(ウォン×ヒカリ)


とても寒い、ある冬の午後。
ハープクリニックに、青ざめた表情をしたヒカリが来た。

「すみません、カゼ薬を下さい」
頼りない微笑みで、病院の受付のインヤに話しかける。

「おや、あんたどうしたんだい。そんなひどい顔色して」
「ええ、ちょっとよくわからないんです」
「しょうがないね。調合するから、ちょっと待ってておくれ」

うなだれるヒカリを尻目に、インヤはカゼ薬を調合しようとすり鉢を手に取った。
そこに、診察室にいたウォンが受付までやってきて、カルテを手に取りながら、ヒカリの顔をちらっと見た。
通り過ぎた後、振り返って再びヒカリの顔を見た。顔に穴が開くのではないかと思うほどじーっと見つめているので、調合を始めようと思ったインヤもウォンの方を向いた。
そして、ウォンはヒカリに近づいて、小さな白い手を軽く握って持ち上げた。これにはインヤも驚いたが、ヒカリはただ不思議そうにウォンを見つめるだけだった。

「ヒカリ君、確かカゼ薬を頼んだね?」
「はい、そうです」
「…インヤ、調合をやめてくれ。ヒカリ君は、もしかしたらカゼじゃないかもしれない」
「そうかい?」
「ああ。では、ヒカリ君。診察室で待っていてくれたまえ」
「はい」

手を握られたヒカリは、そのまま診察室に連れていかれて、ベッドの端に座るように言われた。ウォンは、慌ただしく他の部屋に行ってしまった。
ぼーっとしながら、ヒカリは待っていた。診察室はよく暖房が効いているので、とても心地よい気分になった。
ウォンは、色々な物を次から次に持ってきた。桶に温かいお湯を入れて足湯をするように言ったり、生姜茶を持ってきて飲むように言ったり、厚くもこもこした上着を羽織らせてくれた。
徐々に体が温まってくるのを感じながら、ヒカリは熱い生姜茶を飲み干した。ウォンはいつもの診察用のイスに座って、その様子を眺めていた。

「どうだい、ヒカリ君。少しは楽になったかね」
「はい!最近ずっと震えが止まらなくて、目眩がしてたんです。ですが、今はとても楽になりました」
「何故、君はカゼ薬を頼んだのか、教えてくれ」
「家でカゼ薬を作って飲んだのですが全然効かなかったので、病院の薬だったら効くかな〜と…」

屈託無く言い放つヒカリを見て大きくため息をついたウォンは、眼鏡を指でおしあげて、ひと呼吸ついた。

「ヒカリ君…。それはカゼではなく、冷え性だ」
「冷え性?」
「そうだ。運動不足は原因では無いにしても、この寒さだ。もっと温かい服装をしていないと、カゼでなくてもつらい思いをするよ」

確かにヒカリの服は、薄いタートルネックとチュニックとジーンズのみだった。
「わあ、そうだったんですね。どうりでカゼ薬を飲んでも、効かないわけですね〜」

全く、君はいつも私を心配させるな…とつぶやいたウォンは、立ち上がってヒカリの隣に座った。そして、大きな手で先ほどより少々ぎこちなく、ヒカリの手を両手で包みこんだ。どちらの手も、夏の水のように優しい冷たさだった。

「ただの冷え性でも、病気につながることもある。お願いだから、体を大事にしてほしい」
願いをかけるように、両目をつぶって言う。
(かって愛した人も、病気が奪っていったのだから…)
そして、死んだ人は決して帰ってこないことも、十分に知っている。

黙って聞いていたヒカリは、それまでより一層やわらかな笑みをこぼして、
「はい、ウォン先生」
と、たった一言。いつもの声で、答えた。

つないだままだった手が、段々と温まってきた。




お大事に





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