雨が降っていた。小雨ならまだしも屋根を叩く雨音が響くくらいの御丁寧な程の本降り。そうなると式典での挨拶には「生憎の雨模様となってしまいましたが」と入る。淡々と事務的に進む、退任式。別れの行事。
雪村は一生徒として座っていた。真剣に聴き入っている者も居れば、退屈そうに欠伸をしている者も居る。そんな中、教師の言葉よりも雨音が賑やかだなぁ、というあさっての思考を持ち合わせていた。


「次は、土方先生お願いします」


マイクの前に立ってありきたりなかんじで思い出やらを語っている土方を雪村はただぼんやり眺めていた。視界にはしっかりと入っているのに頭では認識できなかった。


わらっていてくれ…。


頭を下げると、拍手が雨音に勝った。「いい先生だったのにな」そんな言葉が雪村の耳には届いていた。








「(生憎の雨、なんだ)」


酷いよね。雨が降らないと困るのは自分たちなのにそんなことを考えるのって。

新しい自分の教室の机に腕を投げ出していた。窓に近い席では無いが空くらいは見える。分厚い雲から水が桜の花びらを落としていっていることだろう。

足音がすぐ近くまできた。顔を上げると永倉が立っていた。イヤホンをしていないのは雨で競馬が中止になったかららしいが、雪村は気に留めず挨拶をした。


「なにしてんだよ」
「ぼんやりと」
「……そうじゃなくて、」


永倉は頭を掻き前の席に座り向かい合うような体制をとった。机にこめかみをつけ雨を見る雪村。
言いたいことはわかっている。永倉は土方に会いに行けと言うのだろう。
しかし雪村は行く気は無かった。少し可愛がってもらっていた生徒らしい別れを既にしたつもりで満足だったからだ。


「憧れですよ。土方先生は。きっと、ずっと。」


笑って去れたはずだ。それを聞いた永倉はもうなにも言わずに雪村の頭を撫でた。その手はよく知っているもので…。いつの間にか頼りにしてしまっていた、自分の頭を覆うくらいの大きすぎる手。それと、存在。


「雨、止まねえな」
「…………止まなくても、いいです」


今までありがとうございました。
そう伝えた瞬間の土方の表情だけが雪村の中から消えないでいた。





20100412
白々


上手にさよならと言えていましたか?

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