(ユウキ×ヒカリ)


薄暗い森の中、カーンカーンと薪を割る音が響く。
手に汗をかき、手袋をしているにも関わらず斧を取り落としそうだ。薪割りマシーンになっているかの如く、俺は斧を振り下ろし続ける。一体それがどれぐらい経っただろうか。いつしか周りは薪だらけになって、とても持ち帰れそうにないような量になっていた。
(また明日来た時に、半分持って帰るか)
鞄にできるかぎり薪をつめこんだ後、思いっきり上体を後ろに反らして大きく伸びをした。やはり、長時間同じような格好で作業したため体のあちこちが悲鳴をあげている…というほど、オレの体はやわじゃないが、流石に疲れを感じた。

すると、森の奥の方で何か赤い色がちらついた。同時に、草を踏み分ける音もする。
危険な動物が出る森じゃない。オレは危機感もあまり感じずに、遠目にその様子を見守る。木のかげから、明るい赤茶色の髪がのぞいている。
リュックを背負って近づいてみると、木の向こうにいた人物がおもむろに立ちあがった。
「わぁい、いっぱいキノコとれた〜」
能天気な声と同時に、彼女が上を向く。そこには、オレの顔があった。

「こんな所でキノコ採りか、ヒカリ」
「わぁ、ユウキくん。こんにちは〜」
「こんちは」
こんな至近距離にいても気づかなかったのだろうか、それともどうでもいいのか…。ヒカリのあまりにも抜けた性格に少々呆れながらも、その手に握られた大きなキノコに興味を持った。

「それ、タムタムダケだな」
「うん、そうだよ。魔女さまにあげようと思って」
「へえ」
「この先が魔女さまの家なんだ〜」
「知ってる」
「今から、行ってきます!」
「せいぜい気をつけろよ」

オレが手を降ると、採りたてのキノコを手に持って森の中をヒカリが進んでいく。
(さっき見た赤い色は、キャミソールの紐の部分か)
彩度の低い緑の中で、鮮やかに輝く赤。
その姿を見ていると、何だか急に、追いかけたくなった。その背中に掴みかかって、思いきり驚かしたい衝動。
(追いかけてどうする?驚かせてどうする?…狼みたいに、喰っちまうか?)
思わず自問していることに気づいて、可笑しくなる。
危険な動物が、こんな所に1人いたことに。

(帰るか)
つまらない。どうせ追いかけて脅した所で、あいつが泣いたりわめいたりするとは思えないし。
そんなことでは、オレはお腹いっぱいにならない。

重いリュックを背負って歩くと、腹に石を詰められた狼の様な心地がした。






紳士な狼







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