに、いつも夕飯の時間には姉が居た。笑ってただいまと言って、僕の髪をぼさぼさにするんだ。そんな些細なのことですら、嬉しかった。
けれど、ぎりぎりでやっているんだって、見ればわかった。お金もだけど、精神的に。幼いながらに僕は泣くのを我慢した。
甘えるなんてことをしなくなったのは、たぶんその頃からだった。



高校生活も残り僅かとなっていた。進路が決まった者も居ればまだまだこれからだという者も居る。
僕はありがたくも前者だ。さっさと決まっていればバイトができて資金が貯められる。早く出て行って、姉を女に戻してやりたい。
そんなことを考えながら瞼をゆっくりあげて、太陽を見た。やっぱり眩しくて、眼をこすった。


人のことばかり


その言葉にどきりとした。
太陽を見上げる視界の中に流れる黒髪が入ってきた。


「おはようございます」

「ん、おはよう」


僕の髪を撫でる手はそのまま。
穏やかな声が降ってきた。


「ごめん重かったでしょ」

「いいえ、」

「………なんで笑ってんの」

「すみません。総司さんが可愛かったので」

「なにそれ」


くすくす笑いながらまだ寝ぼけ眼の僕を見つめた。
この娘はいつから、こんなに綺麗に笑うようになったんだろう。見ているだけで安堵できる、なんて。


「さっきのは、君?」

「え?」

「人のことばかりって」

「なんのことですか?」


きょとんと眼を丸くして、僕を見つめる。誰だったのか、空耳だったのか。
夢かもしれないね。なんて、狡いなぁ。額に手を当てて眼を覆った。


「泣いて、いるの?」


手が重ねられた。あったかくて、小さな手。


「太陽が、眩しかっただけだよ」


あながち嘘ではないなと思った。
きっと僕はこの娘に縋っていたんだと思う。僕より、姉よりも細くて、なのにしゃんとしていた。
(…いつぶりだろう。)当分は顔、見せられないなぁ。
ありがとう。在り来りだけれどそれ以上はない言葉を心の中で告げた。





2010/0607

捺月さんへ
沖田さんと千鶴ちゃんの
ssl完成いたしました
嬉し泣き、させてあげら
れたかどうか……ですが

企画参加ありがとうござ
いました!

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