(タオ×ヒカリ+チハヤ+キャシー)


酒場アルモニカの台所で、パスタをゆでていた。白い湯気が、顔に当たる。
外は寒々しい秋の夜が広がっているが、酒場の中は暖房と集まる人々の賑やかな話し声で、温かい場所になっていた。
そんな中で、イカスミスパゲッティを頼んだ男女が一組。
タオとヒカリの、二人だった。

台所のカウンターから室内をちらっと見ると、中央の小さなテーブルで向かい合わせになって二人が座っている。
いつも通りにこにことしながら、いや、それ以上に嬉しそうに、穏やかに何かの話をしている。

(…別に、どうでもいいけど)

タオには、よく魚を釣ってきてもらった。いつだか海パンを持ってきたことがあって、ムニエルにする、と冗談を言ったのに「それは残念です…」と真面目に落ちこんでいた。

ヒカリには、いつもかがやくミルクやタマゴをもらった。最初は、他人のくせに人の家に踏み込んできて何て礼儀知らずだろう、と思ったけど、まあ…一緒にいて悪い気はしない。

そんな二人が、楽しそうに笑っている。あの様子から見ると、付き合ってるのだろうか。いつものんびりぼけっとした二人だから、お似合いだろう。
だけど…なんだろう、もやもやする。
別に、どうでもいいはずなんだけど。

「おや、どうしたんだいチハヤ?スパゲッティはもうできたのかい?」
キャシーに後ろからのぞきこまれる。
「…!いや、何でもない。すぐ運ぶから」
「そうかい。これ、忘れ物だよ!」

そう言って、僕のおぼんにもう一皿イカスミスパゲッティを乗せる。
おぼんの上には、三皿のイカスミスパゲッティ…

「え、二人前じゃ…」
「いいからいいから♪」
ぐいぐいと背中を押されながら、僕は前のめって目当てのテーブルの前へと歩く。

「お待たせっ!」
キャシーが大きな声で言うと、話しているタオとヒカリはゆっくりと僕たちの方を見る。

「わあ、イカスミスパゲッティ美味しそうですね」ヒカリが目を輝かせる。
「流石チハヤさんの料理ですね〜」タオも感嘆の声をあげる。

「というわけで、二人とも!デート中のところすまないけど、こいつも入れてやってくれないかい」
素早くテーブルの上に三皿配置して、後ろに立って逃げようとしていた僕の肩を掴んで、二人の目前に立たせる。
「それじゃっ!後はよろしくー」

キャシーが立ち去るのを知りながら、タオとヒカリの間の抜けた顔に見つめられた僕はすっかり動けなくなってしまった。
すぐさま何か嫌味を言おうと思うものの、中々口が動かない。ああ、もうこの空気苦手なんだよね。

…悪い気は、しないけど。


「一緒に、食べましょうか」タオが僕の前の椅子を引く。
「スパゲッティ美味しいですよ〜」早速口をもごもごさせながら、ヒカリが言う。


それを見ると、先ほどまでもやもやしていた自分が何だか可笑しくて。

「…仕方ない、ね」

僕は小さな笑みをこぼしながら、二人の隣に腰かけた。



一人で食べる料理よりも、三人で食べる料理の方が美味しく感じるのは、
何故なんだろうね。




スパゲッティ三皿





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