(ロッド×リオ/はじまりの大地/Title.by 真歩さん )


かげった雲の間から、小雨がぱらぱら地上に降ってきた。誰もが等しく受ける雫が、当然のようにボクの頬に当たって弾ける。ほうぼうでたむろしていた動物達は森の奥に帰っていき、さらさらと流れる川の流れが、遠くに聞こえた。ボクは、ただ一人、此処に取り残されてしまった気分になった。
雨宿りを、しよう。傍にあったブナの木の木立の根元に、しっかりと腰を据えた。雨の降る前の空気が土の匂いと混ざって、心地良く肺に充満する。トカゲが、湿った木の皮を登る音がした。
目を細めながら空を仰いで、耳に残る童謡をハミングしてはゆらゆら身体を揺らす。夏の雨は、ほてった地面を全て濡らすような、素晴らしい恵みだ。いつもだったら雨の中で走り回っているけど、今日は落ち着いて雨を楽しんでみたくなった。そう、雨がボクに語りかけてくるから。

「……ロッド?」

聞き慣れた声が、雨音を背景に、優しく紡がれる。反射神経が反応したらしい、勢いよくボクは、声の主に飛びつく。

「リオ! キミも雨宿りに来たの?」

推定十センチメートルまで瞳と瞳が近づいて、彼女の綺麗な碧眼がぱちくりとまばたいた。

「うん。あとね、ロッドがここにいるかなあ、と思って」

恥ずかしげに言って、彼女は帽子を取って座り込む。ボクも、それにならって隣に座った。

「あんまり、濡れてないね。ボクがここにいるって、わかってたみたいだ」

「それは、ほら、ロッドはよく森で採集をしているから。今日みたいな晴れた朝は、きっといるって。でも、雨が降ってきちゃったね」

「いいんだ、夏の雨は快適だからね」

それから少し気まずくて、お互いの表情は見ずに、依然として淑やかに降り続ける雨を、眺め続けた。すると、どこからともなくふらふらと、蝶々が二匹飛んで来た。舞い散る鱗粉が青紫を拡散させて、視界に飛びこんでくる。大きな葉っぱの上側にとまった二匹は、大きく艶やかな羽に、零れそうな雨粒を背負った。
重そうにふらつく、オオムラサキ。折れそうな程薄い羽は、水をはじき返す気力を失いそうだ。

「どうするの、ロッド?」

一緒に一部始終を見ていた隣の彼女が、ボクに決断を促す。弱っている今のうちに捕まえるか、見逃すか……もしくは……。
ボクは、二匹の頭上に雨除けが出来るように、小枝の間に上手く葉をひっかけた。しばらくすると、綺麗な涙のような雨粒が背中から滑り落ち、それぞれ二枚羽をくっつけて、じっと鎮座した。オオムラサキの白いまだら模様が、忘れ難い雨粒のように、鮮やかに散って。

やがて雨が止んで雲間から光が差した時、二匹のオオムラサキはふわふわと空を飛んでいった。二人して蝶に見惚れていたものだから、いつのまにか手を繋ぎ合っていることに気づかなかった。気づいた時は、雨粒がたくさん零れるように、想いもぽろぽろ零れて、静かに地面に染みていった。


雨粒を背負う蝶々
(君の掌は、薄い羽のようだった)




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