発端は、説教に些か飽きたカリンの一言だった。 もはや狙っているとしか思えないユキちゃんのマカロン狙撃を喰らい、また君は、と少しばかりの説教をしている時だった。 話を逸らすな、と念を押すがどうやら話にあっていたらしい。自覚はないが。 「レイ様ってレミ君の事本当に好きですよね!」 それのどこが話に沿った話なんだ、と言おうとしたがそれより先にユキちゃんの賛同の声があがった。 「あ、それ、私も思いました!」 ねー、と顔を見合わせやっぱり?などと言い合う。はて、どこらへんを見て、聞いて、そう思ったのか。納得がいかない。確かにレミ君には何か殊勝な物を感じる。それこそがモヤモヤの正体だろう、と、そう結論づけたばかりだと言うのに。 「全く…君たちはどこをどう見たらそんな考えに至るんだ。」 「そんなの…簡単じゃないですか」 「だってレイ様、事あるごとにレミ君と比較するんですもん。レミ君だったら、って。」 「自覚はなかったが…そうなのか。しかしそれだけで好きだ、なんて結論づけるのは早計すぎるな。」 「もちろんそれだけじゃないですよ!お説教の時以外もレミ君レミ君言ってます!」 「なっ…、」 「きっと自覚してないだけで…レイ様はレミ君の事が好きなんです。」 「ショックなのはわかります…でも、冴木さ…」 「そうだったのか!!」 「…え?」 「こ、この胸のモヤモヤ…こ、これこそが恋…!無意識にレミ君の名前をだしてしまうのも、そうか僕はレミ君の事が好きだったのか…!」 「あの、レイ様…?」 「ありがとうカリン、ユキちゃん!ようやく自分の気持ちを理解したよ。この歳まで恋愛の真似事一つしてこなかったせいかな、自分の事も疎くなってしまったようだ。いやはや僕はまだまだ若いな!」 「あの、ほ、本気にしないでください。ちょっとした悪ふざけというか…」 「ああ、マカロンの事ならもう気にしていないよ。あんなに怒って悪かったね」 「あ、いや、そうじゃなくて…」 「ああ、清々しいよ!気分が晴れ晴れする。カリンとユキちゃん。見ててくれ。絶対にレミ君を僕に惚れさせてみせよう!」 遅ばせながら、彼らの状況を説明しよう。館唯一の階段にて、冴木が自室へ戻ろうと階段を上っていると、階段前でつまづいたユキが持っていたマカロンが冴木に降りかかったのだ。そう、ここは、エントランス。食堂にも、個室にもよく響く場所だ。 「…レイ様ごめんなさい。レミ君、頑張れ…」 皆が聞いているとは露知らず、絶対落とすと息巻いている冴木に、カリンとユキはどうしたものかと顔を見合わせた。
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