『春雨』


「ヒカリさん。風邪をひきますよ」
 私が声をかけると、彼女はいつもの微笑みを浮かべる。
「タオさんも、風邪ひいちゃいますよ」

 春雨が柔らかに、降っている。
 私は、濡れることも気にせず、ぼんやりと海に釣り糸を垂らしていた。半歩後ろにそっと立ったヒカリさんの方を振り返ると、案の定、雨に濡れそぼったヒカリさんが、そこにいた。服の裾から小さな雫が、ぽたりぽたり、と落ちる。

「私は……いいのです。こんな日にしか、釣れない魚もいますから」
「では、私もいいです。こんな日にしか、釣れない魚もいますから」

 そうして、私の隣で、彼女は釣り糸を海に垂らす。

 静かな雨の中で、お互いの呼吸だけが聞こえる。



『落ちる白砂』


 あなたの髪から、さらさら さらさらと、白い砂が零れる。
 きらきら きらきらとして、海の香りがする。

「また砂浜でお昼寝したんですか?」
 あなたは、ばつの悪そうな顔と、手を首の後ろに回す仕草をして、眉尻をしゅんと下げる。
「はい。釣りをしていたら、うっかり……」

 手を伸ばして、その色素が薄い髪に触れると、また砂がさらさらさらさらと落ちてきて、
 まるで、砂漠から来たみたい。

 そう思うと、顔を。
 塩分を多く含んだ水が、顔を、つたっていくのだった。



『初夏』


波止場から見渡す空はとても青く、白くもくもくと盛り上がる入道雲に太陽の眩しい光があたり、濃い水色の陰影を作っている。
 海から流れてくる潮風が頬を撫で、町に新しい風を運んでくれる。
 水平線をゆらゆらと揺れる蜃気楼と、話し合うような海鳥の鳴き声。
 手の平を太陽に透かして見ると、緩やかに流れる血管は赤く、太陽は熱くまばゆく、ああ夏がやってきたのですねぇ、と、一人ごちた。

「あれ、今日も早くから釣りですか。ヒカリさん」
 いつの間にか近くの桟橋で釣りをしていた少女、を見つけ、自身の釣り道具を持って彼女に近づく。
 赤いリボンの付いた麦わら帽子を被り、かなり遠くに投げ釣りをしている彼女の横に置かれた大きなバケツには、既に5匹の魚が入っていた。
 真剣に海の遠方を見据えたヒカリさんが
「はい。あともう少しで、なつ祭ですから」と言った。



『石切り遊び』


 ぽちゃん。
 一個二個で、ぽちゃぽちゃん。
 水面に投げた石は、心地良いリズムを作る。
「あの、ヒカリさん……」
 控えめに声を出して、何やら苦笑いをしているタオさん。その手には、いつもの古い釣り竿。
「あっすみません。もしかしなくても、釣りのお邪魔でしたね?」
 すみませんも何も、たった今タオさんが釣りをしている、ということに気づいたのだから仕方ない。視界に入っていても存在が認識されないかのように、風景に溶け込んでしまっているというか……。
「まあ……やっぱり、いいです」
「はい?」
「先ほどまでは釣りを楽しもうかと思いましたが、中々釣れませんでしたので、今からあなたの遊びを見るのもいいかな、と」
 さあ投げて下さい、と力の抜けた手をひらひらと動かしてみせる彼。
「それはそれは……。ふふ、ならせっかくですから、一緒に遊びませんか」
「良いですね、是非お願いします」
 2人並んで川岸にしゃがみこみ、大きい石や小さい石を投げ込んでいく。跳ねる水音が、綺麗な響きを増した。
「こう、いつものように穏やかなのもいいですが、たまには勝負でもしましょう」
 そう言って素早く平たい石を投げると、飛び魚のように水面を四回飛ぶ。
「おや、ヒカリさんは水切りも上手なのですねぇ。私は……えいっ」
 力いっぱいタメられた後に飛ぶ石は、惜しくも三回跳ねた所で沈んでしまった。
「あらら、惜しいですね〜。でも、結構やるじゃないですか」
「子供の頃に何度か練習したので……。でも、ヒカリさんには敵いませんね」
 照れているような、謙虚な姿勢は相変わらずのようで。
「なら、私に勝てるようになりましょう。練習ですよ、今日から」
 いつか飽きる日まで。私には関係無いけれど、もっとあなたは自信を持っていいんだと、教えたくて。
「そうですか……そうですね。お世話になります、ヒカリ先生」
 遊びの先生である私は、少し誇らしいような、ちっちゃな王冠をいただいたような、くすぐったい気持ちになった。



『アリスブルーの氾濫』


 さらさらと流れるせせらぎに両手を入れて静かに水をすくうと、指の間からポタポタと雫がこぼれては散った。
「綺麗な水」
 いつのまにか腰に水がまとわりつき、私を優しく誘う。いや、半ば強引に連れ去ろうとする。灰色のベルベットを奥に揺らめかせて。
「私は、魚にはなれませんよ」
 ぬらぬら光る綺麗な鱗を、私は持っていないから。けして、餌に食いついたりなどしないから。
「ほら、人間だから涙ばかり」
 灰色の混じった、不純な涙ばかり。
 アリスブルーが氾濫を起こし、私の身体を飲み込んでいく。

「タオさん。水遊び、一緒にしませんか?」



『とある秋』


 窓の外を見やると、一枚の赤い落ち葉がひらひらと風に舞い上がり、視界から消えた。
 時刻は午後三時にも関わらず、厚い雲が世界に濃淡な青い影を落としている。
 薄暗く潮の香りがする漁協の中では橙色の電球が灯り、外の世界との違いをより一層際立たせていた。

「今日は、凄い秋風ですね」

 茶色のコートをかけた華奢な肩を落として、ヒカリが言う。
 紅色の唇に仄赤い肌は、橙色の灯りを受けて可憐に色づいていた。

「ええ、今日の潮騒は、身に沁みる激しさがあります」

 タオはしみじみとそう言いながら、耳を澄ましていた。
 茫々たる波の音は壁一枚を通しても、冷涼な風の存在を感じさせる。
 テーブルの向かい側に座るヒカリも同様に息を潜め耳を澄ました。
 はりつめるような静寂の中、隣の部屋で何やら愉快な談義をしているオズとパオの笑い声が響き、空気の緊張は途切れてしまった。
 ふいに、どちらからともなく笑顔があふれ、冷たくなっていた湯のみに緑茶を注ぎ合う。
 芳醇な香りが立ち上り、白い湯気が2人を温かく包む。
 ヒカリが湯のみを両手で持ち恐る恐る口元に運ぶと、小さな悲鳴をあげた。
「猫舌ですか」とタオが問えば、恥ずかしそうな顔で小さく「はい」と答える。
 こういう時、普段の大胆さとは裏腹に、彼女はとても照れ臭そうな仕草をする。
 それは褒められることに慣れていない少年のようで、見た目との大きなギャップに意表を突かれ、タオは思わず見入っていた。
 次第に、ヒカリの表情はいつもの落ち着きと達観した趣を取り戻し、周囲を敏感に感じとりながら黄緑の小さな水面に優しく息を吹きかけている。

「でも、こんな秋もたまにはいいですね」タオが言う。
「そうですか?」
「はい、あなたとこうしてゆっくりお茶が飲めますから」

 ああ、そうですね、とヒカリは気の抜けた返事をしたが、内心はどれだけ嬉しいか彼に気づかれていないだろうかと狼狽した。
 天気の良い日はどうしても仕事に追われてしまい、今のようにぼうっと時間を過ごすことができない。
 それでも、時々ぼうっと過ごす時間は何物にも変えがたく、幸せなひとときだ。

 風の音はいつのまにか柔らかくなり、夜の帳が降りてくる。



『フルーツイマジネーション』


 澄んだ水のように美味しい空気を、胸いっぱいに吸いこんで、
「新鮮なフルーツの上に生クリームを付けたデザートが食べたいなあ」
と、彼女は言った。
「フルーツ……ですか」
 何とも微妙な反応しか出来なかったのは、言葉と共にあの酸っぱい果肉の弾力感と内包される種を見た時の言いようのない気持ち悪さが喉元を過ぎていったからだ。
「甘酸っぱいイチゴに、夢みたいな味のメロン。柔らかくてとろけるバナナに、ほのかな甘さのモモ。極めつけはシャリシャリ爽快なリンゴ。涎が出てきちゃいますね」
 川岸で釣りをしている最中にそんなことを言うのだから、存外ヒカリさんは変わった人だ。私などはどんなに考えても、この場所では魚を食べることしか思いつけない。
「そういえば、タオさんは果物がお嫌いでしたね?」
「ええ、特に南国で採れるものが……どうしても、香りや味に慣れないといいますか」
 香水も苦手なのだが、あれはどうも南国の果物と類似する所があると思う。酸の強い香りが蔓延り自己主張が激しくて、ついしかめっ面でむせかえってしまう。
「勿体無いですね、あんなに美味しいのに」
 何の悪気もなさそうに空中を見つめながら、ため息をつくヒカリさん。本当に残念そうな表情だが、うまく自分を表現することに長けている彼女が、どこまで本気だかは私にもわからない。それは、自分にも言えることかもしれないが。
「うーん、魚とフルーツを組み合わせてみたらどうでしょう……酸っぱいレモンを焼き魚にかけたり、紫の丸いブドウを刺身の周りに盛り付けたり、オレンジの薄い切り身を煮物の中に入れてみたり」
 聞いたことのある組み合わせから想像もつかない突飛な組み合わせまでぽんぽんと出てきて、想像力にはあまり自信の無い私でも思わず咳が出てきてしまった。
「そ、それは、とても独創的なアイデアですね」
「はい、まずは斬新なビジュアルでフルーツのマイナスイメージを払拭作戦です〜」
 斬新なビジュアルでフルーツのマイナスイメージを払拭できたかどうかはともかく、ヒカリさんの真剣な表情に、嫌いなフルーツの話題といえど緩やかに笑みがこぼれる。
(……嫌いなもので盛り上がる話というものは、もっと心地の悪いものだと思っていましたが)
 こんなに楽しい気分になるのなら、フルーツの一つや二つ、笑顔で食べられるような気がしますね。
 後日、本当にヒカリさんが斬新なビジュアルを実践してくることを知らない私は、のどかな日常風景に目を細めた。



『風花』


 青が染み渡った広い空からちらちらと風花が零れてきても、忙しく急ぎ足を強いていた私が感傷に浸ることは無かった。それは、隙間風が入る小屋と同等の家の中に入ってもそうだった。

「失礼します」

 鍵のかからないドアをしっかりと閉め、寝台の横へと駆け寄る。苦しんでいるのではないかと心配していたよりその人は落ち着いていて、澄み切った瞳で真っ直ぐ私を見た。

「ヒカリさん、お身体の調子はどうですか? あなたが風邪をひいたと聞いて、居ても立ってもいられなくなって……」
「大丈夫ですよ。薬を飲んで寝ていれば、すぐに回復します」

 まるで自分は何万回も風邪をひいてきた熟練者だからというように一瞬戯けてみせ、すぐに和やかな微笑を私へと向けた。
 冷蔵庫から熟成したグリーンハーブを出し、鍋の床が見えなくなるまで入れてから並々と水を注ぐ。火をかけてぐらぐらと煮立つまでに、何か滋養のある食べ物を……と思い、ふと横にあるアイスクリーマーを見るものの、時間がかかる。お米をふやかしたお粥を作ろうと思い浮かんでも、鍋はまだ煮ている途中だ。恥と悲壮の衝動を抱えて彼女に近づくと、おかしなものでも見たように頭を揺らして彼女は笑う。

「そんなに慌てないでください。ほら、私はこの前作ったこのキャンディーをしばらく舐めていますから」

 ヒカリさんがつまんだ黒く光るまあるい玉をもっと良く見ようと更に近づくと、すかさず私の口にそのまあるい玉を入れられる。抑えられた甘さと共に独特の苦味が鼻腔を通り、コーヒーだと気づいた。そして、彼女の首にぽっと灯った、数個の風花にも。

「首、首のそれは蕁麻疹ですか、それとも汗疹でしょうか」
「あ、これはただの発疹だから、お気にせず」
「あの、首だけでもお拭きしますね」

 急いで来たにもかかわらず手持ち無沙汰なことが情けなく、とにかく何かやることを率先して動いた。冷や水に浸したタオルを絞りきり、ヒカリさんの首周りを丁寧に優しく拭いていく。襟ぐりが大きく開いた服を着ているため拭きやすいが、これでは首が冷えてしまって身体に良くないのではないか。実際、触れてみると見た目よりずっと肌が熱く、三十九度はありそうだ。

「……わざわざ、ありがとうございます」

 ゆっくりと言い、私を見上げる彼女はどこか気恥ずかしそうだ。室内灯を背にした私の下にいるから、その身体全体に暗い影が落ちる。不安そうに布団の端を握る姿は年相応かそれより若い娘のように見え、何故だか私は心から深く安堵した。全く、私は彼女を一体何だと思っているのか。風邪をひいて高熱を出して弱っている、彼女のことを。苦いコーヒーの仄かな香りは、私の口からかヒカリさんの口からか、どちらからだろう。
 その後、煮すぎてすっかり渋くなったお茶を彼女は優雅に飲んでみせたが、一緒に飲んだ私は苦笑いせざるを得ない苦さに首を垂れた。外に降り積もった深雪が、仄白く光を反射させていた。



『冬の渦中』


 細雪がぱらぱらと降り出して、濁った水のような空には真昼の月が浮かんでいる。視界に揺れる東雲色の髪は、凍てつく空気に散ってしまうのでないかと思えた。
「雪月花、ですか」
「ああ、雪に月に花……あれ、花は何処ですか?」
 その声は惚けているというよりも、本心から疑問のような声だった。花の正体がわからないのならば、その方が粋だろうと感じてあやふやに笑んでみせる。
「月が綺麗ですね」
 真っ白で小さな、真昼の月。彼女の答えは水に溶けて消え、動揺か感動か、はたまた軽蔑か。割れないシャボン玉の如き薄っぺらい膜を張って、今にも空中に浮遊していきそうで。もう一度、月が綺麗ですね、と何に頼るでもなく呟けば、色づく白肌の首をじわじわと締めていく感覚に陥る。苦しそうな顔をして、一方的な言葉に喉を詰まらせて。そんな姿を見たいわけではなかったのに、散り際の花でも、私は遠慮するわけにはいかない。知っているのに、狡い人ですね、ねえ、ヒカリさん。
 四度目の告白は、始まって終わる。



『霧と幻』


 のれんを払うように朝霧に手を振っても、前は見えるようにならない。
深い濃紺色の羽織の裾を握って、わけもなく整えてみる。麦わら帽子はいつも通り所在無げに肩に引っかかり、あくびをもらした。
 やることもなく、釣り竿を持って適当に彷徨えば、佇む町はまだ夜のままで。朝だというのに、1人で起きた慣れない異人のように感じられる。
 深い霧の中、甘い草の香りがすれちがっていったけれど、私はそれを、見て見ぬ振りをしました。



『白昼夢』


 今が朝なのか夜なのかすら、わからなくなる。これが夢なのか現実なのかすら、わかりたくないと思っている。朝と夜の間の昼を生き、夢と現実の間の白昼夢を漂いながら。
 ふと、ベンチに座る自分の周囲に、香水瓶が群がっていた。ガラスの響く音を鳴らして、彩度の高い黄色や紫色の水が瓶の中で波打つ。それらは様々な花の匂いが凝縮され、時間が経った末に腐敗したような、むせ返る臭気を各々が発散し合い混沌が生まれ、諍いでもしたのか香水瓶が次々と自ずから倒れて崩壊する。体液が混ざり合いガラスの破片が驚く自分の顔を映し、それが生々しい生命感を持つ奇妙さに吐き気を酷く催していた。逃げようと咄嗟に踏み出した足は灰色の溜まり水で滑り、前のめりに地面にうつ伏せになると、灰色の水が全て服に染み込み、頭が痛くなる。風に乗ってくる潮の香りに包まれてしまいたいと、木偶のような足を引きずり歩く。歩いた後には、腐臭を残して。
 しばらくして、倒れこむ足元に小さな花が咲いていて、花の名前に明るくないためか想像上の花だからか、名前が一向に思い浮かばなかった。小さな体で咲き綻ぶ様に、ひと時心を休めながら、既に正常に機能しない鼻腔に、一輪の甘い花の香りが鮮明に輪郭を持って浮かび上がる。自然の恵みに溢れたささやかな吐息を、もっと近くにと思い、細く軽い花の茎を優しく手折ると、声無き悲鳴が聞こえた。夜明け色の花弁が瞬時に舞い散り、茎は灰となり指の間を滑り落ちていく。輝く灰は風にのって運ばれ、何処かへ行ってしまう。
 そうしてまた、終わりの無い日を繰り返し、あなたを抱くまで諦めきれないまま、昼寝の夢に身を滅ぼしてゆく。

 終わりは、救いでもある。
続く友情は懐かしい傷跡のように疼き、小指には行き先の無い汚れた赤い糸が乱暴に千切れている。糸の形をした、寂れた枷。
 今まで見せたことのない表情をしたり、私に触れなくなったり、確実にちいさな何かが、変わっていく。あなたの本当の笑顔は一日の消費量が決まっていたのでしょうか、それを何処で使うかも考えていたのでしょうか。素早く走っていく後ろ姿ばかりが輝いてみえて、何故でしょう、あなたの顔が、笑顔の面を付けているように見えるのです。
もしかしたら、今までずっと、あなたも私がそう見えていたのかもしれません。そして、これからも。
 小指の先をがりりとかじると、行き先の無い赤い糸が地面に落ち、降り注ぐ雨に流されていく。青い傷跡に雨が染みて、身体が上手く動かせない。
 明日もまたあなたに会えるかと思うと、いっそ壊れてしまいたい、と面の下の私は願うのです。



『sideタオ』


 ふと、愛する人の声を思い出そうとすると、中々浮かび上がらないことに驚く。

 毎日聞いている柔らかな声は、はて、どんなふうであっただろうか。
 鳥のように可憐であるか、はたまた猫のように媚びているか。

 そのどちらでもなく、水泡がぱちりと弾けるような音、そう、これだった。
 鼓膜を緩やかに震わせる、不思議な音調だ。
 
 不規則に見えて規則的な発声は、深呼吸をしないのかいつも水の中にいるように、途切れ途切れにあぶくを吐き出す。

 その顔は、今にも臨終の時を迎えるように、穏やかな笑顔。
 苦しそうな素振りを、ちっとも見せない。

「タオさん」

 呼んでいる。
 泡沫が、私を呼んでいる。



『sideヒカリ』


 恋が人を臆病にさせるなら、恋なんてしなければいい。

 元々、顕示欲や性欲が並外れて薄い私は、恋なんてしなくても愛で全てを包みこんでしまいたい、と願う。
 誰かのことを思い出してさみしくなったり、誰かに会いたくてたまらなくなったり、嗚呼、そんな個人に対する執着、認めたくない。
 自分中心に動いて、そして時たま誰かを助けるぐらいが丁度いい。

 貴方は、驚くほど素直に見える強情。と思うのは、私もそうだから、同類嫌悪の念もたぶんいっぱい詰まっている。
 生まれも育ちも全然違うのに、むしろ互いの幼少期など知らない方がいいこともあるのだろう、私達の間では一度も幼少期の話など出てこないのだ。
 当たり障りの無い天気の話題と、貴方の好きな釣りの話。
 つくづく、この人は話し下手だなあと感じる。その話し方が心から離れない現象に名前を付けるなら、

「ヒカリさん」

 真っ直ぐな絆、ということで、いいですか。



『夢の浮橋』


 夢の浮橋。
 その概要は霧に霞んでいて、川の水飛沫が厳かに舞を踊っている。
 むこうがわに広がるのは茫漠とした草原で、こちらがわに広がるのは、石の一つも無い砂丘のような海浜。
 橋は頑丈な石で出来ているにも関わらず、私の歩みは綱渡りをするかのように危うい。
 身を乗りだして川を見下ろすと、蛍のような柔らかい光が何色にも輝いて、ゆらゆらと、ふわふわと、下方に向かって流れていく。
 水面に純白のドレスが花のように広がって、赤い花束を胸元に抱いて、彼女が流れてくる。髪には白い花のコサージュが二つ、揺らめいて笑うものだから、目が離せなくなる。
 その顔は屍体の如く青ざめ、所々に光る雫は真珠だろうか、それとも……。
 赤と青が混ざった紫色の唇が微かに開き、禁じられし言葉を、紡ぐ。

『……誓いません』

 濡れた瞳が、閉ざされる。
 途端に、夢の浮橋は藻屑となっていき、逃げようとするにも、この足は動くことが出来ず、頭を抱えて膝から崩れ落ちると、そこは、誰もいない、深海だった。



『彷徨い人』


 月も雲に隠れてしまったこんな恐ろしい夜でも、きっと彼女は彷徨っている。ずっとずっと、彷徨っている。
 冷えた草履に足をつっかけ、底知れぬ闇の道を抜け、彷徨う彼女を探している。
 きっと今ごろ、雲に透けるまんまるのお月様を眺めているし、落とし穴のような崖に吸い寄せられている。ずっとずっと、彷徨っている。
 その姿を見つけたなら、ヒカリさんヒカリさん、もうお家にお帰りなさい、と言う。彼女は、タオさんタオさん、大丈夫ですよ、と逃げる。
 何故、何故ですかと聞けば、だって、ずっとずっと、お家に帰ってもお外にいても一人ですから、と。
 月も雲に隠れてしまったこんな恐ろしい夜でも、きっと彼女は彷徨っている。彼女を探す私も、ずっとずっと彷徨っている。



『笑顔』


「あれ、タオさん。今日はいつにも増して良い笑顔をしてますね」
「そうですか? それは、少し照れますね」
「何か良いことがあったんですか?」
「はい。今日は朝から、ヒカリさんに会えました」
「それが良いこと、なんですね」
「は、はい」
「うーん」
(い、嫌がられて、いるのでしょうか……そうですね、私のにやついた顔とか気持ち悪いですよね、どうしましょう)
「ごめんね、タオさん」
「え?」
「今日は雨で畑に水やりをしなくてよかったから早く来れましたけど、晴天の日は中々朝早くは来れないんですよ」
「……あ」
「残念です、毎朝その笑顔が見られたら、私も嬉しいんだけど。そのかわり、今まで通り午後に美味しいお茶を毎日持っていきますので、一緒にお茶しましょうね」
「……」
「? どうしましたか、タオさん。俯いたりして」
「いえ、その……こちらこそ、すみません。嬉しくて、顔がにやけすぎているかと思います……」
「ふふ、そうですか。それは良いことです」



『夜更かしの共犯者』


「珍しいですね、こんな夜中にタオさんが起きているなんて」
「おや、そんなことはないですよ〜。結構眠れなくて、うとうとしながら窓から月を眺めている時もありますし」
「そうなんですか? 意外です、タオさんはぐっすりすやすやとお眠りになっている印象が……」
「それは、いつも私が昼寝をしていることからでしょうか。逆に昼寝をしているので、夜は目が冴えることも多いですね。恥ずかしながら」
「ふふ、なんだかタオさんらしいです。夜中に釣りがしたくて家を抜け出したという子供の頃の武勇伝も聞きましたし、夜のタオさんはすごいですねぇ」
「夜の、私……」
「どうしました?」
「い、いえ、なんでもないです」

「月見祭で私と一緒に月を見て、タオさんこう言ってましたよね。夜に一人で月を見るのはさみしいって」
「ええ、言いましたね」
「やはり、さみしいんですか?」
「はい。それはもう、とても」
「まあ、夜中にパオくんを誘うのも気が引けそうですしね〜」
「ふふ、そうですねぇ〜。ヒカリさんはお一人でも、さみしくないのですか?」
「大丈夫です。一人でいるのも、わりかし悪くないですしね」
「そうですか。そんなヒカリさんがもしもさみしいと思った時に、隣にいられるような人間になりたいです」
「……ありがとうございます。さあ、晩酌を注ぎましょう。今宵の月見は、もう少し時間がかかりそうですから」
「申し訳ございません、遅くなってしまって」
「いえいえ、遠慮はご無用です。しかし、オズさんやパオくんが心配しながら待っているでしょうから、お互い程々にしましょうね」
「叔父やパオが?」
「全て予測ですが。オズさんにとってタオさんは、まだまだ可愛い子供でしょう?」
「子供……ふふ、そうですねぇ。歳は幾つか取りましたが、まだまだヒカリさんから見ても可愛い子供に見えるのでは、そうに違いないでしょう」
「安心してください。私もまだまだ子供なので、叱られる時も一緒ですよ。今度は」
「そうですか。それはとても、嬉しいです。……きっと、さみしさの、正反対だと思います」



『瞳孔に映る人』


「人は好きな人のことを見ていると、もっとその人のことを見ようとして瞳孔が開くらしいと聞きましたが、タオさんご存知ですか〜?」
「いえ、知りませんね。ヒカリさんは物知りですねぇ〜」
「…………」
「……あ、あの? ええと、私の顔に何か付いてますか?」
「うん、お鼻とお目目とお口がくっついてる。でも、タオさんの目、よく見えませんね」
「この目ですか。叔父とパオも私とよく似た目元ですから、きっと遺伝なのでしょう」
「どの角度から見てもあんまり見えないなあ。うーん、どうしよう……」
「では、もっと……近くで見てみますか?」
「そうですね。近くならよく見えるはずです。お顔の前、失礼しますよ」
「どうぞ」
「……あっ、見えました。黄緑の、綺麗な瞳。えっと、瞳孔は……」
「……瞳孔が大きく開いてると、とても愛らしく見えますね」
「え?」
「何でもありませんよ〜。さて、ヒカリさん。私の瞳孔は、いかがでしたか?」



『名を呼ぶ』


 ヒカリさんと呼ぶごとに、甘露の雫が海に落ちる。
 ヒカリさんと呼ぶごとに、何処かでコスモスの蕾が綻ぶ。
 ヒカリさんと呼ぶごとに、夢が現実になる。

 あんまりそれが甘美だから、呼びすぎるのはいけないと水が囁く。

 タオさんと呼ばれるごとに、海が空を飲み込む。
 タオさんと呼ばれるごとに、誰かがコスモスの花弁を食む。
 タオさんと呼ばれるごとに、現実が夢になる。

 終いにはその小さな頭を胸に収め、白砂に二人埋められてみたくなる。



『ハッピーバレンタイン』


 檜肌色の四角い物体が、空間に浮遊している。大きいものから小さいものまで、正方形から長方形のものまで、浮遊している。そして、土煙のような重たい粉が辺りに飛び散り、そこら一帯が檜肌色になるのもそう遠くないだろう。
改めて土の臭いを意識した事など無かったが、足をついているぬかるんだ地面から立ち上る芳香は異様に甘く、ぬかるみの原因は水ではなくガムシロップなのではと疑ってしまう程だ。いや、本当にそうかもしれない。想像上の土は苦いはずだが、確かカカオも苦いはずだ。その苦さは、一体何が違うのだろう?
「甘いチョコレートと苦いチョコレート、どっちが良いですか?」
 常識観念が麻痺して、地面を覆うそれを手に取って舐めようとした私に、誰かが声をかけた。カカオと焼け焦げた生地の欠片と少々の退屈の苦さと、砂糖と蜂蜜とたっぷりの悦楽の甘さが口に広がり、両手のひらに絡みつく檜肌色が小豆色、鳶色、錆色に移ろい終には優しい曙色になった。
 甘くて苦い、あなたをお一つ。霞む遠景で蠢く綿菓子を見送りながら、重たい茶色の粉を頭から被る。先程まで四角かった物体はどろどろに溶けて、流れて、渦巻いて、私の足元を勢いよく掬い、形が全部無くなった。

「タオさん、日頃の感謝の気持ちとして、このチョコレートケーキをどうぞ」
 曙色の彼女の潤んだ瞳に見つめられ、今朝見た奇妙で示唆的な夢に思いを馳せる。一口それを食べただけなのに、嗚呼、私の世界がチョコレートになってしまった。



『mollycoddle』


 泣き虫弱虫意気地無し。呪文のように繰り返して、脳髄を追い詰めていく言葉の螺旋。

「タオさん、もっと我が儘になってもいいんですよ」

 抜け出るのが惜しい布団の温もりのような、ヒカリさんの声。

「……そうやって、甘やかさないでください。私のことを」

 甘えた果てには、底の見えない蟻地獄。もがく手段さえも、砂に埋れて、忘れて。

「でも、タオさん。私、あなたが好きだから」

 もっと甘えていいんですよ、と。叱りも惑いも呆れもせず、超然と。

 彼女の声は、幼き頃の空っぽな記憶をぐわんぐわんと震わせ、大人の私を何処かに追いやってしまう。あなたの前にいる私は、まるで小さな子供のようで、全ての理屈を放り投げてしまう。
 嗚呼、泣き虫弱虫意気地無し。いつからこんな風になったのだろう。それもこれも、あなたが私の目の前にいるから。隣で手を繋いでいてくれるから。その甘さに、沈んで、沈んで。
「私も、あなたが好きです」
 余りの甘さに、麻痺してしまいそうです。



『唸る渇望』


 激しい嵐の夜でした。小さな雨の粒が窓を叩きつけています。風は悲しそうな唸り声をあげています。部屋の中より仄明るい外の景色は、小さく切り取られたぼんやりと煙る夢の世界のように映りました。
 枕に髪が擦れる音、寝台の脚が軋む音。囁くため息とこぼれ落ちた雫。全ては夢なのでしょうか。それとも、思い出なのでしょうか。投げだされた手が帯びる熱を感じるのは、ただ彼一人だけ。この熱を分かち合った人は、此処にはいません。朦朧とする意識が繰り返す、古びた記憶だけが残っていました。
 身の程知らずは誰にも気づかれないように、静かに泣いていました。それで、さらに情けないと思いました。彼は本当に莫迦だと彼自身が信じきっていて、この時も後悔ばかりしていました。
 人生の幸せが音も無く去っていく姿を、引き留めることも出来ませんでした。挨拶をすることしか、出来ないと感じました。安否を思いやる言葉に彼の利己心が滲み出して、新しい言葉を紡ぐことが恐ろしくなりました。
 凄まじい嵐は、部屋の中の静寂を一層際立たせます。家族の寝息が聞こえる狭い家の中、彼は思いました。
(また願いが叶うなら、何度でもあなたとの夢が見たい)
 夢が覚めるならば、何度でも繰り返し忘れない夢を見ましょう。あなたの心がここにある夢を見ましょう。あなたの熱がここにある夢を見ましょう。たとえ、本当はあなたの心も熱も、余所にあるのだとしても。
(……ヒカリ、さん)
 夢の中で何度も呼んだ、その名前を繰り返して。


[newpage]
『人間の限界』


 青と金が交わる地平線の果ては、水面に滲む絵の具のように綺麗だった。湿った空気が辺りを包み込み、雨の気配を感じるからだろうか、朝のしじまがただそこに存在し、鳥の鳴き声さえも聞こえない。
 草原にさしかかる前の道端に咲く、小さな薄桃色のコスモスを手折ろうとして、ふと思いとどまった。ここに残していこう。そうすれば、帰り道で私を出迎えてくれるだろうから。頼りない温情のかすがいとしよう。
 踏み固められたあぜ道をこのままずっと進んでいくと、いつか遠い場所に出られるかもしれないと期待する。そこには知らないものや新しいものがたくさんたくさんあって、とても自分のことなんて構っていられない程に忙しくなれる。
 香しい香りに頭をあげると、開墾されたばかりの土地いっぱいにコスモス畑が広がっていた。淡く濃く、尾ひれをひらめかせ海藻の間を泳ぐ魚のように、掴みどころのない色彩だった。
 ここには立派な一軒家、いや、かなり寂れてはいるが人が住む家があるのに、ここは家ではない。物干し竿に吊るされた軍手、庭に残ったいくつもの足跡、畑のわきに置かれたじょうろ。どれも無味乾燥としていて、私は勝手に疎外感を感じながら、丁寧に作りこんだ勇気をあばら骨の隙間からぼろぼろと零していってしまう。
 たくさんのものから見たあなたがいて、その数だけあなたがいる。星の数ほどの理由があって、空気の量ほどの結果がある。知らないものや新しいものに囲まれて、自分のことに構っていられないほど忙しくて、そうして、あなたは今も同じ様に生きている。
 ひとりぼっちの私に帰り道は冷たく厳しく、同じ景色が続く度に焦燥がこびついて離れない。林間の奥の奥の方から、仲睦まじい狸のつがいがこちらを気遣わしげに見ているのではないかと思うと、頭がじわじわと痛む。
 半ば縋りつく格好で、一輪の可憐なコスモスの前に倒れこむ。否、可憐だったコスモスの前、だ。ほっそりと伸びたしなやかな茎の中ほどから、あまりに呆気なくぽっきりと折れていて、維管束から汁が滲んだその断面を、まざまざと私に見せつけてくる。
 動揺で乱れる脈拍が先走り、残された足跡を執拗に追いかける。住人が滅多に立ち入らない辺境の浜辺は海藻に塗れ、ウニと桜貝が散乱している。波打ち際で躍る人影は、水面に花びらを一枚一枚浮かべている。摘まんでは落ち、摘まんでは落ちて。
「何……してるんですか?」
 背中でクロスした赤い生地が歪な十字架のように視界をちらつき、汗が流れる掌を彼女に向けたまま、糸が絡まったかのように動けない。
「お花の供養です〜……なんて、ただの花占いですよ」
 莞爾として微笑む顔は腹立たしいほどに完璧で、最後の花びら一枚が空中を舞う。
 ひとりぼっちの一輪の花が。海に、静かに、消えていった。花びら一枚一枚にさえ、意味を持って。それはコスモス畑が持ってない、確かな意志だった。己だけを見つめて遂げた、たった一つの結果だった。
 地平線の果てにも、遠い場所が存在する。知らないものや新しいものが、いっぱいある。自分には出来ないことが、一輪の花には出来てしまう。彼女も私も、理解してしまった。
「さあ、今日も一日の始まりですよ、タオさん。雨の日にやることを、やらなくてはいけませんね」
 柔らかな自嘲を呟いてヒカリさんが私の横を通り過ぎていく間、私は開かれていた掌を固く固く閉じ、震える自身の背中を抑えることもできなかった。



『波打ち際』


 きらめく水溜りの道を、泥だらけのブーツで歩いた。空を映す水面は歪んで濁って、ブーツの内部に染みだした水が、酷く生温い。ハミングをしながら、水溜りの道を汚していく。
 水が溜まったブーツは、さながら足の水槽のようだ。歩く度に、ぽちゃぽちゃと愉快な音が鳴る。地面には、雫を飛び散らした足跡が残る。
「おや、ヒカリさん、靴がびしょ濡れじゃないですか」
 すれちがったタオさんに一言言われて「そう、足の水槽なんです」と一言返した。
「はあ」とタオさんは空気が抜けた風船みたいな返事をして、何を咎めるでもなく町の中へと歩いていった。私はというと、予定していた通り、海に会いに行った。
「こんにちは」
 海に挨拶をすると、海もこんにちは、と返してくれる。あとはもう言葉なんて使わずに、砂遊びをしたり追いかけっこをしたり、ひたすらに海と遊ぶ。春の海は柔らかくてほの冷たく、まどろみを連れ去ってくれる。永遠のお友達だ。
「ヒカリさんヒカリさん」
 薄暮の景色の中で、タオさんが私を呼ぶ。手には珊瑚色のミュールを持ち、それを差し出して見せる。
「よければ、これ、履いてください」
 細い紐で飾られたミュールは見るからに頼りなく、砂上を歩けば足を取られてしまいそうだと思った。どうして長靴じゃないんだろう。タオさんの立派な長靴と華奢なミュールを比べて、私はなんだかおかしくなってきた。
「ありがとうございます」
 恭しく礼をした私は、咄嗟に波打ち際を駆けてみた。あっという間に足は砂に取られ、あっけなく体が濡れた浜に横たわる。
「ヒカリさん! 大丈夫ですか? どこか痛いところは?」
 急ぎ足で来たタオさんが、私へと手を伸ばす。それが天上から垂らされた蜘蛛の糸であるかのように。惨めに転がる私へと、その手を伸ばす。
「……どこだか、わかりません」
 優しく掴んだその手を軽く引っ張ると、タオさんは崩れ落ちた。華奢なミュールと同じように、あっさりと。
「私を、からかってるんですか、ヒカリさん」
「そうなんですか? タオさんが私をからかっているんだと思いました」
「……ええと、その、何といえばいいのか……」
「ミュール、ありがとうございます」
 今ごろ私の泥だらけのブーツは、波に綺麗に洗われてしまっているだろう。今もほら、私の右足からミュールが波に攫われてしまった。
「……すみません」
 ぼそり、と謝ったタオさんの本心はそんな言葉じゃないだろうに、それ以上声に出すのは何故だかとても辛そうだった。他人事だと思って、私はぼんやりとタオさんを眺めていた。よしよし、とその頭を撫でたら、タオさんは私にとって子供のような人ではないと気づいてしまうだろう。ああ、そんなに泣きそうに私を見て、本当は全然謝る必要なんてないのに。可愛いタオさん。もうとっくに私はあなたのものなのに。
「ミュールで転んだおかげで、私、こうしてタオさんとキスができるんですから」
 怖がらなくていいって、教えてあげよう。祈るような、キスをしよう。







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